リーブ
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懐かしい夢を見た。
古い古い夢、私が“与える側”だったときの夢。
若かったなぁ、あの時の子は今何してるだろう。なんて漠然と考えながら枕元の時計の針は予定より30分も進んでいた。
やばかった。頭の中で同僚の「ヤバイヤバイヤバイぞ、と」という台詞が無限ループしながらギリギリの時間でタイムカードを打った。
我ながら素晴らしい早着替えに身支度。きっと早着替え大会があればクラス1stのソルジャーにだっていい勝負をするだろう。………寝坊してる時は。
肩で息を整えながら手に持っていたジャケットを椅子にかけて今日の予定をデスクで確認する。
今日も今日とて同僚は外か、と思いながら羨ましさを含んだ溜息をこぼす
…………当たり前か、むしろ私の方がタークス所属のくせしてとてもイレギュラーな事をしてる自覚はある。
気を取り直してパソコンを立ち上げる。
カタカタカタカタ
書類制作や処理を繰り返し私を含めて数人のキーボードを打つ音が響く、11:27。ディスプレイの右下に表示される時間を確認してギシッと椅子に体重を預ける。
つ、かれたなぁ…最近外の仕事が多すぎてデスクワークが完全に不慣れになっているのを実感しつつ寝坊したせいで朝食を食べそこねたお腹がぐぅ、と鳴る。………結構響いた。
少し離れたデスクの子がクスクスと笑う声が聞こえて私がそっちを向くと目が合う。
「お昼行ってきたらどうですか」
もう終わられたんでしょ?と言う彼女の提案を採用して席を立ちオフィスを出ようとした時、私に反応したわけじゃない自動ドアが開く。そこにはツォンさん。
「お疲れさまです。」
「あぁ、ちょうど良かった(名前)。手は開いてるか」
「はい、大丈夫です。」
ちょっと嫌な予感がする。
「これから古代種の元へ行ってくれ。ルード達に行かせたが厄介なことになったみたいだ。」
「分かりました、すぐに向かいます。」
席に置いてたジャケットを手に取り袖を通しながらオフィスを出る。
あー、今日はご飯食べれない気がする、どうしよう。と悩みながら階段へと足を向けた。
結局そのまま何も咥えることが出来ずに私は五番街へと到着。
こちらに向かう途中レノ達から入った情報によると五番街スラムに軍用犬が暴れてるらしい。ツォンさんに討伐の許可は取っているがどうにも様子がおかしいのと数がおかしい為応援として私が呼び出された。
レノとルードが居るにも関わらず応援を呼ぶという事は気を抜くことが許されない事は確かなので私は走りながらグローブを嵌め直す。
耳に嵌めてるヘッドセットの側面を2回タップしてルードに繋ぐ。
「五番街到着しました。応答願います。」
「来たか。それじゃあ早速だが教会の方に来てくれ」
「分かりました。」
プッと通信が切れるのを聞きながら教会方面へ向かう。
ここからなら上を行ったほうが早いと判断した私は廃墟の上へ上りそのまま走る、走って走って時々跳んで。
たまに足を滑らせて滑り落ちそうになりながら教会の屋根に到着。
下を確認すれば見慣れた赤髪が警棒で応戦中なのを確認、兎にも角にも私はご飯が食べたいのでさっさと終わらせる為に上から軍用犬に力づくで伏せをさせる。
「お待たせ。」
「来るのが遅いぞ。と」
「文句言わないでよ、こちとらお昼返上で来てるのよ?今日は絶対残業しないからね。」
「それならこの後昼飯食いに行くか。」
「奢ってくれるなら。」
「昼くらいルードが奢ってやるぞ。と」
「よし、じゃあ決まりね!」
「待て、それはおかしい。」
軽口を叩きながら軍用犬を片っ端からのしていくけど、おかしい、何かが…どこか気持ち悪い違和感を感じているとその違和感は確信へと変わる。
最初にかかと落としをした軍用犬が立ち上がってこちらに来た。
私の靴は踵とつま先に鉄板を仕込んでる、普通ならこんなことありえない。その違和感の答えを知る為にこちらに来る軍用犬の口の中に愛用のハンドガンを突っ込みトリガーを引く。そのまま後方へ吹き飛んだ軍用犬の絶命を確認すれば首に繋がれたタグを見る。
「レノ!ルード!!駄目だ!!この子達科学部門のだ!!!」
「はぁ!?!?」
「警棒の電流位じゃトドメがさせない!」
「電流耐性でもつけさせてるのか」
「恐らく!物理耐性も強い!!気をつけて!!」
「それが分かれば」
「余裕だぞ、と!」
相手のことが分かれば後は対応が出来る。
さっきまで苦戦していた軍用犬を片っ端から片付けていく、もうあと数匹…グローブ下のナックルを握り直した時に一匹が教会の中へ入るのを捉える。
まさか………!!!
