リーブ
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※レノがちょっと不憫(というか扱いがちょっと酷い)
※筆者のニ推しはレノなので決して嫌いなわけではありません。
──────────────────
神羅本社ビルの地下、仮眠室の隣に設けられた洗面所が並ぶ一角、私はあくびを噛み殺しながら縦横無尽に跳ねる寝癖を鏡で見て顔を洗う。冷たい水に毛穴がヒュッと閉まる気がしながらパシャパシャと濡らして洗顔料を手に取り洗って流す。
「ふぅ、」
やっと目が覚めた感覚を感じながら鏡に映る自分を見る。視線はそこから首元、よれよれで襟首から覗く肩を見ると丁寧に包帯が巻かれる。
「傷、残るかなぁ」
残ると任務の幅が狭まれる事もありそうで少し厄介だな、と思いながら傷に触れるとひょこっと入り口から顔を出す赤髪。
「おーい(名前)、任務だぞ、と。」
「んー、わかった。」
「お。黒か」
「ちょっと」
「んな見てください。って言わんばかりに見えてるんだから仕方ないだろ。」
「だからって声に出さないでよ。」
レノは私の言い分を他所に「早くしろよ、と」言って出て行った。丈の長いTシャツ1枚で寝るのはやはり駄目だろうか、いや多分この格好で仮にも共有施設にいる私のが悪いんだけど。
分かってはいるが実際ここで会う人間なんてタークスが基本で後はここよりも更に下のフロアに居る何徹目だかわからない屍と見間違う顔した武器開発部門の職員に極稀に会うくらい(それも基本起床時間は被らないから本当に会うことはほぼない)だからいいじゃない。と思ってしまう。
足早に使っていた仮眠室へ戻り黒スーツに着替える。
ソックスガーターをつけて靴下がずれないようにすればホルダーで胸を潰し黒シャツに袖を通してシャツガーターでシャツを止める。
スラックスを履いてカマーベストを着てネクタイを締めてカラーチップをつけたらジャケットに袖を通してポケットの中身を確認。いつものポーチとカードケースを確認したら特注の鉄板入りショートブーツを履く
鏡で細かい所をチェックして手袋を嵌めたら寝間着に使ってたTシャツは通路にある洗濯ダクトに放り込む為手に抱えて仮眠室を入室時と同じ形にして出る。
「行ってきます。と」
これが日常、
仮眠室が自室になりかけつつ呟いた挨拶は静かな部屋に響いた。
──────────
任務を終えて報告書を製作、提出をすれば完全に終電の時間は過ぎ去っていた。真面目にバイク通勤にしようかと思いながら今日も仮眠室の世話になる為一緒に仕事をした同僚と仮眠室のフロアに足を踏み入れたら人が倒れていた。
エレベーターから出てすぐの壁沿いに。
「…これは何。」
「何って…統括だろ。どう見ても」
「いや、だから何でこんなところに…??」
レノは「俺が知るかよ」と言いたげな顔でこちらを見る。
この人の事は知ってる。
リーブ・トゥエスティ、都市開発部門の統括部長。
この神羅カンパニーのエンジニアも手掛ける幹部。
変人集いな重役陣の中で唯一の良識人。
………後間違いがなければ多分、片田舎の訛がキツイ地方出身、お母様の名前はルビィさん。
まぁこの情報はどうでも良くてとりあえずこんな地下フロアに倒れた重役を放置する事は出来ない為一先ず目が覚めるかどうか試す。
「統括、統括………リーブ統括。」
肩を叩き意識がこちらに帰ってくるか確認する…が全く反応なし。身動ぎや唸り声の一つもないから念の為そのまま首に手を当て脈を確認、……うん、正常。
顔色を窺うが目の下の真っ黒な隈と言っていいのかわからない程の隈と整えられていない髭とお世辞にも清潔とは言い難い頭髪、どこからどう見ても疲労で倒れたのは一目瞭然。
はぁ、とため息を付きながら私は統括を抱き上げる。肩に腕を回して膝の裏に手を回して立ち上がる、所謂お姫様抱っこ。
隣で赤髪の同僚が茶化すように口笛を鳴らしながら「かっこぃー」なんて言ってくる、できれば変わって欲しい。180cmの成人男性なんて重いに決まってる。
その気持ちは口から音にする事なく視線で訴える。
それを汲み取ったレノは気づかないふりをして空きの仮眠室を探す様に私より3歩先を進んだ。
「ねぇな。」
振り向きながらそう言ったレノは真面目な顔をしてたので嘘でもなんでもなかった。
