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大事件が起きてから数日経って。学園都市全体を見渡すことが出来る時計台の展望室。この学園都市を統括する存在とも言える彼女、マギアは静かに学園都市を眺めていた。誰も見ていないから、と用意されているベンチではなく、床に座りながら先日の騒動を冷静に思い返す。
黒薔薇庭園の一員であるジョーカーが引渡してくれた実行犯は、尋問の最中、拘留中に突如として息絶えてしまった。勿論、マギア側は事前に持ち物は確認していたし、簡単に自害されないようにしていた。しかし結果としては情報をあまり引き出せずに息絶えている。
だとすれば、考えられる事は…
「ここにいましたか。探しましたよ」
コンコン、という音と共にその声で現実に引き戻される。振り返れば、開きっぱなしの扉にノックをした後であろう、知った顔が凭れかかって立っていた。
「やぁ、ナツキくんか」
「学園長室に最初に立ち寄ったんですがね。居なかったので、ここかと」
「それは悪かったね。少し考え事をしたくてね」
「先日の事でしょう?その件でこちらもお話出来ればと思いまして」
軍服のような堅苦しい服装に身を包んだ、ナツキと呼ばれた茶髪の青年がそういいながら笑みを浮かべる。
「我々も動いたのですから、よければ情報の共有を頂けたら、と」
「……それもそうだな」
ナツキの言葉に頷きながらマギアはすくりと床から立ち上がる。そのままベンチに腰掛けると、ナツキに座るよう促す。
「今回の騒動の首謀者に関してだが、知っての通り身柄はこちらにある。が、情報を得る前に死んでしまってね」
「失敗するとは、珍しいですね」
「いや、確かに途中ではあったが失敗するようなタイミングではまずなかった。なんせ獄中死だ。ともすれば、考えうる可能性は別にある」
「…情報漏洩の阻止の為に自害させる魔術或いは魔法、ですか」
「恐らくはな」
真剣な表情でそう言うマギア。ナツキも真剣な表情で顎に手を当てる。
「そのような魔術や魔法に覚えは?」
「無いな。だからこそ、困惑している」
マギアは眉を顰め、ずっと考えていた最悪の想定を口に出す。
「私が知らない、ということは即ち魔法や魔術を生み出せる、ということだ。私が知っている限り、それが出来る人物など、多いようで少ない」
「…はじまりの一族、或いは大魔女、ですか」
同じように眉を顰めたナツキの返答に、マギアは静かに頷く。
はじまりの一族とは、5つの属性の魔術をそれぞれ最初に使ったとされる一族を指す。
火の一族『マグノリア』。
水の一族『ウラミネル』。
地の一族『ミレニア』。
闇の一族『ルシア』。
光の一族『ラミエレナ』。
この五家を総じて、はじまりの一族と世界は呼ぶ。
そして、大魔女とは、魔女と呼ばれる数多の魔法を使うもの達の中で、一際魔法の技術が高い者を指す言葉だ。現在において、大魔女の名を持つ者は4人。
『慈愛の大魔女』。
『知識の大魔女』。
『創生の大魔女』。
『真実の大魔女』。
それぞれ敬意を持ってそう呼ばれている。
どちらにしても、大きな存在であり、少なくともあまり敵に回したくない存在である。
「全く、厄介な事件になりそうだ」
思わずそう呟いたマギアに、ナツキも肯定の言葉を返す。
一瞬の重い沈黙のあと、マギアは真剣な表情のまま、ナツキに謝罪の言葉を述べる。
「悪いね、あまり共有できる情報がなくて」
「いえ、少なくとも大きな存在が背後にいると分かっただけ進展でしょう。こちらでも調べてみます」
ベンチから立ち上がったナツキはそう言うと、つきましては、と交渉の言葉をマギアに持ちかける。
「話に聞いている生徒からこちらからも直接話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「あぁ、構わないよ。彼女以外にも何人か記憶が残っている生徒もいるようだ。キミの子もその1人のようだしな」
「自分の子…ではなく、正しくはフユカの所の子、ですよ」
キミの子、と言われたナツキは苦笑いを浮かべ、言葉を訂正する。マギアは笑ってそうか、と返す。そんなマギアにナツキは再び真剣な表情を浮かべると、もう1つの要件を伝える。
「今回、あの人たちも関わった、と聞いています。近々お会いしたいのですが、そちらからもお伝え頂けませんか?」
「あぁ、構わないよ。私もあの子には色々話したいことがあってね。伝えておこう」
「ありがとうございます」
そう言ってマギアに頭を下げると、ナツキはでは、と言って去っていった。展望室には再びマギア1人だけとなる。マギアはゆっくりと窓に近付き、外を眺める。
展望室から外を眺めると、全てのエリアが見渡せるようになっている。どのエリアも人で賑わっていて、楽しそうに笑っている。
この空間を守ることが、この都市を築いた自身の役割だ。そうマギアは思っている。
しかし、件の騒動以降から嫌な予感が胸をざわつかせている。まるで、この都市全てが崩れるような、そんな予感が。この騒動がほんの序章に過ぎないような、そんな気がしてならない。