「やばい!(名前)!!」
レノのその声だけですべてが分かる。
他の軍用犬を全てレノ達に任せて私は一目散に教会内へ入る、予想は的中。
「エアリス!!!」
「……!(名前)!!」
エアリスに飛びかかろうとしていた軍用犬の首を後ろから締めて泡を吹くのを確認してから首を捻りとどめを刺す。
首輪に繋がるタグを取りポケットにしまえばエアリスを立たせるために手を差し出す。
「エアリス、怪我は?」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
「それなら良かった。」
外も全て片付いたらしくレノ達が教会に入ってくる。
それを捉えたエアリスは私の背中に隠れるようにしてじっとレノ達を見据える。
「助けてくれてありがとう、だけど私は付いていかない!」
「それならそれでいいけど今盾にしてる(名前)もタークスだぞ、と」
そう言われて「あ。」と溢しながらチラリを私を見上げるエアリスを見ながら頭を撫でる。
「大丈夫、今日の私はレノ達の応援に来ただけだから。」
「本当?」
「本当。何なら家まで送るよ。行こう」
「うん!」
ーーー
エアリスを家まで送り本社に戻ろうとした時、多分気が抜けてたんだと思う。盛大に………お腹が鳴った。
ブハッ、と隠すことなく吹き出したレノの脇腹に肘打ちをする。ちょっとルード、あなたかも密かに笑ってるの聞こえてるからね。
はぁ、本当にお腹すいた。早くご飯が食べたい。
ここら辺に食べ物屋さんは何処だろうか、と考えていたら少しだけ目をパチクリしたエアリスが素敵な提案をくれた。
「ご飯、食べてく?」
「いいの?」
しまった。咄嗟の事で提案に乗ったけど多分エルミナが嫌がる。私の考えがわかったらしいエアリスは家の中に居るエルミナ説得しに行った。そして私が踵を返す前に再び玄関を開けて家へ招き入れる。
行動が本当に早い、そしてこれは断れない事だけは分かってるので私はエアリスの言葉に甘える事にした。
「エアリスが助けられたらしいからね、簡単なものしかないけど。」
そう言いながら美味しそうな湯気の漂うシチューとバケットをエルミナは出してくれた。
口の中で溢れる涎に喉を鳴らすとまたお腹が鳴る。
するとエアリスが「どうぞ。」と言いながらスプーンを渡して来てくれたので遠慮せず手を合わせて食べ始める。
「いただきます。」
「どうぞ、召し上がれ」
一口、スプーンで掬って飲む。
優しくて温かいホワイトソースが喉を通り食道を落ちて胃に入るのを感じる。
「う、うぅ…………」
口にした瞬間私が唸り声を上げるものだからエアリスが心配して来てくれたが多分勘違いされてる。
「(名前)大丈夫?」
「大、丈夫…」
「何かあったの…??」
「ちが、違うの…」
やばい、変に間を作ってしまってエルミナやレノ達がこちらを見つめる。
「………美味しくって…」
「…え?」
「私、昨日から忙しくてご飯食べれなかったから…美味しくってぇ…」
半泣きになりながらシチューを掻き込む私をレノ達は呆れながら、エアリスは微笑みながら眺めている。
それから哀れと思われたのだろう、エルミナがおかわりを沢山食べさせてくれたおかげで私の先程までの空腹は何処へやら。半泣きだったのも過去の物となりエアリスの家から本社に戻ろうとしていた時だった、エアリスが「少し待って」と言って家の前にある花畑にパタパタと掛けていった。
もうここまで来てしまえば今更時間なんて関係ないので素直に私達が待っていると隣でレノがからかって来る。
「お前…いくらなんでも空腹で泣くなよ、と」
「好きで泣いてたんじゃないんだもん。」
「…あんまり情が移る事は賛成しないぞ。」
「わかってる」
付き合いが長いとどうしても情が移るのは人間として仕方ないとは思ってるけど、でもそれは言い訳にしかならない。
まぁ、あのツォンさんだってオフィスでこそエアリスの事を古代種と呼んでたけど結構情が移ってるのを私は知っている。レノ達も薄々気づいてるかもしれないけど。