元から大した数もないがそのすべてが埋まる事は極稀だ、一般社員は63階のリフレッシュルームのソファとかで仮眠を取る。こんな地下に仮眠室がある事自体知る人間のが少ないから。
「空いてるの、(名前)がいっつも使ってるとこだけ」
「えー…あんたどうすんの。」
「俺はオフィスのソファで寝ることにするぞ、と」
「………。」
どうしよう、レノがオフィスのソファで寝てこの統括を仮眠室に押し込んで…私の寝る場所がない。
リフレッシュルームで寝るのは他の社員からの視線を考えれば憚れる…
思わぬ所で行き詰まった私を見ながらレノが(多分)冗談半分で身の毛がよだつ様な提案をしてくる。
「俺と熱い夜でも過ごすか?と」
「寝かせてくれなさそうだから遠慮するわ。」
バレちまってたかぁ、と言いながら統括を寝かせる為空いてる仮眠室の扉を開けるレノの後ろについていく。
私が今朝ベッドメイクしたベッドに靴を脱がせて寝かせればその明らかに高そうなスーツのジャケットを脱がせてネクタイを外してシャツのボタンを緩める。
「………」
少し悩んだ末に私の性格上やはり見過ごせな区でバックルに手を掛けるとレノが横槍を入れてくる。
「おい」
「なに」
「盛るなよ」
「あんたじゃないんだから」
「俺にそんな趣味はねぇぞ、と」
「私だってないわよ。皺になるでしょ、幾らズボンでも」
そのまま視線をバックルに戻してズボンを脱がしシーツを掛ければ脱がした物を全部ハンガーに掛けて目に付くところに掛けておく。
「なんつうか、容赦ねぇよな。」
「常識でしょ?」
「そうかぁ?」
物言いたげながらそれ以上言葉を発する事もないレノと仮眠室のドアまで行く。
「それでどうすんだよ、と」
「んー、どうしようか、」
このままだと冗談抜きでレノと暑い夜を過ごす羽目になる。
「…オフィスのソファ、(名前)が使っていいぞ、と」
「レノはどうするのよ」
「んー、まぁ適当にするぞ、と」
「そんなんだといつか病気になるわよ」
「なら…俺と熱い夜過ごすか?」
私の耳元へ吐息がかかる距離で囁くレノの顔を見つめて鼻先が掠る距離まで近づける。
レノは以前として熱を少し帯びた魅惑的な視線をこちらに注ぐ。
これでもう少し年が近ければ私もきっとこの誘いに乗っていたが仕事でもない情事で年下の面倒見るほど私は甲斐甲斐しくない。
レノの瞳に映る近すぎる私の瞳、それを見つめながら死角になるよう手を回して頭を掴む。
「は、」
「私と暑い夜を過ごしたかったら口説き文句をもう少し勉強することね。」
そう告げながら仮眠室の外へと放り出す。
「あの様子の統括放っておけないから私はこの部屋の床で寝る。オフィスのソファはレノが使っていいよ、それじゃあ今日はお疲れ様。また明日ね、おやすみ。」
「え、ちょ」
レノの言葉を遮る様に私は仮眠室の扉を締めて鍵をかけた。
「さて、と」
レノに言った言葉は本音だ。
目の下が真っ黒になる様な仕事の仕方をしてる人をこの部屋に放り込んでそのまま、なんて私が耐えれない。
とりあえず目の下の隈は血行不良が主な原因の為タオルを2枚用意して両方濡らせば固く絞る、1枚を冷蔵庫、もう1枚を電子レンジで温める。
即席麺だとか軽食を食べれる様にと備え付けられたミニキッチンがこんな形で役に立つとは私も思わなかった。
「あちっ、あっつ…」
少し温めすぎたホットタオルを適温に冷ましながらベッドで眠る…と言うかほぼ気絶してるリーブ統括の目に乗せる。1分ほど経てば次は冷蔵庫で冷やした冷たいタオル、その間に再びタオルを温めて1分経てばまたホットタオル…それを何度か繰り返す。
これが気持ちいいんだよなぁ。なんて思いながら何度か繰り返していけば拾った時は真っ黒だった目の下の隈も完全に無くなった訳じゃないが「隈だな」と判別がつくくらいまでは薄くなった。
心なしか寝息も先程より気持ち良さそうに聞こえる。
後は精々起きた時に飲める様ベッドの隣に水を置いておくくらい。冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出してサイドテーブルに置いたら後は自分のこと。
正直スーツのまま寝たくない。皺になる。
でも李下に冠を正さず、あまり周りから疑われる格好はしたくないのも事実。
「んんー、」