「……ただの考えすぎだといいんだがな」
そうぽつりと呟くと、マギアも展望室を後にした。本当に、これが始まりだとは思いもせずに。
黒薔薇庭園の一員であるジョーカーが引渡してくれた実行犯は、尋問の最中、拘留中に突如として息絶えてしまった。勿論、マギア側は事前に持ち物は確認していたし、簡単に自害されないようにしていた。しかし結果としては情報をあまり引き出せずに息絶えている。
だとすれば、考えられる事は…
「ここにいましたか。探しましたよ」
コンコン、という音と共にその声で現実に引き戻される。振り返れば、開きっぱなしの扉にノックをした後であろう、知った顔が凭れかかって立っていた。
「やぁ、ナツキくんか」
「学園長室に最初に立ち寄ったんですがね。居なかったので、ここかと」
「それは悪かったね。少し考え事をしたくてね」
「先日の事でしょう?その件でこちらもお話出来ればと思いまして」
軍服のような堅苦しい服装に身を包んだ、ナツキと呼ばれた茶髪の青年がそういいながら笑みを浮かべる。
「我々も動いたのですから、よければ情報の共有を頂けたら、と」
「……それもそうだな」
ナツキの言葉に頷きながらマギアはすくりと床から立ち上がる。そのままベンチに腰掛けると、ナツキに座るよう促す。
「今回の騒動の首謀者に関してだが、知っての通り身柄はこちらにある。が、情報を得る前に死んでしまってね」
「失敗するとは、珍しいですね」
「いや、確かに途中ではあったが失敗するようなタイミングではまずなかった。なんせ獄中死だ。ともすれば、考えうる可能性は別にある」
「…情報漏洩の阻止の為に自害させる魔術或いは魔法、ですか」
「恐らくはな」
真剣な表情でそう言うマギア。ナツキも真剣な表情で顎に手を当てる。
「そのような魔術や魔法に覚えは?」
「無いな。だからこそ、困惑している」
マギアは眉を顰め、ずっと考えていた最悪の想定を口に出す。
「私が知らない、ということは即ち魔法や魔術を生み出せる、ということだ。私が知っている限り、それが出来る人物など、多いようで少ない」
「…はじまりの一族、或いは大魔女、ですか」
同じように眉を顰めたナツキの返答に、マギアは静かに頷く。
はじまりの一族とは、5つの属性の魔術をそれぞれ最初に使ったとされる一族を指す。
火の一族『マグノリア』。
水の一族『ウラミネル』。
地の一族『ミレニア』。
闇の一族『ルシア』。
光の一族『ラミエレナ』。
この五家を総じて、はじまりの一族と世界は呼ぶ。
そして、大魔女とは、魔女と呼ばれる数多の魔法を使うもの達の中で、一際魔法の技術が高い者を指す言葉だ。現在において、大魔女の名を持つ者は4人。
『慈愛の大魔女』。
『知識の大魔女』。
『創生の大魔女』。
『真実の大魔女』。
それぞれ敬意を持ってそう呼ばれている。
どちらにしても、大きな存在であり、少なくともあまり敵に回したくない存在である。
「全く、厄介な事件になりそうだ」
思わずそう呟いたマギアに、ナツキも肯定の言葉を返す。
一瞬の重い沈黙のあと、マギアは真剣な表情のまま、ナツキに謝罪の言葉を述べる。
「悪いね、あまり共有できる情報がなくて」
「いえ、少なくとも大きな存在が背後にいると分かっただけ進展でしょう。こちらでも調べてみます」
ベンチから立ち上がったナツキはそう言うと、つきましては、と交渉の言葉をマギアに持ちかける。
「話に聞いている生徒からこちらからも直接話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「あぁ、構わないよ。彼女以外にも何人か記憶が残っている生徒もいるようだ。キミの子もその1人のようだしな」
「自分の子…ではなく、正しくはフユカの所の子、ですよ」
キミの子、と言われたナツキは苦笑いを浮かべ、言葉を訂正する。マギアは笑ってそうか、と返す。そんなマギアにナツキは再び真剣な表情を浮かべると、もう1つの要件を伝える。
「今回、あの人たちも関わった、と聞いています。近々お会いしたいのですが、そちらからもお伝え頂けませんか?」
「あぁ、構わないよ。私もあの子には色々話したいことがあってね。伝えておこう」
「ありがとうございます」
そう言ってマギアに頭を下げると、ナツキはでは、と言って去っていった。展望室には再びマギア1人だけとなる。マギアはゆっくりと窓に近付き、外を眺める。
展望室から外を眺めると、全てのエリアが見渡せるようになっている。どのエリアも人で賑わっていて、楽しそうに笑っている。
この空間を守ることが、この都市を築いた自身の役割だ。そうマギアは思っている。
しかし、件の騒動以降から嫌な予感が胸をざわつかせている。まるで、この都市全てが崩れるような、そんな予感が。この騒動がほんの序章に過ぎないような、そんな気がしてならない。
「……ただの考えすぎだといいんだがな」
そうぽつりと呟くと、マギアも展望室を後にした。本当に、これが始まりだとは思いもせずに。