そんな話をしてたらエアリスが何か抱えてこちらに戻ってきた。
「これ あげる!」
「青い、花?」
「うん、この間咲いたんだけど、珍しく青でね(名前)に渡そうと思ってたの」
微笑むエアリスから花束を受け取ると香りを嗅ぐ。
一輪が沢山の花びらでボリュームのあるお花、ここに包まれてるのは10本ほど、それでも立派な花束だ。
「花言葉は永遠の幸福」
「ありがとう、エアリス。」
「(名前)は相手に膝をついてお伽噺の王子様みたいにお花をプレゼントしそうだな、って思ってたんだけどやっぱりお花受け取る側でも素敵だね」
「本物のお花なんて渡したことも貰ったこともないよ。」
「そうなの?なら私が初めてだね!」
花が咲くような笑うとはこの事だろう、エアリスが可愛くて愛おしくて仕方なく思う。
ギュッとエアリスを抱きしめたら嬉しそうに背中に手を回してくれる。
「私ね、(名前)のこと好きなんだ。」
「急な告白だね」
「あ、好きって言ってもそういう意味じゃないんだよ!ほら、(名前)は優しいでしょ?悪い人じゃないし、私の家に来る人の中じゃ私、(名前)が凄く好きなの、だから…」
エアリスは私の目を捉えて微笑みながら言う。
「(名前)にもお花、好きになってもらいたくて」
あぁ、本当にこの子はどこまで私のことを見透かしてるんだろう。そう思っても口には出さないが、
エアリスの頭を少し乱暴に撫でて髪型を崩したら頬を膨らましながら私から離れる。
「もう戻るよ、予定より長く居過ぎた。エアリス、また来るね」
「うん、またお花用意してるね。」
本当は良くないけどこれが私とエアリスの距離だから仕方ない。そして私はルードが予め呼んでてくれた神羅のヘリに乗り込み本社まで戻った。
ーーー
エアリスから花を受け取った事、と言うよりはそこまで親しくなってしまっている現状をツォンさんに少し咎められたが花束の花を一本渡したら大人しくなったので絶対人のこと言えないよな、と思いながら報告書を提出してタイムカードを切る。
警護対象との親密度より科学部門の管理の甘さと風通しの悪すぎる研究をもう少し咎めてほしいものだと思いつつ口には出さずにオフィスを出た。
地下のタークスオフィスからエレベーターボタンの上を押して待つ。
…………………やっぱり階段のほうが早いな。
潔く諦めて私は階段を登って一階の裏口から本社ビルを出た。
今日の私は定時退社してるが彼が定時に帰ってる姿を見たのは両手で足りる程度だったからメッセージを一つ入れてそのまま帰路を辿ることにした。
“お疲れ様です。
今日は定時退社したのでお家に行きますね。
お仕事終わったらご連絡下さい。”
返事が来るとしたら2時間後位かなぁ、なんて思いつつエアリスから貰った花束を眺めながら歩みを進める。
人通りの多い通りから少し入って高級住宅街に出ると途端に人の交通量が減る、街灯はあるし道は舗装されてるから治安が悪いわけじゃないんだけど純粋に住んでる人間の数だと思う。
今朝は寝坊して全力疾走してたり、昼は五番街の犬っころ相手に応戦してたから気づかなかったが結構冷える。
秋も終わって冬に片脚、いや両足突っ込んでる今。日暮れはとても早くて会社を出たときの夕暮れが今はもう居なくなっている。
一応治安がそこまで悪くない所だけど逆に住民を狙った窃盗とかがない訳でもないから念の為で少し身構えて歩く。
襲われる心配というか正当防衛をしたらついうっかり過剰防衛になりそうだから。
そんなところに気を付けながらマンションが見える所まで来た時、後ろから息を切らした呼吸音が聞こえてくる。
その音は段々大きくなってきてこちらに近づいている。窃盗ならもっと静かに来るはず、変質者?それとも暴漢?どの道返り討ちにするつもりだが油断はしない。
呼吸音は大きく、ガタガタの足音も大きくなってくる。そしてそのまま私の肩に手を置こうとした時、私は牽制の意味を込めて振り返りながら警棒を伸ばし相手の首に当てた。…ら、え?
