trk短編集
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
香りと記憶というものは密接な関わりがある。
私はそれを身を持って経験した。
人よりも少しだけ鼻の効く私、勿論美食四天王と呼ばれるカリスマに比べたら何でもないけど、それでも一般人の中じゃ鼻がいい方だった。
それがちょっとした自慢だった。だってコレのおかげであなたの匂いが分かったから。少し甘い、でもスッキリとしたミントと柑橘を混ぜたような清涼感のある香り。
私が、大好きな香り。
それが時としてこんなにも私を苦しめるだなんて知らなかった。
「ごめん、」
(嫌、嫌よ。そんなの、納得できないわ。)
「納得してくれなくても俺の気持ちは変わらない」
(なんで、どうして、私変えるわ。あなたが私の嫌なところ全部なおすから。)
「疲れたんだ、ごめん」
(嫌よ、やめて。やめて。やめて………)
「別れてほしい。」
(そんな言葉…言わないで。)
「今までありがとう」
(そんな綺麗な言葉で締めようとしてないで…)
「…………愛してる。これまでも、これからも。」
「ごめん」
(謝るくらいならなんで…)
それでも次に私の口から出たのは承諾と別れの挨拶だった。
えぇ、三日三晩枕を濡らしたわ。水だって喉を通らなかった、彼に話を聞いたのか心配して私の様子を見に来たプキンさんを半泣きにさせる有様だったくらいには酷かった。
人の尊厳として排泄はちゃんと然るべきところでしてたけどそれ以外の生命を保つ活動の全てを放棄してたんだから。それからは一人にできないと言う彼女の元でお世話になると、何とか経口から液体を摂取するようになって、その次はゼリー、そこから先が長かった。
ゼリーはゼリーでも味が薄くてほぼ無味じゃないと食べれなかったし形状もクラッシュ状から先の固形物が本当に喉を通らなかった、お粥もだめ、口に含んだ瞬間とてつもない拒絶。
胃液が逆流して嘔吐の繰り返し、
その間点滴やら何やらで体内の栄養バランスを維持するようにしてくれてたプキンさんはやっぱり流石としか言えないし、何より私の回復に付き添ってくれたんだから私は一生彼女に頭が上がらない。
やっと私がベッドから立てるようになった時、
最初にしたのが部屋の片付け。
彼との思い出の物全て処分するつもりだった。
窓を開けて大きなゴミ袋を用意して全て捨てていく。思い出の詰まったアルバム、指輪、ネックレス、ぬいぐるみ…カバンから洋服まで何もかも。
彼が知ってる私のものすべてを処分した
気づいた時に部屋は空っぽになってしまっていた。
あぁ、私の全てが彼に染まっていたんだ。
まるで私の中身みたいだな。
そう実感させられて、
また涙が溢れそうになるのを堪える。
一から全部買い直そう。
そう思いながら換気の窓を占めてコーヒーを淹れる。
シンプルな無地のマグカップに八分目まで注いだコーヒーを両手で包み込むように持てば少し熱いそれに口をつける、ふわりと鼻腔をくすぐるその芳ばしい香りと共に空っぽの部屋の空気はどこか懐かしい匂いがして
それは少し鼻のいい私が気づいてしまう程度
壁紙に染み付いてしまってるのか
どこか青臭い、植物の匂いと少し鼻につく薬品の香り。それとコーヒーの香りが混ざる。
私の大好きだった匂いなのに、
あぁ、いけない。涙が止まらない。
泣いてはいけないと分かっているけど、
私にはそれを止めることができない。
その匂いが、植物の泥臭さや花の甘い香りが沢山の記憶を呼び覚ます。
ここであったたくさんの思い出を…
ひと粒流れば積を切ったかのように大粒の涙が頬を伝う、服の裾に落ちたそれは落ちた所の色を濃くしていく。涙はマグカップにも落ちる。
声を噛み殺しながら、漏れる嗚咽を更に閉じ込める様に唇を噤む。
