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光が収まる。ミコトの視界にまず映ったのは、どこかの部屋だった。棚に詰め込まれた沢山の資料と、机に積まれた山のような書類。彼或いは彼女は「マギアに送る」と言っていた為、恐らくはマギアにあるどこかの部屋だろうと瞬時に察する事が出来た。が、一体ここはどこなのだろうか。

「おや、どうしたのかな?今は授業中のはずだが…」

突如掛けられる声。バ、と驚きながら声の方を向く。そこに居たのは、長い髪にパンツタイプのスーツ姿、ミコトより背が高く、美しい容姿の女性。

ミコトは知っている。彼女が一体誰であるのかを。
彼女はマギア。この学園、曳いては学園都市と同じ名前を持つ、最高権力者である。なんて所に送られたんだ、と状況を忘れ、冷や汗が流れそうになる。

「ふむ、転移結晶が使われた気配があるね。ピンの色を見るに魔術科の1学年だ。こんなぼろぼろで怪我までして…何かあったのかい?」

ミコトのその姿に、何かが起きたことを察したらしいマギアが真剣な表情で尋ねる。そうだった、と思い直したミコトはこくりと頷くと、今までに起きたことを説明する。教師のフリをした謎の人物によって身体の言うことがきかなくなり魔術科の1学年が転移させられたこと、飛ばされた先は立ち入り禁止エリアだったこと、助けてくれた人のおかげで今ここにいることを。

「…といった感じです。あと、その助けてくれた人から伝言が…」
「伝言?」
「えっと…『約束忘れてんじゃねぇよクソ野郎、ぶっ飛ばすぞ』、と……」

自分が発した言葉ではなく、伝言であるはずなのに何故か悪い気がして、どんどんと言葉が尻窄みになっていく。
一方で、説明と伝言を聞き終わったマギアは、顎に手を当て考え込み始める。その間僅か数秒。そして、机に向かって歩き出すと、机の引き出しから通信魔具を取り出し、真剣な表情のまま指示を出し始めた。

「全教職員に通達。コード00、現在授業及び職務を受け持っていない教職員達は、警備隊に連絡後、連携して学園内にいる“不審者”の捜索を。多少の破壊は許可しよう。授業を受け持っている職員達は引き続き授業をしながら、生徒の安全を最優先。治癒魔術が使える職員は大講堂に集合。転移結晶若しくは転移魔術を使って魔術科の1学年の生徒たちが戻って来るはず。保護並びに治療にあたりなさい。生徒の点呼も同時にとること」

そう指示を出したマギアは、再びミコトの方へと向き直る。

「伝言、確かに受け取ったよ。全く、子どもにとんでもない伝言を頼まないでほしいものだね」
「正直、こんな事を言っては怒られるのではと思いました…」
「伝言と聞いてるのになんだその言葉は、なんて怒らないさ。伝言を頼んだやつには後で文句をたらふく言っておくがね」

笑ってそういいながら、マギアはミコトの腕に手を翳す。

「魔術展開【月女神の癒しの光ルミナスシャイン】」

ぽわり、と暖かな光が腕に出来た傷を包む。程なくして、そこにあったはずの傷はきれいさっぱりと閉じてしまった。

「これでよし、と。治しはしたが、念の為、今日1日はあまり腕を強く振ったりしない方がいい」
「あっ、ありがとうございます…」
「あの子が傷を放ったらかしにするという事は、場所的にも毒性を疑っていたからだろうね。昔から治癒は相性が悪いだなんだと言っていたし」
「……もしかして、お知り合いですか?」