無意識に声が漏れる。
「まぁいっか。」
多分私のが目覚めが早い予感がする。
統括が起きる前に起きて着替えてしまえば全て“存在しない事”になる、よし。そうと決まれば寝間着になりそうなものをタオル置き場で漁るとロングキャミソールを見つけた、今日の寝間着はこれだ。
ジャケットにベストにシャツにスラックス、ソックスガーターやシャツガーターも外してホルダーも外したらロングキャミソールを着て今朝目にした肩の部分は傷が塞がってないようで赤く滲んでいた。
早く治す鉄則は患部を清潔にすること、包帯を外して薬を塗り綺麗なガーゼを当てる。
朝起きたらまた包帯を巻こう。
ここまでして時計を確認すると2:23、すっかり深夜だ。
3~4時間程度なら寝れる。
携帯のバイブアラームをセットしてベッド横の壁沿いに腰を下ろす。明日のことを考えて少し頭が冴えて来たのを追いやる様に呼吸を落として睡眠へと意識を落とした。
ブー・ブーブー・ブッブッブッ
不規則に設定された規則的なバイブレーションの音に目を覚まし携帯を止める。
「んんーーーーーー」
喉の奥で音を鳴らしながら腕を伸ばして身体を目覚めさせる。
やっぱり床で寝ると眠りが浅い、まぁ寝れただけ上々なんだけども、
(名前)は肩や首を回し手昨夜の事を思い返しベッドに目を向ける。
以前として統括はスヤスヤと眠っている、その寝顔を覗き込めば自分が寝る前よりも顔色が良くなってるのを確認して少し満足げに微笑む。
サイドテーブルに置いてたミネラルウォーターも空になってる所を見ると私が寝た後に一度目を覚ました事が分かった、代わりのボトルを冷蔵庫から取りだして置けばタオル片手に眠気が抜けない顔を洗う為洗面所へ足を向けた。
洗面所に向かう道すがら他の仮眠室に目を向けたらその殆どが空室になっているのを見て「(あぁ、やっぱり武器開発部門の子たちだったんだな)」と理解する。
顔を洗って歯を磨いて完全に目が覚めた(名前)が再びリーブの寝てる仮眠室の扉を潜るとそこにはベッドサイドに腰を下ろして状況を理解できてなさそうな顔で頭に手を添えてるリーブの姿が目に入る。
「おはようございます。」
急に掛けられた声に肩を揺らしながら顔を上げるリーブ。
「え、あ、おはよう…ございます。」
「お加減はいかがですか?」
「あ、だいぶ、良いです………えっと、」
自分の格好と(名前)の格好を見比べて段々と顔から血の気が引くリーブ、その姿を見て大体を察した(名前)が悪戯心で口を開く。
「昨夜は凄かったですね、」
隈が。と心のなかで付け加える
「え、あ………す、すみません!あの、女性にこのような事言うべきではないんですが実は私あまり昨夜のことを覚えてなくてですね…」
焦りながら早口で謝罪と馬鹿正直な事を言うリーブが可笑しくて笑いながらリーブの足元に膝を付き簡潔に事実だけを並べて説明をする。
「この様な格好で失礼いたします。昨夜、こちらの仮眠室フロアにてリーブ統括が倒れられてたので空室のこちらに運ばせて頂きました。統括の顔色が優れないご様子でしたので失礼ながら万が一の為に同室をさせて頂きました。」
それを聞いたリーブは明らかに安堵したように息を吐いて(名前)に感謝の言葉を告げた。
その言葉に返す様に顔を上げて微笑む(名前)を見てリーブが無意識で言葉を溢す。
「………(名前)ちゃん…?」
あぁ、やっぱり。
と思いながら(名前)は再び肯定するように深く微笑む
「え、なんで…?ここ、本社ビルやんね?」
明らかに動揺してるリーブを見ながら面白そうにクスクスと笑う(名前)をリーブはただ再び状況が理解できない様子で見つめる。
「言葉、戻っとるよ。リーくん」
「ホンマのホンマに(名前)ちゃん?」
「何回確認してんの、」
少し吹き出すように笑うその姿をリーブは神羅に来る昔からよく知っている。
「なんで…?え、」
疑問が未だに理解できないリーブに一番わかり易い方法で教える為、掛けてたジャケットのポケットからカードケースを取り出し見開きで開いて見せる。
突き出されたそれを手に取りすぐ目に付くところに入れられたカードに目を通す、それは見覚えのある物、自身も持ってる社員証と同じ形、同じデザイン。
違うところといえば書いてある名前と顔写真と社員番号、それと所属部署。
