灰谷兄弟の従姉妹
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従兄弟が帰ってくる。
少年院から。………そう、少年院からである。
元からやらかしてるなぁ、とは思っていたがまさか本当にやらかすとは私も思わなかった。
そして親戚共々煙たがっていた彼らを今回の件で本格的に嫌厭したのだ、しかし二人を放っておくとまた何をするかわからないうえ未成年の為監督者が必要と判断された結果その役回りが私に来た。
地元で働く気しかない私に少なくない“お小遣い”を提示しながら首都圏での就職活動を伯母さんから打診されたのは昨年の話だった。
実の両親ですらお手上げ状態の二人を私が監督するなんてそんな事無謀以外の何物でもないが形だけでも取っておきたいのだと気持ちを察した私は両親に心配されながらもその頼みを聞き入れた。
元よりどこで働くかという事にこだわりはなかった。
交通の便と土地勘、それに金銭面として地元である大阪から出る気がなかっただけでその三択の中にある金銭面が確実にクリア出来るなら特に断る理由もない。
そこから話はトントン拍子に進んでいき、充てがわれた家は子供3人にしては贅沢な程広いマンションの一室だった。
3LDKのファミリー向けマンション、その一室に遠縁のおばさんが買ってくれた大きなベッドを業者さんが運び入れる。これもある意味手切れ金だ。
というかこの家の中にある大物家具全てその類だ、大きなソファに立派なテレビ。
冷蔵庫や洗濯機に至るまですべて最新式なのだ。
20歳になったばかりの小娘にはもったいない代物ばかり。
そんな分不相応な家具に圧倒されながらすべてを運び終えた業者さんが帰ったあと叔父さんと叔母さん、それに私の両親でリビングの大きなダイニングテーブルに座る。
目の前に出されたのはキャッシュカード2枚と白い紙。
紙の方に書かれているのは誓約書、中をサラリと見たけど要約すれば「私、(名前)は灰谷蘭、灰谷竜胆の監督義務を請け負います」って内容。
それ以外の変な所が無いか確認をしてサインと印鑑を押す。
そしてカードの1枚には毎月いくら振り込むかって話と、もし万が一の為に私名義にしてるらしいキャッシュカード。
私はその両方を通帳ケースに仕舞った。
その他全ての説明が終わってから叔父さん夫婦と心配そうにする両親はこの家を後にした。
そして冒頭の一言に戻る。
従兄弟が帰ってくるのだ、明日。
忙しさのあまり面会にも行ってなかった為会うのは数年ぶり、何を話せば良いのか少し頭を悩ませる。
そんな子達と今日から終わりのない同居生活ときている、やはり無謀な気がしてならない。
しかし小さい時は仲が良かったし会えば沢山遊んだ。
そんな時の思い出を遡る。
………そういえば。と昔の思い出に一つ足がかりを見つける、話のきっかけくらいになればいっかと思いながら私はキッチンに立った。
ーーー
高校卒業と共に取った運転免許はとっくの昔にわかばマークが外れている。
だけど走りなれない都内の道はわかりにくくて予定してた時間より少し遅れて少年院の前に車をつける。
しまった、すれ違ったかな。と心配しながら時計を確認するも出所予定時間には間に合ってる事に安心して車内で待つ。
しばらくの間ハンドルに顎を乗せながら待っていると門が開く。
ちらりと視線を向けたら記憶より背が伸びてるけど見覚えのある顔の二人が出てきた。
私が迎えに来るという話を叔母さんから伝えられていたみたいで周りを少し見渡す二人に私は車から降りて駆け寄る。
「蘭ちゃん、竜ちゃん」
「(名前)ちゃん?」
「うん、おかえり」
少し瞬きをしながら私を見つめて名前を呼ぶのはタレ目の可愛い竜ちゃん。
蘭ちゃんはいつも通り何を考えてるか分からないけど不機嫌でない事だけはわかった。
そんな二人を車に案内してそのまま家に向かう。
車内の空気は思ったより悪くないけど軽くはなかった。
数年ぶりに従姉妹が迎えに来たかと思えば3人で暮らせと言われてるんだから、それがどう言う意味を表してるかなんて言わなくても分かる。
慣れない道だけどさっき走った時散々迷った為かろうじてスマートを装いながら運転をする。
