ヴィンセント
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「まさか(名前)とお仕事する事ができるなんて思っても見なかった。」
彼女、ルクレツィアは嬉しそうに言う。
そうは言っても私は彼女の側に常にいる訳ではないし、彼女が何をしているか。なんて理解出来ない為─専門的すぎて私の学では理解不能という意─一緒に仕事をする。と言う言葉が適切かと言われると少し疑問だが。
まぁ、嬉しそうな彼女の顔を悲しませるような事を言うほど私も空気が読めない訳でもなければ私自身ルクレツィアと居れるこの任務には少しだけ気持ちが浮足立っているのも事実だった。
そして後ろでずっと私達の会話を見ているだけだった彼に気づきルクレツィアに紹介する。
「彼はヴィンセント、私の同僚で今回の護衛任務に一緒につくことになったの。」
「この人もタークスなの?」
「まぁね。」
「私、(名前)以外のタークスに会うのは初めてなの。よろしくね、護衛さん。」
少し無邪気さの残る笑みで彼女はヴィンセントに挨拶をする。
長丁場になるだろうとは思っていたがまさかこの任務で私の、嫌、私達の運命があんな事になるなんてこの時の私は微塵も思っていなかった。
──────────────
ヴィンセントがルクレツィアに惹かれていた頃、私はルクレツィアに呼ばれ一緒に食事を取っていた。
同僚の目から見てわかる程のヴィンセント、そしてそれを本気で嫌がってる訳でもないルクレツィアの姿を文字通り一番近くで見ていた私はルクレツィアに食事へ誘われた時、「きっとヴィンセントの事だな」と良い意味で考えていた。
しかし招かれた食事の席で見た彼女の顔は少なくとも“浮かれた恋愛の話をする顔”ではなかった。その表情は何処か暗く自責の念に苛まれている様なのは見て取れた。
一通りの食事を終え食後のコーヒーを口にしていた時、
どう切り出せばいいのか、何から話せばいいのか、真っ暗な海から砂を掴むように、最適解を探すように口を少し開けては閉じてを繰り返しうつむき加減の瞳を左右に振っているルクレツィア。
私はただルクレツィアの言葉を待つ。
少し待つと筋を建てれたのかルクレツィアが話し始める。
「グリモア博士を覚えてる?」
彼女が考えあぐねた結果最初に出した言葉は彼女が敬愛していた博士の名前だった。
「勿論。」
「ヴィンセントは、グリモア博士の息子さん。なんだね」
私は返事が出来なかった。
それを知らなかった訳ではない、そうで無ければわざわざ彼女に紹介する時ファーストネームしか名乗らなかったことの話が通らない。
只々、少し目を伏せながら頷いた。
彼女とグリモア博士の間にあった事、知らない訳ではない。
でも、だからといってそれとこれとがイコールで結ばれるなんて思ってない。
「ルクレツィア、私はね」
「気を使ってくれてたのよね。」
彼女のその言葉は私が彼を紹介したときの話だった。
「………ごめん。」
「なんで謝るの?(名前)は何も悪い事してないじゃない」
「いらないお節介だったかと思って、」
「そんなことないよ。(名前)はいつも、私の事を考えてくれてるの知ってるもの。」
「ルクレツィア…」
彼女は穏やかに微笑んでいた。
「(名前)は、ヴィンセントの事どう思ってるの?」
私は予想打にしていなかった話題に先程までの雰囲気は何処へやら。コーヒーが気管支に入り咽ていた。
「だ、大丈夫?!」
ルクレツィアがハンカチを差し出してくれるがそれを彼女の元へ押しやり首を振る。数回咳き込んだ後ナフキンで口元を拭う。
「なんで急に…」
「え、だってよく二人で居るじゃない。仲いいんだと思ってて」
───それは同じ任務に付いてるから情報共有だのなんだので一緒に行動することこ多いから、
「(名前)の視線の先にヴィンセントがいることも多いし」
───それは彼がよく居眠りに外へ出て交代時間になっても現れないから探してるだけで、
「それに…」
あぁ、駄目だ。こうなった彼女の思い込みの激しさは面倒くさい。
それは小さいときから共に育った従姉妹である私が一番よく知っている。
どうやってこの誤解を解くか。
というかヴィンセントはルクレツィアが好きだ。それはもう第三者から見れば公然たる事実なのだ、気づいてないのは当人くらい…むしろ気づいてなかったのか彼女は。その事実に今驚きを隠せれないかもしれない。頑張れヴィンセント。
しかし今、ヴィンセントの想い人を私の口から言うのはお門違いだしきっと彼女は素直に受け止めてくれない。
ひとまずは彼女の言うところによる“私とヴィンセントがいい感じなのでは”と言う要素の全てを折る事にした。
────────────────
ルクレツィアとの食事の出来事なんて彼女との他の食事で上書きされてもう忘れかけていた時だった。
私は今度はヴィンセントに呼ばれていた。
呼ばれた理由は何てことはない、「女性へのプレゼント」についてだった。
………ん?待って。今なんて?