「総務部、調査課………総務部調査課!?」
そこに載ってる顔写真は今目の前にいる人間の顔であり名前も見覚えのある親しみ深い名前、そしてその下に書いてある所属部署名は今の自分にとっても無縁ではない実際の仕事は“普通”とは言い難い名ばかりの部署。通称タークス
まさかそんな所に同郷の人間が居るなんて何処の誰が想像つくだろうか。
「…ミッドガルに来たんなら連絡くれたら良かったのに、」
「いや、連絡しようとは思ったんやけどうちが気付いたときにはリー君統括部長なっててんもん。そんな安安と声かけられへんよ」
少し眉を下げながら申し訳無さそうに言う(名前)が続ける。
「でも、おばさんにはよく会いに行ってたんよ?聞いてなかった?」
「聞いてへん!」
本当に聞いてなかった。休みが取れれば比較的頻繁に両親には顔を出していたが一度だって両親の口からの(名前)の名前を聞いた事なんて………いや、ある。あった、記憶を手繰り寄せて行くとポロポロと出てくる。
何なら先月帰った時にも話題には出された、「(名前)ちゃんは元気なの?」と。疑問符として少し違和感があったが自分はてっきり田舎に居る(とリーブは思ってた)(名前)の事を話の取っ掛かりとして振っているのだと思っていた…
「そんなん、分かるわけ無いやん…」
「はは、まぁ挨拶する機会がなかったのも事実だし。ほら、私は基本諜報とか勧誘の任務がメインで護衛任務とかそんなにつかへんから。」
「そうやったとしてもやろ…」
「…何でそんなに残念がってんの?」
「そんなんっ……!!」
もう二度と会えないと、思いを伝える事も叶わないと思って居た想い人と同じ会社にいたにも関わらず年単位で気づかなかったなんて、とは言えない。絶対言えない。
何というか言いあぐねて言葉をつまらせながら視線を下げるリーブの顔を見る為に(名前)はしゃがみこむと下から顔を覗き込む。
自分を覗き込んでくる(名前)の姿を捉えて再びお互いの格好に気づく。
「えっと、とりあえず着替えませんか」
「ん、そうだね」
少しずつ冷静を取り戻したらしいリーブの言葉が普段通りに戻ったのを(名前)は内心少し残念と思いながら同意した。
「リー君のスーツはこれ、」
「…ちなみにこれ脱がしたのって…」
「レノ、………の目の前で私が脱がした。」
明らかに少しホッとした顔から一変、また頭を少し抱えてるリーブを見てケラケラ笑いながら(名前)は包帯を巻き直して黒スーツに着替えた。
一通り着替えて身なりを整えた後仮眠室の片付けをしていると昨夜外した包帯をリーブが見つけて手に取る。
「さっきも肩にガーゼ当ててましたが…これ」
「あぁ、それは処分するよ。もう新しいの巻いたからね」
「…こんな血の付くお仕事…なんですよね」
その表情はどこか悲しげでそっと私の包帯を巻いてる方の肩に触れる。
「まぁ、そこら辺のソルジャーよりはお給料良いですから」
統括様には劣りますが。と付け加えて笑うと「ソルジャーはそこら辺にはいませんよ」と苦笑いするリーブの頬をつまんで口角を無理矢理上げる。
「んっ、…何するんですか」
「そんなに同郷の人間が心配?」
同郷だから、ではなく(名前)だから心配。と言えるほどリーブはこの手の口説きが上手くなかった。プレゼンや会議なら饒舌に、巧みに回る舌もこの時ばっかりは上手く返せない。
そんなリーブの気持ちを知ってか知らずか(名前)は優しく微笑む。
「リー君は優しいね」
昔から変わらない、そう呟く(名前)の言葉をリーブは聞き漏らさなかった。
「…っ、今日、時間ありますか」
それはリーブにとって精一杯の誘い文句だった。
急な事に少し目を見開きながらリーブを見上げる(名前)の瞳をリーブは捉えて離さなかった。
数回瞬きをすればゆるっと微笑む(名前)。
「今日かぁ、残業にならなければ時間はあるけど…嫌かな」
鈍器で頭を殴られるような感覚でリーブは少し震えた。思考が止まる。
「リー君、慢性的な寝不足でしょ?その隈が何よりの証拠、そうね…来週の木曜。21時に壱番街の駅、どう?」
リー君は来週忙しい?と付け加える(名前)の言葉に首を振るリーブを見れば満足気に笑い「じゃあ、決まり!」と告げて(名前)はリーブより一足先に仮眠室を出た。
「来週の木曜…」
確認するように、あるいはうわ言のように呟いたリーブの言葉はまるで予定の確認をするかの様に静かな部屋に響いた。
