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学園内はザワついていた。それはもう、とても。騒ぎの中心である教員室の外では騒ぎを聞きつけた生徒達が、中では蚊帳の外となっている教員が、それぞれこの騒ぎを何事かと見ていた。
この騒ぎの原因ともいえる人物である白髪の小柄な人物は腰に手を当て困った顔で、詰め寄ってくる相手を見る。詰め寄っている相手である女性は怒りを全面に出した表情で白髪の人物に迫っていた。

「あなたみたいな得体の知れない人が魔術科の合同授業の特別教師ですって?」
「アハハ、得体の知れないって部分は我ながら同意だけど、一応ここの学園長に指名されてはいるよ」
「それは本当なのかしらね?ここにいるこの方の方が登録をされていて、指名される上での書類もお持ちですわよ」

そう言いながら女は隣にいる男をずいと押す。押された男の方は得意げな顔で白髪の人物を見下した。先程から似たような事を延々と繰り返しているこの騒動に、白髪の人物は少し飽き飽きとした表情を見せていた。
ちらりと野次馬達を見つつ、はぁ、と溜息を吐きながら白髪の人物は腕を組むと、ある提案をした。

「もうこのままじゃ拉致があかないし、手っ取り早く手合わせとかで決めようよ。ボクが負けたら潔く引く。頭下げてほしいなら下げるよ」
「いいでしょう。こちらが負けても同様でいいわよね?」
「もちろん構わないよ」

正に売り言葉に買い言葉とはこの事だろう。女も頷きながら肯定を返す。
そうして話はとんとんと進み、大勢の生徒と教職員が見ている中庭にて。

「え、何この騒ぎ?」
「なんかぁ、手合わせするんだって〜」

たまたま通りかかったミコトが思わず足を止めてそう呟くと、その後ろから声が掛かる。振り向くと、見覚えのある黒髪のツインテールの少女がニコニコと笑いながらミコトの呟きに答えた。

「確か君はあの時の…」
「覚えててくれてたんだね、嬉しいな〜♫」
「まぁ流石にあの一連の出来事は忘れられないっていうか…」
「確かにそれはそう」

先日の魔術科合同授業を思い出し、ハハと乾いた笑みを返しながら言う。
ニコニコと笑いながらそういう少女は、ふと何か思い出したようにあ、と呟くとくるりと回って言葉を続けた。

「そうだ自己紹介がまだだったよね?アタシ、アンナ・ステラ。クラスはCクラスだよ。よろしくねミコトちん♫」
「私はBクラスの……ってあれ、なんで私の名前…」
「実はね、あの後に教えて貰ってたんだ〜。だから知ってるの」

前髪で片目を隠したアンナと名乗る少女は、そう言いながら申し訳なさそうに眉を下げる。

「勝手に聞いちゃっててゴメンねぇ」
「ううん、大丈夫。ちょっとビックリしたけど」
「だよね〜。アタシがミコトちんの立場だったら超ビックリするもん」

自分でした事にうんうん、と頷きながら言うアンナに思わず笑いそうになる。

「一応改めて…ミコト・アウデュラだよ。よろしく、アンナさん」
「さんだなんてそんな〜、同じ学年なんだし、呼び捨てでいいよ」
「えっと、じゃあ…アンナ」
「うんうん、よろしくねミコトちん♪」

そう握手をしながらお互いに自己紹介をした所で、わぁ、と大きな声援があがる。何があったのかと見てみれば、どうやら手合わせは始まっていたようで、中庭では土煙が上がっていた。見たところ、男が相手に魔術を展開したのだろう。それも恐らく威力が高いものを。先程の声援は、普段あまり見ることの無いようなハイクラスの魔術を見た事による歓声なのだろう。

「おぉ〜、やっぱり大人同士にもなると、威力は凄いね〜」
「そうだね」

ニヤリと笑う男は自身の勝ちを確信している事が、誰の目から見ても明らかだ。
程なくして土煙が収まると、勝ちを確信していた男の表情が変わる。そこにいたのは倒れている相手……ではなく、淡く緑色に発光する繭のような壁を展開している、相手である白髪の人物だった。壁が全ての攻撃を受けきったようで、本人には傷どころか埃一つ付いていない。

「なっ……!?」
「【神秘の繭コフィンコフィン】。ただの防御魔法さ。もちろん知ってるだろう?」
「グッ……!ま、魔術展開!【創造する土人形クリエイトゴーレム】!」

その光景を見ていたミコトもまた気付く。男が相手している人が、何度も助けてくれたあの人物であることを。
男が再度魔術を発動させる。巨人を思わせる程大きな土で出来た人型の物体は、そのまま白髪の人物へ向かって拳を振り翳す。が、当たる直前で全て崩れ、土へと戻ってしまう。
それは、男が何度やっても結果は変わらず。相手は1歩たりとも動いて居ないハズなのに、何処か男が劣勢のようにさえ見えてくる。
やがて男の攻撃が止まったタイミングで白髪の人物は口を開いた。

「【魔術の強制解除マジックキャンセル】」
「ッ、バカな…!?」
「文字通り、展開される魔術を解除し無効とする魔術だよ。って、当然知ってるか」
「貴様……っ!?」
「あ、もしかして知らなかった?」

ワナワナと震える男に対し、イタズラっ子のように笑う白髪の人物。
知らない者がいる方が少ないとされる高等魔術の類いを、目の前の人物は更に高等とされる詠唱なしで展開させて見せたのだ。それも複数回。そしてなにより…

