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転移門を潜ると、最初に見えたのは、神殿かと疑うような神秘的な建物だった。周りを囲む木々が、それを更に神秘的な印象を手助けする。
その建物の傍には『世界図書館』と書かれた石碑があった。

「すごい、綺麗…」

思わずそう呟くミコトに、レオンも頷く。

「最初に見ると、本当に図書館?って思えるよね」
「レオは来た事あるの?」
「まぁ、ちょくちょく来る」

そう言って歩き出したレオンに、ミコトも続いていく。
大きな扉の前に立つと、扉はゆっくりと自動的に開いた。中に入ると、図書館らしく、天井まで高さがある本棚には本がずっしりと、しかし綺麗に並べられていた。収められているその本の数は学園にある図書室など、目にないほどだろう。話通り、世界中の本が収められていそうな印象を受ける。中には歴史的に古そうな本も見受けられるが、どの本も丁寧に保管されているようで、ボロボロになっているような本は1冊も見受けられない。
そんな、見ているだけでも1日では足りなさそうな景色を前に思わず見蕩れていると、後ろから声をかけられる。

「ご機嫌よう。ようこそ、可愛らしいお客様」

突然掛けられた声に驚きながら、声のした方を見ると、そこに居たのは1人の美しい女性だった。長くふわふわとした白銀色の髪は毛先にいくほど青く、優しく見つめる瞳はアメジストを連想させるほど綺麗な紫。手には数冊の本を抱えており、格好も相まって世界図書館の関係者であることはすぐにわかった。
あまりの美しさに思わず見蕩れるミコトの隣で、レオンが彼女に挨拶を返す。

「こんにちは。今日は調べ物をしに来たんだ、アイーダ」
「あら、そうでしたの。何をお調べになるのかしら?」
「僕たちの家名の歴史とか。あるだろう?」
「えぇ、もちろんありますわ。全ての国の歴史が、ここには詰まっていますもの。確かあちらの方ですわね」

そう言って、彼女、アイーダはある方向を指差した。
アイーダ。その名は聞いたばかりの名だった。それは、世界にたった一人の、運命を見届ける女であり、神に造られた人形につけられた名前である。
そんな名を呼ばれ、返事を返した彼女に驚いていると、ミコトに視線を移した彼女は優しく微笑んだ。

「可愛らしいお客様、自己紹介がまだでしたわね。わたくしはアイーダ・ペンデュラム。この世界図書館で司書をしておりますの」

まるで淑女を思わせる程に優雅にお辞儀をしながらそう挨拶をするアイーダ。その姿は美しく、スペードが言っていた通り、美人であった。

「ミコト・アウデュラ、です…」
「まぁ、あなたがレオンくんが話していたミコトちゃんでしたの。お話に聞いていた通り、可愛らしいお方ですわね」

そう言って目を輝かせながら手を取るアイーダ。アイーダのその言葉に、ミコトは思わずレオンの方を見た。
いや話って?何話してるの?
そう視線で聞こうとする前に、レオンは視線をわざとらしく逸らした。

「レオンくんが小さな頃から度々ミコトちゃんの名前を出しては可愛いと自慢されるものだから、ずっと気になっておりましたの。けれど、私は普段はここからあまり出ることが出来ないので、中々会うことはできないし…」
「昔話はいいでしょ、アイーダ」

1人盛り上がるアイーダをそう言って引き止めるレオン。耳を仄かに赤く染めたレオンは、アイーダに再び確認を取る。

「家名関係はEBの方なんだよね?」
「えぇ。よければお手伝い致しましょうか?」
「………余計な話はしないでね」

アイーダからの提案に、何かしらの葛藤が見えた間のあと、レオンは了承する。この膨大な量の本の中から目的のものを闇雲に探すよりかは、彼女がいた方が早そうだという判断の元だろう。ふふ、と楽しそうに笑うアイーダと共に、ミコトとレオンは言われた場所へと向かった。

