「内緒ですよ…？」

「勿体ぶってねーで早く教えろって」

カウンター席に座るサニーさんが催促する。
私は勿体ぶるように咳払いを一つしたらサニーさんの耳元に顔を寄せて言う

「実は…とある方からの差し入れであの幻のハニードラゴンの蜜をいただけたんですっ！」

きゃーと効果音がつきそうなくらい頬に手を添えながら喜ぶ私の姿を見て先程の催促はどこへやら。
サニーさんは期待はずれだと言わんばかりに呆れた顔でこちらを見つめる
な、何なんですか、確かに美食四天王と言われるサニーさんからしたらハニードラゴンの蜜なんてすぐに捕獲できる食材かもしれませんが
一般人、しかもワールドキッチンの近くでもないこの土地に、星付きでもないしがない喫茶店のうちとしては一生に一度お目にかかれるか分からないほどの食材なんですよっ！

口に出すと悲しくなるワードが何個かあるため私は心の中で言い返しながらムスッと頬を膨らましてサニーさんを見つめる。

「誰だよ、それ差し入れた奴って」

「それは…」

どうやらサニーさんはハニードラゴンの蜜じゃなくそれを差し入れた方の方が気になるみたいだけどそれを答えることができてない。
差し入れてくださったご本人からその事は伏せられているし、本当ならこれを差し入れて頂いた事も人に話さないほうがいいと言われていた

それなのになぜサニーさんにお話したかと言うとバレてしまったから。

基本的に仕事中は営業スマイルでいる事が私の主義でそれを簡単に崩すことはないんです、実際今日も他のお客様にはいつもより機嫌の言い私を気づかれることはなかったんですが…如何せんサニーさんは感がいいらしくバレてしまいました。

これ以上隠し事をしてもきっとサニーさんにはバレてしまうのでは…
そう思いお名前を言おうかと悩みましたがやはりそこは守秘義務と言うものがありますし
お客様からの信頼を損なう事はしたくないのでここはサニーさんに引いていただくしかありません。

「それはお教えしかねます」

「んだよ、別にいいじゃねぇか。それ位」

「いけません、お客様とのお約束は守る主義なので」

「…それ差し入れた奴ってここの客かよ」

(しまった‥！)
仕入先の業者さんかもしれないという選択肢を自ら消してしまった発言に後悔と共に少しだけ見開かれた目をサニーさんは見逃さずニヤリと笑いながら言葉を続けます。なんて意地悪っ！

「ふーん…で、誰だよ。そいつ」

「だ、だからそれはお答えしかねますっ！」

顔をプイッと背ける私を見ながらサニーさんが言葉を零す。
「んなにそいつの事が大事なのかよ…」

「サニーさん？」

「んでもねぇ！いいか、レならそんなハニードラゴンの蜜よりももっとすっげー食材捕獲できんだからな！」

「え、えぇ、そりゃサニーさんならもっと凄い食材の捕獲もできると思っておりますが…」
うちの年間売上を使っても買えないような超高級食材をそれは大量に捕獲出来るでしょうけど…

素直にそう思いながら答えると少しだけ自慢げな笑顔をするサニーさん
機嫌が良くなる様子を眺めながら私は少し胸を撫で下ろす。
正直サニーさんがヘソを曲げるとその後が面倒くさい、なので私は極力気分を害されないようにするんですが…感情豊かなこの方は少しだけ読み難い。こんな事、お客様に思ってはイケないんですが…

すると少しご機嫌なサニーさんは珈琲のおかわりを仰るのでお注ぎすれば少し真面目なお顔でじっとこちらを見つめてくる。その視線を無視する事なく見つめ返せばその時間は数秒流れる。
数秒も見つめ合えば気まずくなるのは正常な感覚だと思うのですが全く揺るがないサニーさんに私が耐えきれず声をかける

「あ、あのー…サニーさん…？如何なされました？」

「ん？いや、何も。そういや今日はまだ珈琲しか頼んでなかったな、今日は何があるんだ」

「今日のサニーさん好みの物でしたら美肌ヨーグルトにヘアーアボカドとフルーツエビのパニーニのランチセットとか如何ですか？」

「ん！どっちも美容に良い美しい料理だな、それ貰うぜ」

「かしこまりました、では少々お待ちくださいね。」

そう応えてセットのご用意…
美肌ヨーグルトにはコラーゲンメープルを別添で並べて
ふわふわの髪の毛みたいな毛の生えたヘアーアボカドとビタミン豊富なフルーツエビを鉄分豊富なレッドポテトのマッシュポテトと和えて贔屓にしてる2本筋向こうのパン屋さんでの特製パンに挟んで焼けばランチセットの完成。

おまたせしました。とサニーさんにお出しすればサニーさんは料理ではなく私を見つめる
さっきからどうしたのかしら…と不思議に思い視線を合わせればフワッと微笑みながら
「やっぱり前は美しいな。」なんて普段言わないような事をサニーさんが言うものだから私の顔が茹で蛸のようにってしまってついついカウンターにしゃがみこんでしまいました。

そろそろとカウンター越しにサニーさんを見れば先程までの表情は何処へやら、嬉しそうにランチに手を付けられているのを私が見つめればそれ気づいたサニーさんと視線が交わる。
今日はよくサニーさんの瞳を見るな…綺麗な青色だよなぁ。なんて少し現実逃避気味の事を考えていれば

「次来る時は前がもっと喜ぶ様なすげー食材持って来っから！」

と少し斜めな事を言われるものだから
鳩が豆鉄砲くらった様な顔をする私を見て
美しくねぇ。なんて言う


サニーさんはやっぱり少し、少しだけ読めません。