「道、覚えてるんだ」
マンションのエレベーターに乗った時、その日初めて蘭ちゃんが口を開いた。
「ここから鑑別所迄だけね」
「嫌味?」
「まさか、迎えに行く迄に再三迷ったから」
「方向音痴なのは変わってねぇんだな」
「お生憎様。」
竜ちゃんが私達を交互に見ながら少し身構える、蘭ちゃんが何考えてるか竜ちゃんも分かってないみたいだけど竜ちゃんに分からないことが私に分かる訳ないのだから私はもう半ば諦めも込みで何も考えずに会話をする。
昔とあまり変わらない(と私は思いながら)軽口を叩きつつ部屋の扉に鍵を差し込んで開ける。
空いてる二部屋のうちどちらがどちらの部屋を使うかは決めて、と告げて私は一足先にリビングへ行きコーヒーを淹れ始めれば特に大きな音がすることもなく数分したら二人共リビングに来た。
案外すんなり部屋は決まったらしい。
蘭ちゃんがテレビをつけてあの大きなソファに腰を下ろす。竜ちゃんは私の方へ来て手元を覗き込みながら「俺砂糖2個ね」と言う。
その言葉に反応してソファの方から「ブラック」と一言聞こえてくる。
二人の要望に軽く返事をしてコーヒーをローテーブルに並べたら当たり前の様に二人の間に開いてる空間に座る。
テレビから流れる情報はニュースとワイドショーの中間。ワイドショーほどダラダラして無いけど朝のニュース程時間に追われてもいないゆるっとした内容だった。
特に予定も決めてないし彼らの私物は殆ど無いから服でも買いに行くか提案するけど乗り気でもなければ拒否でもない中途半端な返事が両方から来る。
どうしようかなぁ、と考えてコーヒーに口を付けたらふと思い出す昨夜のこと。
そそくさとソファから離れてキッチンに行く私を二人が視線で追いかけるのを感じながら冷蔵庫からアルミカップを取り出す。
カップの縁を竹串でぐるりと回して小皿にひっくり返す、すると少し硬めのぷるん、とした感覚が皿の上に乗る。
それをあと2回繰り返せばスプーンを添えて再びローテーブルへ。
二人は不思議そうに私を見る。
「どうぞ」
そう言いながら私は再び彼らの間に座って小皿を1つ手に取る。
「プリン?」
「なんでまた、」
「覚えてる?私が初めて二人に作ったお菓子。」
昔、遊ぶ時にプリンを作って行ったことがあった。
その時は今よりもっとカラメルは固くてプリンも柔らかかった。砂糖も少し多いそれは甘く“手作りお菓子”だった。
蘭ちゃんはそれを食べて「美味いよ」と笑いながら言ってくれた。
それが嬉しくてしばらくの間毎日プリンを作ったし、そのかいあってか今ではレシピ本を見ずにそこそこのプリンが作れるようになった。
昨日思い出したそれは話のネタ程度になるかと思って作って冷やしておいたのだ。
蘭ちゃんが黙ってスプーンを手にとってプリンを掬う。
「…ん、美味い」
蘭ちゃんの頭に手を回して私の肩へ引き寄せる。
顔は見ない。多分見たら殺される、比喩表現ではなく。
竜ちゃんの方に顔を向けたら空のお皿を手にしてる竜ちゃんと目が合う。おかわりは?と訴えるその顔が何だか見た目とそぐわなくて可笑しくて笑いが溢れる。
私の笑い声に反応して蘭ちゃんの頭が私の手から離れる。
「竜胆早食いすぎだろ」
「だって(名前)ちゃんのプリン美味いんだもん。」
「甘い物、好きだもんね」
「(名前)ちゃんが作ってくれたものなら格別に好き」
そう言ってくれる竜ちゃんが可愛くて気を良くした私はまだあるプリンを冷蔵庫から取り出して竜ちゃんのお皿に盛り付ける。
「あと何個あんの」
「まだ数回おかわりできる程度には。」
そう応えると蘭ちゃんは少し嬉しそうにスプーンを進めた。
全く、素直じゃないんだから。
私の一言で嬉しそうに目を光らせた竜ちゃんを少しは見習ってもらいたいものだと思ったりしたけどその素直じゃない所も私は蘭ちゃんの好きな所なので口にはしなかった。
した事は許されないけど、それでもやっぱり君達の嬉しそうな笑顔が好きだよ。
「おかえり、蘭ちゃん竜ちゃん」
「「ただいま。」」
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