ゴーステップから飛び出した男は、地下駐車場へ続く階段を駆け下りながら奪い取った金品の中から車のキーを一つ取り出した。
「なんでもいい！なんでもいいから車に乗って・・・」
　男は取り出したキーのボタンを押し、ピッピッと解錠の合図を送る車に向かって走り出そうとしたが、
「車に乗って逃げてもそろそろ警察が来る頃だ。」
　その声と共に柱の陰から現れたのは、先ほど自分を押さえつけていた男ではないか。
「お、お前はさっき上にいたじゃないか！」
「おやおや、誰と間違えてるんだろう。私は３階へは行っていない。」
「嘘だ！じゃあ、上にいたのは・・・ゆ、幽霊！！！」
「ひどいことを。」
「く、来るな！じゃあお前が幽霊か？？！」
「うーん、だとしたらどうしますか？」
「そ、そんな・・・幽霊・・・おれ、ムリ・・・・・・・・」
　男はそう言うと、気を失い駐車場じゅうに響く程の音を立てて倒れてしまった。
「重装備で来たのに、まあ、始末書の枚数がグッと減るから良しとしよう。」
　横たわる男の鼻と口から呼気が漏れているのを確認すると、シジンは男の手足を縛り、男が持っていた金品の入った袋を取り返すと、１階の空きテナントへ放り込んだ。
　そして、テナントの出入口に面した通路の壁にもたれるように座り、
「さあ、上は片付いたのかな。」
　と、後方の窓から見える吹き抜けに切り取られた月を見上げた。