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マギアは上機嫌だった。それはもうえらく上機嫌だった。鼻歌を歌う程に。

「ご機嫌だね、マギア?」

そう笑いながら言う第三者の声。マギアは特に驚く訳でもなく、上機嫌のままその声に答える。

「そりゃあまぁ、ずっとマークしていた人物をようやく捕まえられた訳だからね。機嫌も上がるものさ」

君もわかるだろう、スペードくん?
マギアは驚くこともなく、声をかけてきた第三者─スペードにそう返す。スペードは来賓用のソファに座ったまま、特に返答を返す訳でもなく、代わりに笑い声を返した。

「まぁ、それはそれとして。ずっと言いたかったことがあってね。私の大事な生徒を使って、物騒な言伝を渡すなんて、幾らなんでもだとは思うが?」
「でも事実は事実だ。違う?」

我が物顔で2、3人は座れそうなソファを独占するスペードは、先程までとは打って変わって、冷ややかな目でマギアを睨むように見る。マギアは大袈裟に肩を竦めながらスペードの向かい側のソファに腰掛け、いつの間にか用意していたカップに紅茶を注ぎながら口を開いた。

「全く相も変わらず、痛いところをつくね、スペードくんは」
「自覚があるなら約束は守ってほしいところだね。マギアここには、ボクの大事な子もいるんだからさ」
「【ジョーカー】くんのことかな?」

マギアのその問い掛けに特に返答する訳でもなく、スペードはマギアが用意したカップと角砂糖が入ったポットに手を伸ばす。マギアもマギアで、分かっていたのかクスクスと笑いながら、カップに手を伸ばした。

「いい子を引き入れたみたいだね。相も変わらず、人に対する目は良いみたいで羨ましいよ」
「………出来れば関わらせたくなかったよ。なんせあの子はまだ…」
「“子どもだから”、かい?私にはそうは見えなかったけど」

スペードの言葉を遮ってそういうマギアに、スペードはキ、と睨むようにマギアを見る。対するマギアは怖い怖い、とスペードを茶化すように笑いながら紅茶を啜ると、カップを下ろす。

「私から見たら、キミもまだまだ子どもだよ、スペードくん。まぁ、子どもにしてはキミもジョーカーくんも、大人以上に色々と背負い過ぎているとは思うけれど」

大人を頼るって事も覚えて欲しいものだね。
そう茶化すようにいうマギアに、スペードは特に返す訳でもなく。ただ寂しげな表情で笑った。
しん、と静まり返る部屋に、学生達の楽しげな声が響く。

「まぁでも、子どもを巻き込みたくない気持ちも分かるさ。私だってそうだからね。子どもたちには、青春を謳歌して貰いたいものだ。だからこそ我々大人が、子どもを守る義務がある」
「だったら尚更約束は守ってほしいものだよ。それとも、歳食い過ぎて目が悪くなりました、とか言わないよね?」
「キミに年寄り扱いされる程まだ歳は食ってないさ」

クスクスと笑いながら言うマギアに、スペードはやれやれと言わんばかりに肩を竦める。
全く、何時になっても食えないお人だ。そう言いかけて、しかし返ってくる言葉は想定出来てしまう為、心の中だけに留めておくことにした。昔からこの人には勝てないのだから。
その代わりと言うべきか、スペードは別の言葉をマギアに投げつける。

「ところで、なんでボクなんかを特別教師なんていって指名したのさ?あのいけ好かない女の言う通り、ボク何にも登録してないんだよ?」
「ん?あぁ、それは簡単なことだよ」

マギアはそう言いながらカップを置き、ソファから立ち上がると、そのまま窓際まで歩いていく。窓からは楽しそうに学園生活を送る多くの学生達が見下ろせた。

「キミがこの世界の誰よりも子ども達の未来を考えてくれるからさ。子どもを想う心があれば、私は誰にだって頼む。それに…」

そこでマギアは1度言葉を切ると、スペードの方へ向き直る。

「キミがいると生徒だけでなく、教師達にもいい成長を与えることができそうだからね。私にとって、これ以上良いことはないさ」
「ボクを子ども扱いするマギアから見れば教師陣ですら子ども扱いなわけね。…昔っからほんとに変わらないね、“先生”は」

ハハ、と乾いた笑みを浮かべるスペード。マギアはニコリと微笑み返しながら、ソファへと戻っていく。

「ま、ボクも今動いてる事的にここに暫くいられるっていうのはありがたいことだからね。断りはしないよ。けど、要求を飲んでほしいかな」
「可能な限りなら構わないよ。先に言っておくが、年に1回しか来ません、とかは無理だ。あと、内容は任せるが、授業はしっかりしたまえ」
「分かってるよ。そんなことは言わないさ。お願いされた以上、全力で子ども達に魔術や魔法を教えるよ」

引き寄せていた紅茶のカップにポトリと角砂糖を幾つか入れながら、スペードは要求を伝える。

「今度、結界を張り直す際に、この学園の敷地に入れて欲しい子がいる」
「キミがそうお願いするということは…」
「うん、そう。マギア自身が張っている方の結界で入れないタイプの子だ。訳ありって程でもない。ジョーカーが暗殺ギルドから引き抜いた子だから」
「暗殺ギルドからとは……ジョーカーくんも随分と大胆だな」
「ボクも最初聞いた時は驚いたさ。自分を殺そうとした奴を引き抜きました、なんてさ」

あっけらかんとそういうスペードに、今度はマギアが乾いた笑みを返す。苦労してるんだな、なんて声をかければ本当だよ、とスペードは心底疲弊しているかのようなトーンで返してきた。

「まぁ、兎角。キミの要求は分かった。飲み込もう。ないとは思うけど、危険行動を起こしたら即退去、そこは譲れないよ」
「分かってるよ。それにやらせるのは今回の騒動じゃなくて、前回について、だ。日付が既にある程度経ってる分、情報が消えてる可能性もあるけどね」

前回。その言葉でマギアは何か思い出したようにそういえば、と徐に口を開いた。

「ナツキくんたちがキミに会いたがっている。情報共有をしてほしいそうだ」
「はぁ!?なんでそれをもっと早くに思い出さないかな!?ボク達割と最近よく会ってたよね!?」

ガバ、と立ち上がったスペードは、そのまま学園長室を飛び出していく。慌ただしいその音は遠のいていく、と思いきや再び近づくと、何かを思い出したかのような表情で、スペードが扉から顔だけを出す。

「忘れてた!あと、第1会議室をボクに頂戴!肯定以外の返答はいらないから!」

そう一言だけ残すと、今度こそ慌ただしく駆け出して行った。
パタパタと足音が遠ざかって行くのを聞きながら、マギアはマギアで、机の上に大量に積まれた仕事へと戻っていくのだった。
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