※筆者のニ推しはレノなので決して嫌いなわけではありません。
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神羅本社ビルの地下、仮眠室の隣に設けられた洗面所が並ぶ一角、私はあくびを噛み殺しながら縦横無尽に跳ねる寝癖を鏡で見て顔を洗う。冷たい水に毛穴がヒュッと閉まる気がしながらパシャパシャと濡らして洗顔料を手に取り洗って流す。
「ふぅ、」
やっと目が覚めた感覚を感じながら鏡に映る自分を見る。視線はそこから首元、よれよれで襟首から覗く肩を見ると丁寧に包帯が巻かれる。
「傷、残るかなぁ」
残ると任務の幅が狭まれる事もありそうで少し厄介だな、と思いながら傷に触れるとひょこっと入り口から顔を出す赤髪。
「おーい(名前)、任務だぞ、と。」
「んー、わかった。」
「お。黒か」
「ちょっと」
「んな見てください。って言わんばかりに見えてるんだから仕方ないだろ。」
「だからって声に出さないでよ。」
レノは私の言い分を他所に「早くしろよ、と」言って出て行った。丈の長いTシャツ1枚で寝るのはやはり駄目だろうか、いや多分この格好で仮にも共有施設にいる私のが悪いんだけど。
分かってはいるが実際ここで会う人間なんてタークスが基本で後はここよりも更に下のフロアに居る何徹目だかわからない屍と見間違う顔した武器開発部門の職員に極稀に会うくらい(それも基本起床時間は被らないから本当に会うことはほぼない)だからいいじゃない。と思ってしまう。
足早に使っていた仮眠室へ戻り黒スーツに着替える。
ソックスガーターをつけて靴下がずれないようにすればホルダーで胸を潰し黒シャツに袖を通してシャツガーターでシャツを止める。
スラックスを履いてカマーベストを着てネクタイを締めてカラーチップをつけたらジャケットに袖を通してポケットの中身を確認。いつものポーチとカードケースを確認したら特注の鉄板入りショートブーツを履く
鏡で細かい所をチェックして手袋を嵌めたら寝間着に使ってたTシャツは通路にある洗濯ダクトに放り込む為手に抱えて仮眠室を入室時と同じ形にして出る。
「行ってきます。と」
これが日常、
仮眠室が自室になりかけつつ呟いた挨拶は静かな部屋に響いた。
──────────
任務を終えて報告書を製作、提出をすれば完全に終電の時間は過ぎ去っていた。真面目にバイク通勤にしようかと思いながら今日も仮眠室の世話になる為一緒に仕事をした同僚と仮眠室のフロアに足を踏み入れたら人が倒れていた。
エレベーターから出てすぐの壁沿いに。
「…これは何。」
「何って…統括だろ。どう見ても」
「いや、だから何でこんなところに…??」
レノは「俺が知るかよ」と言いたげな顔でこちらを見る。
この人の事は知ってる。
リーブ・トゥエスティ、都市開発部門の統括部長。
この神羅カンパニーのエンジニアも手掛ける幹部。
変人集いな重役陣の中で唯一の良識人。
………後間違いがなければ多分、片田舎の訛がキツイ地方出身、お母様の名前はルビィさん。
まぁこの情報はどうでも良くてとりあえずこんな地下フロアに倒れた重役を放置する事は出来ない為一先ず目が覚めるかどうか試す。
「統括、統括………リーブ統括。」
肩を叩き意識がこちらに帰ってくるか確認する…が全く反応なし。身動ぎや唸り声の一つもないから念の為そのまま首に手を当て脈を確認、……うん、正常。
顔色を窺うが目の下の真っ黒な隈と言っていいのかわからない程の隈と整えられていない髭とお世辞にも清潔とは言い難い頭髪、どこからどう見ても疲労で倒れたのは一目瞭然。
はぁ、とため息を付きながら私は統括を抱き上げる。肩に腕を回して膝の裏に手を回して立ち上がる、所謂お姫様抱っこ。
隣で赤髪の同僚が茶化すように口笛を鳴らしながら「かっこぃー」なんて言ってくる、できれば変わって欲しい。180cmの成人男性なんて重いに決まってる。
その気持ちは口から音にする事なく視線で訴える。
それを汲み取ったレノは気づかないふりをして空きの仮眠室を探す様に私より3歩先を進んだ。
「ねぇな。」
振り向きながらそう言ったレノは真面目な顔をしてたので嘘でもなんでもなかった。
