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Gatto che corre nel cielo notturno

 所変わってイタリアは発表会前日の23:00
 ヴィンチェンツォはパオロの指示の元、深い森の奥に置かれたスクラップ場にある事務所の前にいた。
「・・・カサノの者だ。」
 彼が扉の前でインターホン越しに言い放つと、
「入れ」
 声と共にドアの施錠が解かれた。
 用心深く中へ入るヴィンツェンツォを待ち構えていたのは、事務所の応接セットの1人がけソファに脚を組み深々と座る男と、その両側に大柄な男が1人ずつ。
 ヴィンツェンツォが自分の目の前まで来たところで、ソファの男は組んだ脚の上で頬杖をつきながら、
「答えを聞かせてくれ、カサノの者。」
 と、睨めつけるようにヴィンツェンツォを見上げた。
 ヴィンツェンツォは、ため息を一つつくと答えた。
「カサノ家の答えはNoだ。」
「何故だ?この商いは地球上で戦争がある限り一生安泰なのに。いや、それとももう既に別の武器商人と契約を結んでいるのか?」
「カサノ家は戦争屋じゃない。そう考えているならそれはお前の調査不足だ。カサノ家は放蕩息子で手一杯だからな。」
「ははっ。パオロの事か。確かにあいつは器が小さすぎる。」
 ソファの男は大声で笑ったがすぐに真顔になり、ソファから立ち上がると、
「お前はどうだ?このままカサノ家の掃除屋として終えるつもりか?カサノ家の影の頭領さんよ。」
 と、ヴィンに詰め寄った

「影の頭領か・・・」
 左の口角を上げながらヴィンは下を向いたが、
「俺は元々内気な性分でね。」
 と、小首を傾げ相手を睨めつけ返しながら答えた。
 男は、
「ハハハ!面白い奴だ。ますます隅に置いておけない。」
 と腹を抱えてヴィンを見上げていたが、
「ただ、このまま帰らせる訳にはいかないな。」
 そう言うと、両側の男に顎で指示を出した。
 怯むことなくヴィンツェンツォも
「俺も土産無しで帰れない。」
 と言うや否や左の男、右の男、と順に相手の攻撃を交わしながら向こうの肩や首に腕を回し脱臼、骨折、そして失神させた。
「駆け出しのチンピラ風情がカサノ家に寄生しようとはな。威勢は買うがお粗末すぎる。」
 ヴィンツェンツォはそう言うと、ソファの男の額に銃口を突き付けた。
 しかし、
「お粗末なのはお前の方だよ。」
 男がニヤッと笑った瞬間、ヴィンツェンツォは背中に気配を感じた。
(背後を取られた?)
 即座に後方を確認するが 瞬間、無情にも銃声が森じゅうに響き渡った。
「そんな、なぜだ・・・」
 ハッ、とヴィンツェンツォがまぶたを開くと、そこには銃弾に倒れる男がいた。先程の声はこの男の声だったのだ。
「いや、申し訳ない…私も手ぶらで帰れない身なので。」
 ヴィンツェンツォの背後から、この現状に似つかわしくないほどの爽やかな声がした。声の持ち主は、
「ご無事で何よりです。ビンセンジョさん。」
 と、これまた爽やかな笑顔をヴィンツェンツォに向けた。
「君は、何者だ?」
 片方の眉根を釣り上げながらヴィンツェンツォは尋ねたが、
(この顔、どこかで見たことがある・・・しかし何処で。)
 と、混乱していた。
 爽やかな男性は、
「わぁ・・・ほんとうにそっくりだ。」
 と、ヴィンツェンツォの顔を覗き込んだ