熱かった指先が少し冷たくなってきた頃
私は少ししょっぱいコーヒーを呷る。
(引っ越そう。)
私はそれを身を持って経験した。
人よりも少しだけ鼻の効く私、勿論美食四天王と呼ばれるカリスマに比べたら何でもないけど、それでも一般人の中じゃ鼻がいい方だった。
それがちょっとした自慢だった。だってコレのおかげであなたの匂いが分かったから。少し甘い、でもスッキリとしたミントと柑橘を混ぜたような清涼感のある香り。
私が、大好きな香り。
それが時としてこんなにも私を苦しめるだなんて知らなかった。
「ごめん、」
(嫌、嫌よ。そんなの、納得できないわ。)
「納得してくれなくても俺の気持ちは変わらない」
(なんで、どうして、私変えるわ。あなたが私の嫌なところ全部なおすから。)
「疲れたんだ、ごめん」
(嫌よ、やめて。やめて。やめて………)
「別れてほしい。」
(そんな言葉…言わないで。)
「今までありがとう」
(そんな綺麗な言葉で締めようとしてないで…)
「…………愛してる。これまでも、これからも。」
「ごめん」
(謝るくらいならなんで…)
それでも次に私の口から出たのは承諾と別れの挨拶だった。
えぇ、三日三晩枕を濡らしたわ。水だって喉を通らなかった、彼に話を聞いたのか心配して私の様子を見に来たプキンさんを半泣きにさせる有様だったくらいには酷かった。
人の尊厳として排泄はちゃんと然るべきところでしてたけどそれ以外の生命を保つ活動の全てを放棄してたんだから。それからは一人にできないと言う彼女の元でお世話になると、何とか経口から液体を摂取するようになって、その次はゼリー、そこから先が長かった。
ゼリーはゼリーでも味が薄くてほぼ無味じゃないと食べれなかったし形状もクラッシュ状から先の固形物が本当に喉を通らなかった、お粥もだめ、口に含んだ瞬間とてつもない拒絶。
胃液が逆流して嘔吐の繰り返し、
その間点滴やら何やらで体内の栄養バランスを維持するようにしてくれてたプキンさんはやっぱり流石としか言えないし、何より私の回復に付き添ってくれたんだから私は一生彼女に頭が上がらない。
やっと私がベッドから立てるようになった時、
最初にしたのが部屋の片付け。
彼との思い出の物全て処分するつもりだった。
窓を開けて大きなゴミ袋を用意して全て捨てていく。思い出の詰まったアルバム、指輪、ネックレス、ぬいぐるみ…カバンから洋服まで何もかも。
彼が知ってる私のものすべてを処分した
気づいた時に部屋は空っぽになってしまっていた。
あぁ、私の全てが彼に染まっていたんだ。
まるで私の中身みたいだな。
そう実感させられて、
また涙が溢れそうになるのを堪える。
一から全部買い直そう。
そう思いながら換気の窓を占めてコーヒーを淹れる。
シンプルな無地のマグカップに八分目まで注いだコーヒーを両手で包み込むように持てば少し熱いそれに口をつける、ふわりと鼻腔をくすぐるその芳ばしい香りと共に空っぽの部屋の空気はどこか懐かしい匂いがして
それは少し鼻のいい私が気づいてしまう程度
壁紙に染み付いてしまってるのか
どこか青臭い、植物の匂いと少し鼻につく薬品の香り。それとコーヒーの香りが混ざる。
私の大好きだった匂いなのに、
あぁ、いけない。涙が止まらない。
泣いてはいけないと分かっているけど、
私にはそれを止めることができない。
その匂いが、植物の泥臭さや花の甘い香りが沢山の記憶を呼び覚ます。
ここであったたくさんの思い出を…
ひと粒流れば積を切ったかのように大粒の涙が頬を伝う、服の裾に落ちたそれは落ちた所の色を濃くしていく。涙はマグカップにも落ちる。
声を噛み殺しながら、漏れる嗚咽を更に閉じ込める様に唇を噤む。
熱かった指先が少し冷たくなってきた頃
私は少ししょっぱいコーヒーを呷る。
(引っ越そう。)