「ま、待って(名前)さん!私です、リーブです。」
「リーブさん!」
「その、ひとまずこの警棒離してもらってもいいですか…」
「あ、ごめんなさい!」
暴漢かと警戒していた相手は先程メッセージを送ったリーブさんだった。急な事で拍子抜けしたけどひとまず警棒をしまいリーブさんの息が整うのを待つ。
「メッセージはさっき見たんです、今日は外に出てて、運転手さんが居たので予定通り直帰してたんですが少し後ろから(名前)さんの姿が見えたので手前で降ろして貰ったんです。」
にしても歩くの早くないですか…と溢しながら額に汗を滲ませ肩で息をするリーブさんの背中を擦る。
少し待つと呼吸も落ち着いたらしく曲げていた背中を伸ばしてポケットからハンカチを取り出しと汗を拭いている。
「ふふ、」
「どうしたんですか?なにか面白いことでも?」
「いえ、私を見かけたからってわざわざ車から降りて走ってくるなんて、神羅カンパニーの幹部様がする行動だとは思いづらくて」
「幹部とか関係あります?走りますよ。(名前)さんに1秒でも早く会えるなら。」
「車のほうが走るより早いですよ?」
「そうなんですけど、まさかこんなに歩くの早いとは思ってなくて」
急にマジックミラーになってる高級車を横付けしたら怖がるだろう、て配慮なんだろうな。とは分かってるけどやっぱり少しだけこの状況が楽しく思える。…うん。いいかもしれない。
「………リーブさん」
「どうされました?」
呼吸も汗も落ち着いたらしいリーブさんはいつも通りのトーンで応える。
180cmの彼は普段から少しだけ私を見下ろす形なのだが今その身長差をより大きくさせる。
手にしていた花束を彼に差し出しながら私は思いつく言葉をそのまま音にする。
「どうかこれからも、私を貴方の側に居させてください。」
もう二度とすることはないと思っていた私からの求愛行動。エアリスから背中を押されなきゃ一生しなかっただろうな、と思いながら彼の反応を見つめる。
最初は何が起こってるのか分からなそうだった顔が段々と今の状況と言葉を理解して赤くなったと思ったら周りをキョロキョロと見る、人が居ないか確認してるんだろうなぁ。とリーブさんの感情が手にとるように分かる事なんてあんまり無いから今この状況だけでも私は相当楽しんでしまっている、すると口元を片手で軽く覆って目線の高さを揃える。
「(名前)さん、それは本来私がするべき事ですよね」
「私がリーブさんに渡したいと思ったんです。受け取ってはくれませんか?」
恥ずかしそうに言うリーブさんに私は卑怯な応えをする。
「受け取らないわけ、ないじゃないですか。」
「それなら良かった。」
さっき走ってきてたせいかな、リーブさんの髪型が少し崩れてるのを見た私は彼の落ちた髪を耳にかけると同時に花束から一輪取り出すとリーブさんの髪につける。
深い海のような青で何枚にも重なった花はリーブさんには少し派手だった。
「やっぱり似合いませんね」
少し笑いながら私が立ち上がってリーブさんに手を差し伸べたら迷わず手を取ってくれる、そのまま立ち上がったリーブさんは手を離すことなく「帰りましょうか」と言った。
私は言葉で返事をしなかったけど、ギュッと手を握り返した。
「これ、本物ですか?高かったのでは?」
「頂きものなんです。」
「彼女から、ですか?」
「はい」
「慕わせているんですね」
「ツォンさん程じゃないですよ」
そういえば、エアリスが花をくれた時に言っていた言葉を思い出す。そっか、うん。
「リーブさん、」
「はい」
「好きです。きっとずっと、これから先、」
リーブさんはまた少し照れた様子だったけど、今回は私と鞄で両手が塞がってるから隠すことなくはにかみながら応えてくれた。
「私もです」
願わくばずっと、今が続けばいい。
『花言葉は永遠の幸福』