元から大した数もないがそのすべてが埋まる事は極稀だ、一般社員は63階のリフレッシュルームのソファとかで仮眠を取る。こんな地下に仮眠室がある事自体知る人間のが少ないから。
「空いてるの、(名前)がいっつも使ってるとこだけ」
「えー…あんたどうすんの。」
「俺はオフィスのソファで寝ることにするぞ、と」
「………。」
どうしよう、レノがオフィスのソファで寝てこの統括を仮眠室に押し込んで…私の寝る場所がない。
リフレッシュルームで寝るのは他の社員からの視線を考えれば憚れる…
思わぬ所で行き詰まった私を見ながらレノが(多分)冗談半分で身の毛がよだつ様な提案をしてくる。
「俺と熱い夜でも過ごすか?と」
「寝かせてくれなさそうだから遠慮するわ。」
バレちまってたかぁ、と言いながら統括を寝かせる為空いてる仮眠室の扉を開けるレノの後ろについていく。
私が今朝ベッドメイクしたベッドに靴を脱がせて寝かせればその明らかに高そうなスーツのジャケットを脱がせてネクタイを外してシャツのボタンを緩める。
「………」
少し悩んだ末に私の性格上やはり見過ごせな区でバックルに手を掛けるとレノが横槍を入れてくる。
「おい」
「なに」
「盛るなよ」
「あんたじゃないんだから」
「俺にそんな趣味はねぇぞ、と」
「私だってないわよ。皺になるでしょ、幾らズボンでも」
そのまま視線をバックルに戻してズボンを脱がしシーツを掛ければ脱がした物を全部ハンガーに掛けて目に付くところに掛けておく。
「なんつうか、容赦ねぇよな。」
「常識でしょ?」
「そうかぁ?」
物言いたげながらそれ以上言葉を発する事もないレノと仮眠室のドアまで行く。
「それでどうすんだよ、と」
「んー、どうしようか、」
このままだと冗談抜きでレノと暑い夜を過ごす羽目になる。
「…オフィスのソファ、(名前)が使っていいぞ、と」
「レノはどうするのよ」
「んー、まぁ適当にするぞ、と」
「そんなんだといつか病気になるわよ」
「なら…俺と熱い夜過ごすか?」
私の耳元へ吐息がかかる距離で囁くレノの顔を見つめて鼻先が掠る距離まで近づける。
レノは以前として熱を少し帯びた魅惑的な視線をこちらに注ぐ。
これでもう少し年が近ければ私もきっとこの誘いに乗っていたが仕事でもない情事で年下の面倒見るほど私は甲斐甲斐しくない。
レノの瞳に映る近すぎる私の瞳、それを見つめながら死角になるよう手を回して頭を掴む。
「は、」
「私と暑い夜を過ごしたかったら口説き文句をもう少し勉強することね。」
そう告げながら仮眠室の外へと放り出す。
「あの様子の統括放っておけないから私はこの部屋の床で寝る。オフィスのソファはレノが使っていいよ、それじゃあ今日はお疲れ様。また明日ね、おやすみ。」
「え、ちょ」
レノの言葉を遮る様に私は仮眠室の扉を締めて鍵をかけた。
「さて、と」
レノに言った言葉は本音だ。
目の下が真っ黒になる様な仕事の仕方をしてる人をこの部屋に放り込んでそのまま、なんて私が耐えれない。
とりあえず目の下の隈は血行不良が主な原因の為タオルを2枚用意して両方濡らせば固く絞る、1枚を冷蔵庫、もう1枚を電子レンジで温める。
即席麺だとか軽食を食べれる様にと備え付けられたミニキッチンがこんな形で役に立つとは私も思わなかった。
「あちっ、あっつ…」
少し温めすぎたホットタオルを適温に冷ましながらベッドで眠る…と言うかほぼ気絶してるリーブ統括の目に乗せる。1分ほど経てば次は冷蔵庫で冷やした冷たいタオル、その間に再びタオルを温めて1分経てばまたホットタオル…それを何度か繰り返す。
これが気持ちいいんだよなぁ。なんて思いながら何度か繰り返していけば拾った時は真っ黒だった目の下の隈も完全に無くなった訳じゃないが「隈だな」と判別がつくくらいまでは薄くなった。
心なしか寝息も先程より気持ち良さそうに聞こえる。
後は精々起きた時に飲める様ベッドの隣に水を置いておくくらい。冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出してサイドテーブルに置いたら後は自分のこと。
正直スーツのまま寝たくない。皺になる。
でも李下に冠を正さず、あまり周りから疑われる格好はしたくないのも事実。
「んんー、」
無意識に声が漏れる。
「まぁいっか。」