閉じられた腕を見ながらミコトは尋ねる。マギアはニコリと微笑むと、まぁね、と言った。

「昔の教え子さ。優秀で自慢の、けど腹の立つ、な」

そう言うと、優しくミコトの背中をぽん、と叩く。

「さぁ、キミも友達やクラスメイト達の事が心配だろう。大講堂に向かいなさい。あとは我々大人に任せてね」

そう言って微笑むマギアに見送られ、ミコトは言われた通り、大講堂へと向かった。他のみんなの、そして助けてくれた人物の無事を祈りながら。

「さて、と。私もやらねばな」

ミコトの姿が見えなくなった所で、先程までの穏やかな表情とは一変し、真剣な表情で踵を返しながら歩き出す。通信魔具からは指令を出してから捜索を始めた教職員達からの報告が次々入る。その報告を聞きながら片手を空中に向かって振ると、そこには半透明の学園マップが現れた。そして、報告を受けた教室にどんどんとバツ印を入れていく。

「ふむ、どうやら隠れるのが上手い鼠みたいだな」

授業時間の為、動かせる教職員が多少少ないとはいえ、ここまで見つからないとは。
半数以上の教室にバツ印が入ったマップを見ながらそう思うマギアの耳にふと足音が入る。
音的には恐らく、1人。それも前からやってくるであろう響きだ。
同時に何かを引きずっているような音も聞こえる。
魔術展開の準備をしつつ、前方を見ると、現れたのは黒いマントの人物だった。マントにはフードがついており、目深に被っているため、顔までは見えない。が、マントの隙間から僅かに見える服装は、間違いなくこの学園の制服だった。

「今日は次々に変わった事が起きる日みたいだな。キミ、どうやらここの生徒みたいだが、どうしたのかな。今は授業中だろう?」

念の為、と、準備していた魔術展開をそのままに声を掛ける。声を掛けられて立ち止まったその人物は、少しの間沈黙を貫いたが、やがてどさりと引き摺っていたものを乱雑に2人の間に投げ出す。それを見てマギアは思わず目を丸くした。
フードの生徒が投げ出したもの。それは、探すよう指示を出している人物であり、ミコトから聞いた教師のフリをした侵入者である男だったからだ。ボロボロになって白目を向いているため、間違いなく気絶しているのだろう。

「あの人が…」

驚いているマギアに、沈黙を貫いていたフードの生徒が徐に口を開く。

「あの人が、全員出動の呼び出しをしていたので。俺は俺で、できる事をしたまでです」
「…成程、キミもあの子のところのか」

こくりと1つ頷くフードの生徒。生徒はちらりと1度、伸びている男を見ると、少し怒気を孕んだ声色で喋り出す。

「たまたまこっちに残ってたので探していたら、こいつが、“旧校舎”にいたので」
「“旧校舎”、か。そりゃあ、あれだけ捜索に人を充てたのに見つからないわけだ。そしてコイツもよく見つけられたものだな」

普段は行けないようにしてるはずなのに。そう言いながら真っ直ぐと、フードの生徒を見る。フードの生徒は特に怖気付くわけでもなく、ただ淡々と言葉を返す。

「別に、忍び込んだ訳でもないです。ただ、俺は『皆が』教えてくれたから行ったまでなので」

その言葉と同時にどこからか、沢山の子どもの笑い声が木霊する。そして漂う、濃い花の香り。いつの間にかフードの生徒の隣には、身体の至る所から花を咲かせた人物が立っていた。いや、人ではないだろう。なんせ彼女の身体は透けているのだから。
その人物を見て、マギアは目を見開く。

「大事な場所に、知らない奴が入ってるって」
「キミ、は……そうか、成程。それは確かに『キミ』なら行ける、か。あの場所はあの子がたった1人の為に作った場所だったからね。しかしまさか、代替わりしてるとは思わなかったよ。久しぶりだね、“オレンジマリー”」

オレンジマリー、そう呼ばれた身体に花を咲かせた人物はニコリと微笑むと、マギアへ言葉を返す。

『お久しぶりです、マギア。相変わらず子どもたちがお好きなようですね』
「キミも変わらないね。いや、“精霊”は不老だったな」
『はい。私としては、貴方が変わっていないほうが不思議ですがね』
「私は“そう”決めたからね。変わっている方がおかしいだろう?」
『そういった所も変わっていないようですね。だから私たちは、安心して貴方にこの方をお預けできるといったものです』