私の認識に間違いが無ければルクレツィアとヴィンセントはまだ付き合っていない。
が、彼は今言った。「彼女と共に居たい、それを告げたい」と。
待ってくれ、それは世間で言うところのプロポーズにならない?そう思ったし、多分私の認識は間違ってない。が、まぁここまですれ違いまくってる二人の事だからもうこの際数段飛ばしのステップのが良い気もしてきたから私は同僚のそれを応援すべく持てる限りのアドバイスをした。
と言ってもこの男─ヴィンセント・ヴァレンタイン─は顔が良い。そこらへんのモデルよりも顔が良い。付け焼き刃で覚えた様な小手先の事などせずとも十二分に絵になる気持ちの伝え方が出来るだろう。
それに持てる限りのアドバイス。なんて大層なこと言っても私が提供できる事なんてルクレツィアの好きな色だとか好きなサンドイッチの具だとかの話程度だ。
後は好きな男のタイプとか、になるけどそれは話しちゃ駄目なことくらい分かってるから口を閉ざす。
タークス・オブ・タークスなんて呼ばれている男でもこんな姿するんだなぁ。と愉快になりながら私はヴィンセントの背中を見送った。
それが、少し前の話。
あの後、玉砕と言うか、まぁ玉砕したヴィンセントを慰めるなんて不要な事はせず私達はいつも通り護衛任務に努めていた。
それからは特に変わったことは無かった。
本当にいつも通り、この数年続けてきた護衛任務と何も変わらない日常が流れていた。
変化が起こったのはその少し後のことだった。
「宝条博士と………え?」
私はたった今彼女から告げられた言葉の意味を理解できずにいた。
何故?何時?いや、それはあまり関係なくて…どうしてそうなったのか。私には何も分からなかった。
それでも彼女の意志は固まっているようだった。
不意に私は彼の名前が口から溢れる。
「ヴィンセントには、言ったの…?」
「えぇ、」
彼はなんと言ったのだろう。
思考を巡らせるがそこに答えはなかった、ただあるのは眼前の事実のみ。
ルクレツィア、なんで?
そう思ったがやはりそれは音には出さなかった。
後にヴィンセントから聞くが彼は「彼女が幸せならそれで良い」とだけ言った。なんと自己犠牲的な考えの人だろうか。
しかし物事の展開はそれだけでは無かった。
───────────
「我が子を人体実験に使うなんて…!!」
神羅屋敷の地下研究施設でヴィンセントの声が響く。交代に来ていた私は急に聞こえた不穏なその台詞に駆け足で研究施設の扉を開けた。
「彼女もまた研究者なのだ…!!!」
そう声を響かせる宝条博士の側にはルクレツィア、そして対峙するように佇むヴィンセント。
私はただその光景を見つめていた。
一体なんの話をしているのか、研究者ではない私でも大体の話は見えた。そしてその内容は私にはあまりにも理解しがたいものだった。信じたくなかった。
口を挟もうとした瞬間宝条博士が白衣の下に手を入れる。
私は直感的にヴィンセントの名前を呼びながら腕を引いて彼の前に出る。
その刹那この狭い研究施設に銃声が轟く。
撃たれた。そう理解することは容易だったしきっと考える間もなく感じていた。
暑いよりも痛いよりも最初に感じたのは衝撃。一点を強く押される感覚。
その直後、熱い。喉の奥からドロリとしたものが沸き上がって口の橋から溢れる。
「ガハッ………」
顔を上げて宝条博士を見やる。簡単に倒れない私へ博士は更に数発、追い打ちをかけるように私の腹に鉛を打ち込む。痛みは無い。あるのは衝撃。
「(名前)、!」
ヴィンセントが私の名前を呼ぶ。
博士の銃口がそちらを向く、だめ、ヴィンセント…
声にならない訴えは届かない。
更に銃声が響く。その鉛は私の体に打ち込まれなかった、視界の端で彼が倒れる影だけが映る。
「ヴィンセント!(名前)!」
焦った様子のルクレツィアが駆け寄る。
あぁ、ごめんなさい。また、貴女の頬を濡らさせてしまう。
段々と意識が遠のく。
痛みはもう感じなくなっていった、
暗闇の中、私は地に足がついていなかった。
ここはどこ?
周りを見渡してもそこはただ先が見えない闇。
私は意識手放す前の記憶を手繰り寄せる、ルクレツィア、ヴィンセント…どこ?