 余りに顔を見つめてくる上に、
「生き別れの双子か何かかな?変な感じだ。」
 と、独り言を続ける彼に、
「君は何者だ。」
 と、ヴィンツェンツォはもう一度尋ねた。
 その言葉で我に返った彼はヴィンから飛び退くと、
「これは大変失礼を!私は韓国の陸軍所属のユ・シジンと申します!」
 やっと自己紹介を始めた。
「韓国の軍人?」
 なぜこんな所に、と顔に出すヴィンツェンツォに対して
「祖国から命を受けて来ました!祖国が貴方に恩返しをしたいと!国家情報院長と局長直々の依頼です!」
 と、これまたハキハキと答えるシジン。
「院長と局長が?・・・心当たりが無いな。それにさっきから君が言う『似ている』って誰にだ?」
「覚えていないのですか?院長の名前は私も思い出せませんが・・・局長の名前は確か、アン・ギソクです。それから、似ているというのは、私です。お2人と極秘で作戦会議をしている時に、アンさんが僕を見るなり泣き出して・・・どうしたのかと尋ねたら、わたしが貴方にとてもよく似ていると。」
「アン君か…(でもどうして俺の置かれた状況を把握していたんだろうか) それから・・・」
 と、今度はヴィンツェンツォがシジンの顔をしげしげと見つめた。
「俺はこんな風に笑わないが・・・確かに似ているな。」
「でしょう?私も資料でお顔を確認した時に驚きましたよ!」
「とにかく助かった。俺は帰らせてもうよ。」
「帰ると言いますと、どちらに?」
「家だよ。マルタの。」
 ヴィンツェンツォの言葉を受けてシジンは、
「では、まだわたしは任務の途中ですね。」
 と返す、ヴィンツェンツォは、
「ん?そうか、じゃあまたいつか。」
 と、別れようとしたが
「いいえ、ご同行願います!」
 シジンはヴィンツェンツォの肩に腕を回し、不器用なウインクをすると、
「こちらビッグボス。対象の身柄を確保した。これより帰還する。」
 と、インカムの向こうに報告をした。
 状況が全く読めないヴィンツェンツォが、
「君の任務というのは?」
 と、シジンに尋ねると
「貴方を無事に祖国へ送り届けることです!」
 シジンは同じ顔とは思えない爽やかな笑顔を見せた。


 迎えを待つため、事務所から出た2人だったが、
「報告をさせてくれ。」
 ヴィンツェンツォはシジンにそう言うとスマホを取り出し、
「俺だ。結果のみ報告する。交渉は決裂、例の荷物は手間賃として戴いておく。もう二度と俺とルカを頼るな。」
 そう言うなりスマホをコートのポケットへ滑らせた。
「決裂して良かった。」
 シジンはそう言うと、ボンネットが大きく凹んだ廃車に腰掛け、
「あなたがもしさっきの男、セストと手を結んでいたら・・・その瞬間、私は貴方も撃たなければならなかった。」
 と、続けた。
「セスト、彼をいつからマークしていた?」
「いや、彼の目的が判明したのはほんの数分前のことですよ。」
「という事は、初めから俺の事を?」
 ヴィンツェンツォはシジンと向かい合うように隣に停められていた別の廃車に腰掛けた。
「はい。事の発端は2ヶ月前でした…」
 シジンが話し始めたその時、上空から激しいプロペラ音が降ってきた。
 ヘリだ。ヘリはスクラップ場のまだ何も放置されていない更地に着陸した。
 現れたヘリのプロペラ音が激しいため、二人の会話は強制終了となった。
 シジンはヴィンツェンツォをヘリに手招きし、2人を乗せた機体は即座にスクラップ場を後にした。ヴィンツェンツォは眼下で徐々に小さくなっていく現場を見ていたが、それと同時に乗り込んだ瞬間からシジン以外の視線を常に感じていた。


 どこか重苦しい空気を感じ始めたその時、
「せっかく彼と2人きりで赤裸々トークをしてたのに。間が悪いですよウルフ。」
 シジンが2人の間に割って入ってきた。
「すみません。2人が余りに似ていたので。ビンセンジョさん気を悪くさせてしまい申し訳ありません。」
 ウルフと呼ばれたその男は直ぐに謝罪した。
「こちらこそ。」
 ヴィンツェンツォも気まずさを作ってしまったことを謝罪した。
 お互い軽く微笑み合うと、ウルフは、
「我々はこれからギリシャにある本陣へ向かい、そこから長距離移動機に乗り換えます。」
 と、流れを説明した。
「旅客機よりは早いですが、乗り心地は最悪です。」
 冗談ぽくシジンは言う
「秘密裏に入国させる為とはいえ、申し訳ありません」
 ウルフは至極真面目に言った。
 いいんだ、とヴィンツェンツォはウルフに微笑んだ。
「所でなぜ俺は国家情報院の2人に呼ばれて韓国に?」
 ヴィンツェンツォは素朴な疑問を2人にぶつけた。
 シジンは事の次第をヴィンツェンツォに話し始めた・・・



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