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ザワつく観客たちの中、陰から見ていた男を押していた女は舌打ちを零す。突然やってきたあの人物さえいなければ、今頃は…

「あの男をこの学園に置いて、一体何をする気だったんだ?」

耳元で突如囁かれたその言葉に女はバッと振り返る。そこには黒い髪に赤い目の長身の男がいた。キッと男を睨みながら魔術を展開しようとする女に対し、男は喉でクツクツと笑いながら指を鳴らす。途端、女の身体は動かなくなった。驚く女を尻目に、男は愉しそうに笑いながら口を開いた。

「こう見えて俺はアイツらと違って戦うのとかは極力避けてェもんでね。悪いがこのまま引渡させて貰うぜ。構わねぇよな?“マギア”」

男のその言葉に女はビクリと動かない身体を震わせる。マギアがもし女が考えるとおりなら、女にとって非常にマズイ事態になる。
やめろ、もしそうなら『あの方』の作戦に支障が出る…!
女の願いも虚しく、足音と共に一番来て欲しくない人物が姿を見せた。

「あぁ、後はこちらで尋問しよう。偽装までして入れようとした訳を、ゆっくり聞かせて貰おうか」

この学園都市の最高権力とも言える人物。学園都市と同じ名前を背負う存在であるマギアが、冷ややかな目で女を見る。

「情報共有はモチロンして貰えんだろうな?」
「あぁもちろん。できる限り共有すると伝えてくれ」

ニヤリと笑う男を見て女はようやく一体誰にケンカを売ったのか、自分が彼女に、この学園都市のトップであるマギアに泳がされていただけに過ぎなかったのだと言う事に気が付いた。
は、と思わず笑みが零れる。
所詮、自身は捨て駒の1つに過ぎない。だとしたら、やるべきことは決まっている。

「情報をくれてやるわけないじゃない…渡すくらいなら私は死を選ぶわ!」

アハハ、と狂ったように笑いながら、女は隠し持っていたナイフで自ら命を絶った。
はずだった。ハッと気付けば自身を見下ろす大柄の男と学園都市のトップ。

「情報共有はモチロンして貰えんだろうな?」
「あぁもちろん。できる限り共有すると伝えてくれ」

さっき聞いたはずの言葉。
まさか、と手元を見ると───何も無い。可笑しい、間違いなく自ら命を絶ったはずだ。感触だってあった。バッと慌てて顔を上げれば、男がニヤリと笑っていた。そのまま女に近付くと、マギアには聞こえないような小さな声で、女に語りかける。

「自ら命を絶つなんて、面白くねぇだろうが。もっと苦しめ。もっと足掻け。欲を魅せろ。人間の底知れない欲をよ」
「お前……っ!?」
「なんだ?俺がただの人間だと思ったか?ンなわけねぇだろ」

男の赤い瞳がキュッと細められる。まるで楽しんでいるかのように。いや、実際この状況を彼は“愉しんで”いるのだろう。

「俺『たち』がただの人間なわけねェだろうが」
「っバケモノめ……!」
「ハハッ!バケモノ結構!こちとら言われ慣れてるよ」

そう言って嗤う男に歯軋りをした所で、きっと男の思うツボなのだろう。
男はやがて飽きたのか、或いは満足したのか。マギアの方を振り向くと、声を掛けた。

「ところでアンタは行かなくていいのか?うちのが大分好き勝手に暴れてるみたいだが」
「既に“本体”が向かっているからね。問題ない」
「そうかい。俺は役目を果たしたからな、そろそろ失礼させて貰うぜ」
「あぁ、是非【スペード】くんにはよろしく伝えておいてくれ」

マギアの口から出たその名に、女はいよいよ絶望する。
この世界に於いて、その名を名乗る人物など1人しかいない。今回の一件は最初から勝ち目など無かったのだ。
男はスタスタと歩いていくが途中、ふと立ち止まると振り向き、マギアに向かって告げる。

「2度目のチャンスをくれてやったんだ。今度こそ、壊してくれるなよ」

冷ややかな声で、冷ややかな態度で。だが何処か愉しんでいる様子で。そのままマギアの返答を聞かず、男は手をひらひらと振りながら去って行った。

「全く、何処まで見透かしてるのか、分かったものじゃないな」

男が去った後、マギアは独り言のように呟く。

「あぁ、もちろん。私は同じ失敗はしないタチだからね」
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