そう言ってクスクスと笑うオレンジマリー。そのままふわりと浮かびあがると、男の傍に音もなく寄る。

『どうやら、我々が掛けていた不可視の結界に綻びが出来ていたようです。この人間はそれを利用したようでした』
「成程。後でかけ直しておいたほうがよさそうだ」
『その方が良いかと。普段から見える私たちには綻びが分からないですからね。正しく穴をつかれた、と言ったところでしょう』

そう言いながらオレンジマリーは男から離れ、再びフードの生徒の元へと戻る。戻ったタイミングで、フードの生徒は口を開いた。

「その男はあなたにお渡しします。その代わり、条件が1つあります」
「条件か。応えられる範囲なら応えよう」

腰に手を当て、肯定の姿勢を返すマギアに小さく頭を下げると、フードの生徒は条件を提示した。

「この男はあなたが見つけ、捕えた事にしてください」
「…私は構わないが、キミはいいのかい?折角の活躍だろう」

マギアのその言葉に、フードの生徒は首を横に振ると、言葉を続ける。

「あの人はまだ、俺を表に出すつもりはないようなので…まだ早い、とか」
「…まだ早い、ね。考えてるタイミングがあるということかな。あの子の頭の中は私でも読めないからな…。だったら、会った事はあの子以外には…【スペード】くん以外には言わない方がいいかな?」

マギアが腰に手を当てたままそう聞くと、フードの生徒はこくりと頷いた。

「分かった。条件を飲もう」
「ありがとうございます。あまり長居をすると色々と不審がられるので、俺はこれで失礼します」

そう言って、オレンジマリーと共に去ろうとするフードの生徒にマギアは最後に、と声をかける。

「最後に、キミの名前を聞いてもいいかい?」

フードの生徒は特に歩みを止めることなく、独り言のようにぽつりと呟く。

「【黒薔薇庭園ブラックローズガーデン】配下、ギルド【ナンバーズ】リーダー【ジョーカー】」

そのまま歩いて行き、やがて姿が見えなくなった。その場にはマギアと、気絶している男が残される。

「【ジョーカー】……ね。成程、切り札、か。確かにタイミングを気にするわけだ。全く、相も変わらずとんでもない人材を捕まえるものだ」

ふ、と笑いながらそう呟くと、通信魔具で新たに指令を出し始める。生徒たちの、子どもたちを平穏を守る為に。


大講堂にたどり着いたミコトは目を見開いた。そこには大勢の生徒が居たからだ。見えている範囲の生徒たちがつけているピンは全て魔術科の1学年を示す色。助けてくれた人と別れてから幾らか時間は経っているとは言え、既に約半数以上の生徒が大講堂に戻ってきていた。そして、今もなお、大講堂に光が現れては生徒が次々にやってくる。教師たちはその生徒たちの怪我や精神状態の確認、未だに戻ってきていない生徒の確認などでバタバタとしていた。

──なんたってボクらはその手のプロだからね。安心して欲しい。

「本当にプロだったんだ…すごい」

そう言って笑っていた彼或いは彼女を思い出して、思わずそう呟く。ボーッとその光景を見つめるミコトに、突如衝撃が襲いかかった。何が起きたのか分からず、勢いそのままに倒れる、かと思いきや、誰かが支えてくれたようで。支えてくれた誰かは声で直ぐにわかった。

「大丈夫、ミコト?」
「大丈夫…多分。ありがと、レオ」
「どういたしまして」

支えてくれたレオンに礼を伝えながら、衝撃を受けた先を見ると、そこにいたのは今にも泣き出してしまいそうな顔をしたラメリアだった。

「ミコっちゃんやっと見つけた〜〜!!何処にも居なくて心配したんだから〜〜!!!」
「ご、ごめん…私、学園長室に転移させられてて…」
「無事でよかったよ〜〜〜〜!!!!」
「えっと……ラメさん聞いてる?」