「貴様……どうして“魔術”と“魔法”を使える!?」

男の問に応えることは無く、無言で返される。
この世界に於いて魔法と魔術は両立して使う事が基本的には出来ない。使う器が全くもって違うからだ。そして、原則として、人間はその器はどちらかしか持ちえない。しかし、目の前の相手は両方を使ってみせたのだ。ごく自然で、当たり前のように。
応えないことに苛立ちを覚えた男は、なりふり構わず魔力の塊を白髪の人物に向かって打ち込んでいく。それを淡々と躱しながら、口を開いた。

「ボクもキミに聞きたい事があるんだよね」
「クソっ!クソ、クソクソ…!」

乱雑に打ち込まれる魔力の塊を躱して、躱して、躱して。
男の攻撃が止んだタイミングで、白髪の人物は真剣な顔で、憎悪の相手を見たかのような瞳で、いつの間に近付いたのか男の後ろで口を開く。

「その最高にクソッタレな“違法魔具”の数々は一体何処で手に入れたのか、ボクに聞かせてくれる?」

その言葉と共に、男の片方の腕に手を伸ばすと、袖につけられていたカフスを引きちぎる。男は腕をブンと振って殴ろうとするが、白髪の人物はそれを易々と躱す。そして、引きちぎったカフスをパリンと指で割った。
一方で、白髪の人物の発した言葉に、見ていた周りの人物はざわつき始める。
白髪の人物の言葉が仮に本当であるのなら。このマギアに於いて男は教師として立つ資格は無い。それどころかマギアに居ることすら許されないのだ。

“違法魔具の使用は如何なる理由があれど全ての資格を剥奪する”。

それがこの学園都市『マギア』に於ける絶対的な決まりであり、 どんな人物に対しても門を開く『マギア』の唯一の条件。発覚次第、本人はもちろん、関わった人物まで警備隊による厳正な調査が入るだろう。
そもそも、この世界において違法魔具は作製した者も、使用した者も、厳しい罰則が下されるものだ。それが例えどんな理由であれども。
白髪の人物の言葉に男もまた動揺したのか、或いは図星をつかれたのか。今まで以上に乱雑で、短調的な攻撃を白髪の人物に撃ち始める。白髪の人物は再び淡々と避けながら、魔術を展開し始める。

「くそ!当たれ!当たれ!当たれ当たれ当たれ当たれ当たれェ!」
「今日が晴れててよかったよ。ボクの得意の魔術の威力と効果が上がるからね…魔術展開【従順な影の手シャドウハンド】!」

白髪の人物が展開した魔術で出来た真っ黒な手が、意志を持っているかのように男の攻撃を避けながら、男に向かって伸びていく。何本も伸びる真っ黒な手は、男の身につけているアクセサリーや、服のポケットらしい位置に伸びると、一斉に何かが割れたような、少し甲高い音を響かせる。その音が響いたと同時に男は、プツリと糸の切れた人形のように動きを止めた。

「まったく、使用者の生命力を使う違法魔具を複数個使うなんてバカだね。死にたいの?」

ストン、と静かに着地した白髪の人物が、冷静なトーンで男に向かって言い放つ。が、男は何も返さない。白髪の人物の言葉が届いていないのか、それとも無視をしているのか、ぶつぶつと何かを呟いている。その様子に、うーん、やり過ぎたかな、と唸る白髪の人物。

「え、何してるのあの人…」

ほぼ決着の決まった空気の漂う中で、通りかかったレオンがやや引き気味でいう。鞄を持っている様子から見るに、今しがた登校したのだろう。そんなレオンに、アンナと一緒に事を見ていたミコトが説明するとため息を吐き、中庭へと飛び降りた。ふわりと静かに着地をすると、ザワつく周りを他所に、レオンは呆れた様子で白髪の人物に向けて口を開いた。

「一体何やってるんですか?お仕事は?」
「これが今日の仕事…って言えばいい、かな…?」
「他の方々はご存知で?」
「…えっとねぇ……」
「まさか言ってないんですか?」

目を逸らす白髪の人物にレオンは溜息を吐く。その様子にザワつく周り。そのザワつきは第三の声で更にヒートアップする。

「その様子だと『また』誰にも言ってないで来たね?全く、昔から相も変わらずみたいだな、スペードくん?」
「アハハ〜……か、かる〜くは言ったよ?それにほら!今日は1人では来てないし!」
「こういう時のこの人は大抵嘘が混ざってます」
「ちょっ、レオ!?」
「フフ、昔から変わらないからね。知ってるさ」
「あぁ。そう言えば学園長はご存知でしたか」

何事も無いように話す3人を他所に、一瞬の静けさの後、周りのザワつきはいよいよ最高潮を迎える。突如現れた第三者である学園長であるマギアと、誰もが知るレオン・クラウンドール。
そして何よりマギアが白髪の人物に対して言った「スペード」という名前。

「ええええええええええ!!!!!?????」

この場にいる殆どの人物が声を揃えて絶叫に近い驚きの声を上げた。
この世界に於いて、たった1人の人物を指す名前が幾つかある。『スペード』という名前もその内の1つであり、この世界で知らない者は居ないとさえ言われる程、浸透された名前である。
この世界で生まれる化け物─魔物や怪異達を相手を専門とする組織、『黒薔薇庭園ブラックローズガーデン』。所属する全員が並外れた力を持つと言われる程強く、そして、その中でも最も強いとさえ言われる人物。
その人物の名前こそ、『スペード』なのである。
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