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うーん、困った。これは本当に困った、どうしよう。
ミコトは腕を組みながら森林に囲まれた場所で1人、唸っていた。ここはどこなのだろうか、と。

事の発端は入学式後から始まる。

入学式も無事に終わり、軽い学園案内も終われば今日は自由時間になる。寮に入る学生達はそれぞれ部屋に行き、届いた荷物の整理を、寮に入らない学生達はそのまま帰宅したり、遊びに出かけたりなど。言葉通り自由に過ごしていた。寮に入る1人でもあるミコトも入学式後、レイナと別れ、寮に向かっていた。そのはずだった。

そう、はずだったのだ。
入学の際にマギア内全域の地図は貰っていたし、地図の通りに進んでいた。なんだったら同じ寮生活をするレオンや、それらしい他の生徒達と一緒な方向に向かっていたはずなのだ。
だが、ふと周りを見れば木、木、木。
あまりにも緑。
見渡す限り緑。
ただただ広がる見事な大自然。
思わずどこなのここ、という言葉が出てしまう程の大自然ぶりである。慌てて貰った地図で確認すると、どうやらマギアの学園エリアであり、寮がある場所である居住エリアとはほぼ反対方向にある森である事が分かった。どうして、と分かった瞬間天を仰いだ。
まぁつまり。平たく言えば迷子、オブラートに包んで言ったところで迷子である。

ミコト・アウデュラは幼馴染の2人も、肉親である父親も認める方向音痴である。しかも本人に自覚は無い方向音痴だ。地図は読めはするものの、目的地に1人で辿り続けたことはほぼ無い。辿り着けたとしても辿り着くまでに時間が掛かることの方が大抵である。そして、今回の様な特に特徴の無い森において、彼女が1人で戻れた事は今のところまだない。
そんな彼女が戻ろうと奮闘しながら歩き回ると何が起こるか。
そう、森から抜け出せないのである。なんなら、最初に気付いた時点の場所すら既に分かっていない。
そうして、話は冒頭に至るのである。

「本当に、どうしていつもこうなんだろ…」
「わぉ、珍しい。こんなとこに人がいるなんて」

ここから一体どう戻ればいいのか、そう考えながら、目の前に広げている地図を見て独り言を呟いていると、急に目の前で声が掛かる。
人1人いなかったはずが突如声がかかった為、ビックリしながらも顔を上げて、ミコトは思わず目を丸くさせた。
自身より背の小さいその人物は、まるで世界から色を抜き取られたのかと言う程に白と黒で構成されていたからだ。生きているのかと疑う程に白い肌に白い髪、その髪にアクセントかのように見られる黒いメッシュ。見た事のない耳飾りを片方の耳にしてて、そしてまるで影に紛れるかのように黒い服。靴すらも黒。瞳は左右それぞれ金と黄緑と所謂オッドアイで、唯一その人物の中で確かに色があった。

「どうしたのかな?ここは授業で使う森だけど、今日は授業ないでしょ?」

ミコトが驚いていることに気付いていないのか、キョトンとした顔をしながらも、目の前の人物はそのまま言葉をかけ続ける。

「あー、えっと…」
「ピンの色シルバーだし、新入生かな?あ、もしかして探検中?マギアは他の学園都市とかと比べて広いから探検のしがいあるもんねぇ」
「まぁ、確かに広いですね……でも探検じゃなくて…」
「違うの?」
「その…寮のある居住エリアに行こうとして…気付いたらここに…」
「居住エリアに?」

返ってきた疑問に対してこくりと頷くと、相手は目をパチクリとさせた。地図上ではほぼ真反対のエリアに行こうとしてたと言われればそれは確かに驚くだろう。苦笑いで返すミコトに、思わず聞き返すほどに。

「居住エリアって、ここからほぼ真反対のエリアだよ?」
「みたい、ですね…」

返す言葉はなくハハ、と最早笑って誤魔化すしかない。初対面の人にバッサリと言われ、恥ずかしさの中、心の中では現実逃避も兼ねて今日は何食べようかと全く別の事を考え始める。
相手は何かを考えているのか、顎に指をあてる。僅か数秒程、そうした後、突如ぱちんと指をならした。すると何処から来たのか、黒い蝶がミコトの目の前に現れる。

「この子の後を追いかけてごらん。寮がある居住エリアまで案内してくれよ」
「えっ」
「ふふっ、キミに恩を売っておくといい予感がするからね」

パチリと綺麗なウインクをしてみせながらそう言うその人物と、ヒラヒラと彼或いは彼女の周りを舞う黒い蝶。

「あ、それともこんな怪しいやつ信用ならない?危機管理能力がしっかりあって偉いね。でも安心してほしいな。ボク、悪い人じゃないからさ」
「あっ、いえ、そういうわけじゃ…」
「違った?ごめんごめん。考えて先走っちゃうの、ボクの癖なんだ〜」

へへ、と笑う顔はあどけなさがどこかあり、まるで同い年かと一瞬感じるほどで。
確かに初対面の人を簡単に信じる程、ミコトの警戒心はない訳でもないが、しかし何故か『この人は大丈夫』と思えてしまう。

「あの、助かります。ありがとうございます」
「ううん、気にしないでいいよ〜」

ぺこりと頭を下げてお礼を言うと、彼或いは彼女はニコニコと笑いながら言う。その顔は何処か自身の2人の幼馴染にも似ているような、そんな気がした。
ミコトは別れ際、もう一度頭を下げると、パタパタと舞う蝶の後を追いかける。その途中、ふと彼或いは彼女の呟きのような言葉が聞こえた。

「またね、ミコト・アウデュラちゃん」

あれ、名乗ったっけ?そう思いながら、ミコトはその場を後にした。
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