多分私のが目覚めが早い予感がする。
統括が起きる前に起きて着替えてしまえば全て“存在しない事”になる、よし。そうと決まれば寝間着になりそうなものをタオル置き場で漁るとロングキャミソールを見つけた、今日の寝間着はこれだ。
ジャケットにベストにシャツにスラックス、ソックスガーターやシャツガーターも外してホルダーも外したらロングキャミソールを着て今朝目にした肩の部分は傷が塞がってないようで赤く滲んでいた。
早く治す鉄則は患部を清潔にすること、包帯を外して薬を塗り綺麗なガーゼを当てる。
朝起きたらまた包帯を巻こう。
ここまでして時計を確認すると2:23、すっかり深夜だ。
3~4時間程度なら寝れる。
携帯のバイブアラームをセットしてベッド横の壁沿いに腰を下ろす。明日のことを考えて少し頭が冴えて来たのを追いやる様に呼吸を落として睡眠へと意識を落とした。
ブー・ブーブー・ブッブッブッ
不規則に設定された規則的なバイブレーションの音に目を覚まし携帯を止める。
「んんーーーーーー」
喉の奥で音を鳴らしながら腕を伸ばして身体を目覚めさせる。
やっぱり床で寝ると眠りが浅い、まぁ寝れただけ上々なんだけども、
(名前)は肩や首を回し手昨夜の事を思い返しベッドに目を向ける。
以前として統括はスヤスヤと眠っている、その寝顔を覗き込めば自分が寝る前よりも顔色が良くなってるのを確認して少し満足げに微笑む。
サイドテーブルに置いてたミネラルウォーターも空になってる所を見ると私が寝た後に一度目を覚ました事が分かった、代わりのボトルを冷蔵庫から取りだして置けばタオル片手に眠気が抜けない顔を洗う為洗面所へ足を向けた。
洗面所に向かう道すがら他の仮眠室に目を向けたらその殆どが空室になっているのを見て「(あぁ、やっぱり武器開発部門の子たちだったんだな)」と理解する。
顔を洗って歯を磨いて完全に目が覚めた(名前)が再びリーブの寝てる仮眠室の扉を潜るとそこにはベッドサイドに腰を下ろして状況を理解できてなさそうな顔で頭に手を添えてるリーブの姿が目に入る。
「おはようございます。」
急に掛けられた声に肩を揺らしながら顔を上げるリーブ。
「え、あ、おはよう…ございます。」
「お加減はいかがですか?」
「あ、だいぶ、良いです………えっと、」
自分の格好と(名前)の格好を見比べて段々と顔から血の気が引くリーブ、その姿を見て大体を察した(名前)が悪戯心で口を開く。
「昨夜は凄かったですね、」
隈が。と心のなかで付け加える
「え、あ………す、すみません!あの、女性にこのような事言うべきではないんですが実は私あまり昨夜のことを覚えてなくてですね…」
焦りながら早口で謝罪と馬鹿正直な事を言うリーブが可笑しくて笑いながらリーブの足元に膝を付き簡潔に事実だけを並べて説明をする。
「この様な格好で失礼いたします。昨夜、こちらの仮眠室フロアにてリーブ統括が倒れられてたので空室のこちらに運ばせて頂きました。統括の顔色が優れないご様子でしたので失礼ながら万が一の為に同室をさせて頂きました。」
それを聞いたリーブは明らかに安堵したように息を吐いて(名前)に感謝の言葉を告げた。
その言葉に返す様に顔を上げて微笑む(名前)を見てリーブが無意識で言葉を溢す。
「………(名前)ちゃん…?」
あぁ、やっぱり。
と思いながら(名前)は再び肯定するように深く微笑む
「え、なんで…?ここ、本社ビルやんね?」
明らかに動揺してるリーブを見ながら面白そうにクスクスと笑う(名前)をリーブはただ再び状況が理解できない様子で見つめる。
「言葉、戻っとるよ。リーくん」
「ホンマのホンマに(名前)ちゃん?」
「何回確認してんの、」
少し吹き出すように笑うその姿をリーブは神羅に来る昔からよく知っている。
「なんで…?え、」
疑問が未だに理解できないリーブに一番わかり易い方法で教える為、掛けてたジャケットのポケットからカードケースを取り出し見開きで開いて見せる。
突き出されたそれを手に取りすぐ目に付くところに入れられたカードに目を通す、それは見覚えのある物、自身も持ってる社員証と同じ形、同じデザイン。
違うところといえば書いてある名前と顔写真と社員番号、それと所属部署。
「総務部、調査課………総務部調査課!?」
