３階では、集められた全員が解放され、彼らが二人組に奪われた金品をシジンから受け取る為、にソデヨンが階下へ向かっていた。
　発表会は再会されたが、皆気が動転していてその場から動けない様子だった。
　プラザの住民たちは多少の襲撃なら慣れていたので、ヨンホ食堂親子とトトは料理を振る舞い、ミリはピアノを演奏し、他の面々もそれを手伝うなどして、皆を和ませようと努めた。
　住民のそんな優しさに、参加者の心は少しずつ落ちつきを取り戻していった。
　一方、藁ではニット帽の周りを、アン、チョ、ソクド、スナム、チョルウク、タク、チャヨンそしてヴィンツェンツォが囲むように立っていた。
「こいつの顔に見覚えがあるんだが・・・」
　ヴィンツェンツォが喉まで出かかっているこの男の正体を皆が知りたがっていた。
「あなたが覚えてるってことは」
「きっと悪い奴だ」
「でも、思い出せないってことは・・・」
「こいつしょうもない悪事を働いてたんじゃ？」
　皆が口々に話す。しかし、ヴィンツェンツォは思い出せない。
「う・・・」
「気がついたみたいよ！」
　ニット帽が目を覚ました。
　ヴィンツェンツォは、
「お前、どこかで会ったよな？」
　と、男に尋ねるが、
「男にナンパされてもうれしかねえな。」
　ニット帽は鼻にもかけない。
　ヴィンツェンツォは、ニット帽の胸倉を掴み、
「お前に興味は無い。答えろ。」
　と、返した。フン、とニット帽はヴィンツェンツォから目を反らす。視界に入った彼の左手首を見るなり、
「それ、めちゃくちゃ高ぇ時計だろう！それに・・・どこの香水だ？ん、待てよ・・・時計・・・香水・・・」
　ニット帽が記憶の糸を手繰り寄せている間に、
「そうか、お前か。仁川空港のタクシ―強盗は！もう一人もそうだな！」
　ヴィンツェンツォの記憶が鮮やかによみがえってしまった。
「あの時、入国したばかりの俺に韓国の治安の悪さを教えてくれて感謝している。その後の経験でとても役に立ったからな。」
「え、えっと・・・その・・・」
「お礼をしなくちゃな。俺が君にしてもらった５倍くらいにして返してやらないと。」
「そんな・・・めっそうもない・・・」
「俺の気が済まないんだ。遠慮するな。」
「言葉だけ聞くと心温まるわね。」
「ええ、ですが、コンシリエーレの顔見てくだいよ。」
「笑顔なのに・・・」
「怖すぎる！」
　皆がこの後ニット帽に降りかかるであろう不幸を想像し、久しぶりのノワール沙汰の予感に打ち震えていると、
「パパ！」
　ジェナが飛び込んできた。
「ジェナ、どうしたんだい？」
　ジェナを優しく抱きとめると、先ほどとはまるで別人の声色でヴィンツェンツォは言った。
「発表会始まったの！次！私の番だから！早く！ママも！」
　そう言って、ジェナはヴィンツェンツォとチャヨンをゴーステップへと連れ出していった。
　残された面々は、
「・・・お前、命拾いしたな。」
「もうすぐ警察来るから、保護してもらえ。」
　ガクガク震え涙を流すニット帽を、皆で励ました。