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ミコトは、やや駆け足気味に学園内を歩いていた。理由は単純で、次の授業に遅れそうだから。ヒィ、と言いながら駆け足気味に進むミコトは、曲がり角を曲がろうとして、同じく曲がり角を曲がろうとする誰かとぶつかる。その拍子に、持っていた教科書やノートを辺りに撒き散らしてしまった。

「わ、す、すみません…前見てなくて…」

ばら蒔いたものを拾いながら謝るミコトに、スっとノートが差し出される。お礼を言って受け取ろうとして、ミコトはふと気付く。差し出すその手の服の裾が、制服の白やワイシャツの水色ではなく、黒であることに。
そこで初めてミコトは顔をあげた。

「いえ、自分も周りを見ていませんでしたから」

そう言う相手は茶髪にオレンジ色の瞳の青年。それ以上に目を惹いたのは、軍服を思わせる堅苦しい黒い服装。ミコトはその服装を着る組織を知っている。
その服装は、この学園都市マギアの治安維持を主に請け負う組織『警備隊』の服装であることを。

「ミコト・アウデュラさん、ですよね?少し自分とお話をしませんか?」

ニコリと微笑みながらそう言う青年。しかし、表情とは裏腹に、その言葉には、服装も相まってかどこか威圧感があった。
その威圧感に、スっと出るはずだった答えを返せずにいると、青年の後ろから現れた灰色の髪の別の青年が声を掛ける。

「ちょっと、ナツキさん!まーた子ども相手に威圧して……この子、怖がってるじゃないすか」
「別に、威圧してませんよ」
「もっとやさしーく接しないと、答えにくいんすってば。ねぇ、怖かったっすよね?」

同じく警備隊の服装に身を包んだ青年に突然話を振られたミコトは思わずえ、と返す。

「あ、これは急過ぎっすね!失礼したっす!」
「ソーンも人の事言えないじゃないですか」
「俺のは急に話を振ったからだけっすよ。ナツキさんと一緒にしないでほしいっす」

互いにナツキ、ソーンと呼びあった2人はそう言い合うが、少ししてミコトが居ることを思い出したらしく、軽く咳払いをしてから改めてミコトに向き直った。

「お騒がせしました。自分は、警備隊第四課のナツキといいます」
「同じく警備隊第四課のソーンっす!」
「先日の不審者に関して、話を聞けたらと思いまして。少しお付き合いいただけませんでしょうか?」

そう言って茶髪の青年、ナツキは微笑む。ミコトは一先ず頷くことしか出来なかった。
同時に、授業の開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。

流石に廊下でという訳にも行かず、近くにあった空き部屋に入る。中は細長い机が幾つか端に寄せられた簡素な部屋で、灰色の髪の青年ソーンは机と椅子を適当に並べると、ミコトに座るよう促して、部屋を出ていった。ナツキはソーンの行動を気にする訳でもなく、ミコトの向かい側に、置かれた椅子に腰掛ける。
ソーンの居ないこの空間はシン、と静まり返っていた。向かい合う形で座るミコトは、その静けさに何処か落ち着かず、ソワソワとしてしまう。

「別に、悪い事してるかーとか聞きに来た訳じゃないっすから、そんな緊張しなくてもいいっすよ。俺たち、本当にただ話を聞きに来ただけっすから」

1度会議室から出ていったソーンが人懐っこい笑みを浮かべてミコトにそう声を掛ける。そして、どうぞっす、と言いながら飲み物をミコトに手渡した。どうやら、態々これを買いに行く為に1度出ていったらしい。

「ナツキさんはコーヒーでいいっすよね?」
「それ以外に何かあるんですか?」
「いや無いっすけど」

そう言いながら手渡すソーン。ナツキの対応に慣れているようで、ブラックで良かったすよねと手渡している。ナツキはそれを受け取ってから、ミコトと自身の間にコトリと1つの結晶を置いた。