到着した本棚もまた、天井まで高く、しかし本自体はどうやら国ごとに分けられているようで、探すにはあまり時間はかからなさそうな印象を与えた。といっても、国によっては万を超える程の家名がある訳だが。
そんな中から自身の家名を探すミコトに、ふとアイーダが密やかな声で話しかける。

「ミコトちゃんは、少し変わった運命を持っていますのね」
「え?」

その言葉にば、とアイーダの方を見ると、アイーダは変わらず、優しく微笑みながら言葉を続ける。

「私、人とは違ったものが少し見えますの。レオンくんもですけど、ミコトちゃんもまた、変わった運命をお持ちですのね」
「変わった、運命?」
「フフ、普段はこういう事は言うとお叱りを受けるんですけどね。今の私はちょっと違うもの。人でいう『反抗期』のようなものかしらね」

そういうアイーダは楽しそうで。しかし、どことなく話が見えないその言葉に、ミコトは首を傾げる。

「えっと…?」
「ふふ、話が逸れてしまいましたわね」

そう話を切り替えたアイーダは、微笑みながら言う。
アイーダの瞳は、宝石のように、しかし人形らしく無機質に輝いていた。

「ミコトちゃんが本当に探しているものは、『ここ』にはありませんわよ」
「えっ」

ミコトはどくん、と心臓の鼓動が早くなるのを、さぁ、と血の気が引くのを感じた。
何故、“知っている”?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故、初対面の彼女が知っている?
その思考で、頭がいっぱいになる。

「驚かせてしまったかしら。ごめんなさいね」

そう眉を下げて謝るアイーダに、先程感じた輝きはなく、本当に申し訳ないと思っているようだ。
少し落ち着きを取り戻したミコトは、首を横に振る。

「大丈夫、です…少し驚いただけで…」
「本当に?怒っていないかしら?幻滅していないかしら?嫌になっていないかしら?怖くなっていないかしら?嫌いに、なっていないかしら?」

そう口早に聞くアイーダに思わずたじろいでいると、おい、とレオンが軽くアイーダに小突いた。

「何ミコトにちょっかい出してるの?」
「あら、怒っていますの?」
「怒ってない」
「怒っていますのね」

悲しそうな言葉とは裏腹にクスクスと笑うアイーダにため息を吐くと、レオンはミコトの方に振り向く。

「あの人、知識欲と気に入った人に対する欲が普通の人とちょっとズレてるから。ミコトの事は気に入ってるみたいだし、悪い奴ではないから許してあげてほしい」
「う、うん…」
「アイーダも、もうちょっと距離感考えてあげて。ミコトとは初対面なんだからさ。もう来ない、なんて言われたくないんだろう?」
「言われたら私、悲しくて泣いてしまいますわ」
「いや、泣けないでしょ」
「そんなことありませんわ。つい先日、美しい物語を読んで泣いたばかりですもの。私、泣けるみたいですわ」

嘘だろ、と呟くレオンに嘘ではありませんわ、と返すアイーダ。その掛け合いが面白く、思わず笑ってしまう。3人以外に誰もいない図書館は、3人の笑い声を静かに反響させた。
やがて、時刻は既にそれなりに遅い時間を示し、流石に寮に戻らなければならない時間となっていた。

「よろしければまたいつでもいらっしゃってくださいませ。今度はプレゼントをご用意してお待ちしておりますわ」
「プレゼント?」
「えぇ。怖がらせてしまいましたもの。お詫びも兼ねて、私ができる、素敵なプレゼントをご用意致しますわ」

そうにこりと笑うアイーダ。どうやら彼女なりに気にしていたらしい。
そんな彼女の言葉に、ため息を吐いたレオンがミコトを見る。

「またこの人に何かされたら、僕でもスペードでもいいから言いに来ていいから」
「あら、私、そこまで酷くはありませんわよ。少なくとも、同じ間違いはしないように心掛けるタイプですわ」

そう言いながらクスクスと笑うアイーダに見送られ、ミコトとレオンは世界図書館を後にし、学園都市マギアにある寮へと戻って行くのだった。
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