そこに載ってる顔写真は今目の前にいる人間の顔であり名前も見覚えのある親しみ深い名前、そしてその下に書いてある所属部署名は今の自分にとっても無縁ではない実際の仕事は“普通”とは言い難い名ばかりの部署。通称タークス
まさかそんな所に同郷の人間が居るなんて何処の誰が想像つくだろうか。
「…ミッドガルに来たんなら連絡くれたら良かったのに、」
「いや、連絡しようとは思ったんやけどうちが気付いたときにはリー君統括部長なっててんもん。そんな安安と声かけられへんよ」
少し眉を下げながら申し訳無さそうに言う(名前)が続ける。
「でも、おばさんにはよく会いに行ってたんよ?聞いてなかった?」
「聞いてへん!」
本当に聞いてなかった。休みが取れれば比較的頻繁に両親には顔を出していたが一度だって両親の口からの(名前)の名前を聞いた事なんて………いや、ある。あった、記憶を手繰り寄せて行くとポロポロと出てくる。
何なら先月帰った時にも話題には出された、「(名前)ちゃんは元気なの?」と。疑問符として少し違和感があったが自分はてっきり田舎に居る(とリーブは思ってた)(名前)の事を話の取っ掛かりとして振っているのだと思っていた…
「そんなん、分かるわけ無いやん…」
「はは、まぁ挨拶する機会がなかったのも事実だし。ほら、私は基本諜報とか勧誘の任務がメインで護衛任務とかそんなにつかへんから。」
「そうやったとしてもやろ…」
「…何でそんなに残念がってんの?」
「そんなんっ……!!」
もう二度と会えないと、思いを伝える事も叶わないと思って居た想い人と同じ会社にいたにも関わらず年単位で気づかなかったなんて、とは言えない。絶対言えない。
何というか言いあぐねて言葉をつまらせながら視線を下げるリーブの顔を見る為に(名前)はしゃがみこむと下から顔を覗き込む。
自分を覗き込んでくる(名前)の姿を捉えて再びお互いの格好に気づく。
「えっと、とりあえず着替えませんか」
「ん、そうだね」
少しずつ冷静を取り戻したらしいリーブの言葉が普段通りに戻ったのを(名前)は内心少し残念と思いながら同意した。
「リー君のスーツはこれ、」
「…ちなみにこれ脱がしたのって…」
「レノ、………の目の前で私が脱がした。」
明らかに少しホッとした顔から一変、また頭を少し抱えてるリーブを見てケラケラ笑いながら(名前)は包帯を巻き直して黒スーツに着替えた。
一通り着替えて身なりを整えた後仮眠室の片付けをしていると昨夜外した包帯をリーブが見つけて手に取る。
「さっきも肩にガーゼ当ててましたが…これ」
「あぁ、それは処分するよ。もう新しいの巻いたからね」
「…こんな血の付くお仕事…なんですよね」
その表情はどこか悲しげでそっと私の包帯を巻いてる方の肩に触れる。
「まぁ、そこら辺のソルジャーよりはお給料良いですから」
統括様には劣りますが。と付け加えて笑うと「ソルジャーはそこら辺にはいませんよ」と苦笑いするリーブの頬をつまんで口角を無理矢理上げる。
「んっ、…何するんですか」
「そんなに同郷の人間が心配?」
同郷だから、ではなく(名前)だから心配。と言えるほどリーブはこの手の口説きが上手くなかった。プレゼンや会議なら饒舌に、巧みに回る舌もこの時ばっかりは上手く返せない。
そんなリーブの気持ちを知ってか知らずか(名前)は優しく微笑む。
「リー君は優しいね」
昔から変わらない、そう呟く(名前)の言葉をリーブは聞き漏らさなかった。
「…っ、今日、時間ありますか」
それはリーブにとって精一杯の誘い文句だった。
急な事に少し目を見開きながらリーブを見上げる(名前)の瞳をリーブは捉えて離さなかった。
数回瞬きをすればゆるっと微笑む(名前)。
「今日かぁ、残業にならなければ時間はあるけど…嫌かな」
鈍器で頭を殴られるような感覚でリーブは少し震えた。思考が止まる。
「リー君、慢性的な寝不足でしょ?その隈が何よりの証拠、そうね…来週の木曜。21時に壱番街の駅、どう?」
リー君は来週忙しい?と付け加える(名前)の言葉に首を振るリーブを見れば満足気に笑い「じゃあ、決まり!」と告げて(名前)はリーブより一足先に仮眠室を出た。
「来週の木曜…」
確認するように、あるいはうわ言のように呟いたリーブの言葉はまるで予定の確認をするかの様に静かな部屋に響いた。