「これは『録音結晶レコードストーン』という魔具です。これが起動している間、自分達の会話の録音をしてくれます。この録音は捜査が終われば消去されます。捜査以外で使うこともありません。また、この録音が貴女のものであると口外することも、貴女の情報を出すこともありませんので、ご安心ください」

そう淡々と、まるで決められた台詞を読み上げるかのように言うナツキに、ソーンは付け足すかのように口を挟んだ。

「一応、これを使う時に必ず説明しなきゃなんないんすよ。じゃないと、偶に根掘り葉掘り聞いてくるやつがいるらしいんすよね」
「はぁ……」
「余計なことは言わなくていいので、さっさと起動して下さい」
「はいはい〜っと。あ、今回はナツキさんが威圧したので分かりにくいかもっすけど、任意になるっす。言いたくないこととかは言わなくてもいいし、もちろん、覚えてないことは覚えてないって言って貰っていいっすからね」

そう笑って言うソーンに、ミコトはコクリと頷く。ナツキは、ソーンが録音結晶を起動させた事を確認すると、あの日の騒動─魔術科合同授業の出来事についてミコトに色々と訊ね始めていった。

「──成程、ありがとうございました」

話し始めてから1時間が経つか経たないかといったところで、聞きたい事を聞き終えたらしいナツキは、そう言って録音結晶を止めさせる。仄かに淡く輝いていた結晶は徐々に光が収まっていった。
ナツキはそれを仕舞うと、ミコトに改めて顔を向ける。

「ミコトさん、お付き合い頂きありがとうございました」
「いえ、あまり役立つ情報になるかはイマイチな事ばかりだった気もするんですけど…」
「いやいや、そんな事ないっすよ。ミコトちゃんはよく覚えてる方っす」

そうフォローをするかのように言うソーン。彼はナツキから空になったコーヒー缶を受け取りながら言葉を続けた。

「実は、ミコトちゃん以外にも記憶がある程度残ってる子はそれなりにいるんすけど、魔物に襲われた衝撃が強すぎて曖昧になってたりしてる子が多かったんすよ」
「あぁ…」
「まぁ、俺たちの弟も割と覚えてる方ではあったんすけど…」
「弟さん?」

ミコトの分の空になった飲み物のゴミも当然のように回収しつつそう言うソーンに、ミコトは思わず聞き返す。聞かれたソーンは、そうっすよーと何処か自慢気に返事を返した。

「3人いるんすけどね、皆強くて、自慢の弟たちなんすよ」
「3人も…」
「血の繋がりはないんすけどね。可愛い弟たちなんすよ。無事に俺と同じでマギアに入学もできたっすし」
「ソーンさん、ここの卒業生なんですか?」
「そうっすよ。つまりはミコトちゃんの先輩っすね。困ったらいつでも相談していいっすよ」

そう言って笑うソーンに、ナツキが軽く小突く。

「安請け合いしない」
「えー。でもミコトちゃん、スピカ達と同い年くらいっすよ?世話したくならないっすか?」
「するにしても、今回の事の進展があったらにしてください。君のお人好しは今に始まった事ではないですが」

スピカ、はて、その名前を最近何処かで聞いたような?
内心、聞き覚えのある名前に首を傾げていると、ナツキは会議室の扉を開く。

「改めて、お付き合い頂きありがとうございました。場合によっては、また聞きに来たりするかもしれません。その時はまた、ご協力頂けると助かります」
「あっ、はい。わかりました」
「それ以外にも、何かこのマギアの中で不審なこととかあったら、いつでも相談してくださいっす」

まるで正反対でありながら、終始息のあった2人の警備隊に見送られ、ミコトは会議室を去っていった。続いて会議室を出た2人に、声をかける人物が1人。

「やぁ、まさかこんな所で会えるとは思わなかったよ」
「…話には聞いていましたが、自分もそう思いますよ」

ナツキは足を止め、後ろを振り返りながら、相手の名を呼ぶ。

「本当にここで先生をされているんですね、スペードさん」
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