まるで水の中に居るような感覚の私は声にならない呼び掛けをする、もちろん返事は無い。
じわじわと出どころのわからない焦燥感に駆られ始める。
それはきっと直前に見た記憶を少しずつ思い出していってるから、ルクレツィアの焦った顔。ヴィンセントが宝条に撃たれて倒れる所、そして一瞬でも目に入ったあの、─宝条のほくそ笑んだ口元が私を焦らせる。
手足と頭の感覚はある。しかし動かす事は叶わない。
それ以前に再び意識が遠のき始める、強制的に意識を閉ざそうとする…この感覚を私は知っている。
(………薬か、)
てっきり目が覚めて拘束でもされてるのかと思ったがどうやらここは精神世界であるようだと今になって理解する。
────私は再び意識を手放した。
─────────────────────
私はひとり、水の中で寛いでいた。
水中で仰向けに、水面へ浮かぶ事はなく。そのまま静かに…どれくらいの時間が過ぎたか、なんて数えるのが億劫になるくらいの時を。
少しだけ、外で音がする。
珍しい、こんなところに来る人間なんて来ることないのに。
すると静かに、そして穏やかに、そして唐突に“彼女”は降りてきた。
ピンクのワンピースにきれいな茶髪は私の親愛なる親友と一瞬だけ重なり、昔出会った女性を思い出させた。
このまま降りちゃうと岩肌に当たって怪我をしてしまう。傷つけないよう、優しく、ゆっくり彼女を抱き止める。
彼女の鼓動が水を揺らしてない事を聞き取る。
あぁ、可哀想に。
素直な感想だった、彼女の事を大切に思ってる人間が彼女をここに下ろしたのだと水面の方から聞こえる揺れでわかる。それなら静かに、安らかに眠れる様に。
私は私が知りうる此処のとっておきの場所に彼女を寝かせた。
───おやすみ、エアリス。
………────────
クラウドがエアリスを湖に休ませる。
皆、エアリスの死が受け入れられずに、その場で暫く佇んで居た。もちろん、それは私も例外なく。
その時水面を激しく揺らしながら“彼女”は姿を表した。
その長い髪を扇状に広げながら勢いよく上半身を反らせて。
上から指す光は彼女の濡れた髪を反射させそれはまるで宝石のようだった。
急な事にそれが誰なのか、何なのかを理解できずに居る私達を他所にしきりに周りを見渡す彼女。
その姿は何かを探してるような、状況を把握しようとしているような、私はその顔が見に覚えのあるもので、しかし記憶と何ら変わることのない物だという事実に動揺を覚えながら無意識に彼女の名を呼んだ。
「(名前)か……?」
ピタリと動きを止めて首だけこちらを向く。
首をコテン、と倒して黙っている。私が誰なのかわかっていないようだった。
近づき、湖の縁で襟首を下げて顔を出す。
「私だ。」
「ヴィン、セント………??」
「本当に、本当にヴィンセントなの?!」
なんで…!?そう漏らしながら彼女はこちらに駆け寄る。マントの裾を掴み、俯き、嗚咽を漏らす。
その驚きはヴィンセントも同じものでまさか(名前)が生きているとは思っても見なかった。
膝をつき、彼女の肩に手が伸びる。
触れる直前、彼女は顔を上げる。
ピタリと私の手が止まる。
「ごめん、動揺しちゃった。」
「いや、構わない。」
「えっと、エアリスを寝かせたのは…君?」
(名前)は私の側を離れてクラウドの方へ寄る。
(名前)が何故エアリスを知っているのかは分からないが口を挟む気にもなれない為そのまま見守る。
「怪我、しないように静かな所に寝かせたよ。安心して」
「あんたは…」
誰なんだ、クラウドのそう続ける口元に(名前)は人差し指を押さえつける。
「私は(名前)。元タークス、って言えば分かるかな。」
“元タークス”その言葉に皆の体がこわばる。
「ヴィンセントと同僚だったの。」
その一言で皆に視線が私に集まる。居心地が少し悪い。
しかしここで切り出すのは私の役目のようだった。
「(名前)、」
「多分、ヴィンセントと同じだよ。」
「………宝条のせいなんだ。」
何が、とは言わなかった。
その老いを感じさせない姿、出会った瞬間に感じた違和感。私と同じ体質にされたのだと察することは子供用の計算ドリルを解くより容易だった。
「…聞きたいことは、きっとお互い色々ある。でももし、君たちが…ヴィンセントの目的が、宝条なのだとしたら私は君達に力を貸すよ。」
「俺達の目的は宝条ではない。」
「あら、」
「セフィロスだ。」
「セフィロス…?」
(名前)の瞳が揺れる。明らかな動揺
「だが、もし良ければ一緒に来て欲しい。あんたがエアリスを知ってる理由が知りたい。」
「良いわよ。」
気が抜けるほど呆気カランに快諾の返事をする(名前)。
流石に私も少し驚く。
「え、」
「良いわよ。って言ったの」
そう言いながら湖から体を出す。
後ろ向きで縁に乗乗り上げるよう手で体を持ち上げる、そのまま足を水面から出して見つめる。
「陸、久々なの。手、貸してくれない?」
「あぁ。」
(名前)の差し出す手を受け取り身体を引き上げる。
少しふらついきながらも姿勢を保つ、陸が久々と言う台詞の意味を本当に知ることになるのは後のことだがひとまずは大丈夫そうな(名前)を見て安心しながら足早に他の者たちに挨拶をしに行く(名前)の背中を見つめた。
ーーーそれは全ての始まりにしか過ぎなくて