最早会話にもなっていない会話を繰り広げていると、騒ぎに気付いたらしいエトワールやミュゼリネも駆けつけてくる。

「ミコトさんも戻ってきてたのね。よかったわ。怪我はしてない?」
「ちょっと怪我したけど、学園長に治してもらったから平気だよ」
「さっき聞こえたから気になったんだけど、なんで学園長室に?」
「助けてくれた人が、伝言を伝えて欲しかったみたいで、学園長の部屋に転移させられて…」
「なるほどね」

そんな会話をしていると、涙目のイクスもやってきてラメリア同様にミコトに抱きつく。そんな2人にやめなさいとエトワールが2人を引き剥がした。
それを静かに見ていたレオンはミコトによかったね、と声を掛けた。

「僕以外にも友達が増えてるみたいで、何よりだよ」
「そういうレオはどうなの?」
「…まぁ、少しは出来た、かな」

そう返された返事と、レオンを呼ぶリンやアルフレッド達の声が同時に響く。

「レオン、お前、今までどこいたんだよ。授業始まってもいねぇからリンとスピカがずっとソワソワしてたんだぞ」
「それは言わなくてよくねぇか!?」
「そ、そうですよ!」
「ごめん。ちょっと仕事の用があってお昼前に来たんだよ。大講堂に来ても誰もいないし、ずっと探してたんだけど」
「そんな気してたけど、教室変わったの知らなかったオチかよ。ってことは、特に危なかったわけでもないってことだろうし、無事なら何よりだ」

アルフレッドがレオンの背中を叩く。そこでラメリア達も傍にレオンが居ることに漸く気付いたらしく、辺りは途端に賑やかになる。

「ヒョッ、ちょっと待ってレオン君!?てかミコっちゃん怪我したの!?制服に血がついてる!!??先生呼ぶ!!!??」
「ラメち落ち着こう!?一旦落ち着こう!?」
「落ち着く!?どうやって!!?」
「深呼吸!深呼吸しよ!!??」
「ハハ!有名人は大変だなぁ!」
「アルフレッド…キミ、他人事だと思って面白がってるだろう?」
「まぁ、そこに関してだけは完全に他人事だからな!」
「……次の手合わせ、手加減なしってことでいいかな」
「怪我といえばリンくん…手の怪我、ちゃんと先生に診てもらったんですか?」
「これか?かすり傷だったし、大丈夫だろ」
「あら、診てもらった方がいいわよ。さっき先生がかすり傷でも診せに来ることって言っていたし」
「かすり傷でも?なんでだ?」
「本で読んだことあるんだけど、あのエリアって毒性のある植物が多いらしいわよ。だから、問題ないかどうか確認するんじゃない?」
「マジか……ちょっと診てもらってくるわ」

みんな、無事でよかった。賑やかな周りを見てミコトは改めて思う。
周りと比べて静かな彼女が気になったのか、レオンが不思議そうに声をかける。

「ミコト、どうしたの?」
「よかったなって安心してるだけ」
「そう」
「あと、またあの親切な知らない人が助けてくれたから、今度あったら何かお礼しなきゃなって」
「……あの人はそういうの、あんま気にしないよ。目の前に助けて欲しい人がいたら助けるってだけだから」

感謝の言葉1つで十分嬉しがるよ。
そういうレオンは自慢気な表情が一瞬だけ見えて、そういえば知り合いだったっけ、とそこでミコトは思い出した。

「また、会えるかな」
「気まぐれだからね。でも、会えるんじゃない?」

やがて教師によって、魔術科の1学年全員が大きな怪我もなく無事に戻ってきていることを知る。こうして、波乱だらけの魔術科合同授業は終了するのだった。
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