場地圭介の姉
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─“千冬!”
信頼をおいてくれてる呼び方も
──“千冬ぅ”
ダレるように俺の名前も呼ぶのも、全部全部…
俺は好きでした。
───“おう、千冬!
────────半分こな。”
俺の…大切な…………
──「………くん」
─「松野君!!」
急に現実へ引き戻される感覚に俺は慌てて目を覚ます。
「おはよう、松野君。朝、だよ。起きて」
ベッドで寝る俺の顔を覗き込みながら微笑む人の肩から落ちてきた黒髪が俺の頬を掠める。
「………ばじ…さ…?」
「圭介じゃないよ、(名前)だよ。」
(名前)さ……(名前)さん!?
寝ぼけていた事実と口から出た間違いに慌てて体を起こして彼女の顔を見る。
肩下まで伸びた綺麗な黒髪は毛先までまっすぐと伸びていて、綺麗に切り揃えられた前髪の下にある瞳は俺の尊敬してた人より少しだけ釣り上がって女性的で。
肩から下に纏ってる服も俺は見慣れたけどここら辺じゃあまり見ない進学校のセーラー服。
元論ルーズソックスなどではなく黒タイツ。
そこまで見てようやく自分が夢を見てたこと、そして盛大に寝ぼけていたことに気づく。
「おはようございます。(名前)さん」
「うん、おはよう。遅刻するから早く着替えて準備してね」
待ってるから。と言いながら俺の部屋から出ていく(名前)さんの揺れる後ろ髪を見つめる。
「未練たらたらじゃねぇか、」
大きな溜息は閉められた扉に吸い込まれてそこから向こうに行くことはなかった。
「松野君、今日は帰り予定ある?」
(名前)さんと歩く駅までの道すがら予定を聞かれる。
「いや、何もないですけど」
「じゃあ一緒に帰らない?寄りたい所、あるんだ」
松野君と。と付け加えながら数歩先へ進み振り返って俺に笑いかける(名前)さん、“俺と”ってところが想像つかなくて少しだけ気になりつつ断る理由もないのでふたつ返事で答えるとさっきの微笑みより嬉しそうに笑う。
「楽しみ」
そう言うこの人の顔は俺にとっては少し残酷な程あの人によく似ていた。
───────
いつも通り適当に学校を過ごして朝の約束通り(名前)さんを迎えに行こうとしたら正門の前にもう既に居る(名前)さん。
この時間にうちに来てるなんて時間的にありえないと思ってたから少し焦りながら声をかける。
「(名前)さん!?なんで、学校は」
「午後は任意の補講だから来ちゃった」
「来ちゃったって…」
ここら辺のことを考えても(名前)さんの学校の制服を見られたらろくなやつに絡まれかねない事は想像に難くないから少し心配したがよくよく考えたら(名前)さんだ、それはいらぬ心配だったと思い直す。
「それより、行こ。」
俺の腕を引きながら進む彼女の背中を見つめながら後をついて行く。
少し歩いて辿り着いたのは駅近くの路地裏。
俺を連れて来たかったところが路地裏…?まさか(名前)さん…!!なんてくだらない事を考えてる俺を他所にしゃがみこんで路地の伸びる先へと手を伸ばしてチッチッチッと舌で音を鳴らす。
するとあまり間を開けずに「ナァー」と聞き慣れた鳴き声と共に数匹の猫が(名前)さんに近寄ってすり寄る。
「この間帰り道で見かけてね、ここら辺に住んでるみたいなんだ」
「松野君、猫好きでしょ?」
すり寄る猫を撫でながら声だけでこちらに話す(名前)さんの隣に行って一緒に手を出す。
猫達は警戒心がないのか(名前)さんに心を許しているのか俺にも特に警戒する様子もなくすり寄ってくる、首や顔を手で撫でながら可愛がるとゴロゴロと音を鳴らす。
「警戒心なさ過ぎだろ、」
「松野君が優しいからだよ。」
さっきとは違って俺の顔を見据えながらそう言う(名前)さんの顔がいやに近くて、少し鼓動が早くなる。
「(名前)さ─」
「あー?何だよカップルいんじゃん」
「何、こんなところでナニしようとしてんだよ」
俺の言葉を遮りながら下品な笑い声が路地裏に響く。
さっきまで居た猫達はもうどこにも居なくて俺は少し苛つきながら振り返るとそこには数人の不良。
(名前)さんの前に出て不良の視界に入らないように立つ。
その行動を冷やかすように煽ってくるのにキレないよう周りを見渡す、6、7人って所か。
これなら俺一人でも何とかできる、その間に(名前)さんを…そう考えてるのもつかの間黙っている俺達が怖がっていると思ったらしい奴等は視線を俺から(名前)さんに向けてこれまた品の無い言葉を飛び交わせる。
(名前)さんに下がってる様に声を掛けようと振り返った時には既に(名前)さんは居なかった。聞こえてくるのは俺の後ろ、さっきまで不良達が居た方から悲鳴。
もう一度首を振ってそちらを捉えると飛び蹴りを繰り広げてる(名前)さん。
軽やかに着地すると手首につけてた髪ゴムで手早く長い髪を結い上げてまとめる。
「千冬!行くよ!」
端から見てた(名前)さんの口元は上がってて
その後ろ姿が、言葉が、背中が───
「はい!場地さん!!!」
「喧嘩売る相手はちゃんと見極めなさいよねぇ」
そう言いながら手を叩いて汚れを払う(名前)がクルッと振り返って片手を上げる。
その動きに合わせて千冬も手を上げてハイタッチをすれば嬉しそうに笑う(名前)を千冬は視界いっぱいに収めた。
「ナイス千冬ゥ♪」
「場地さんこそ流石でした!!」
嬉しそうに楽しそうに目を輝かせてそう言う千冬を見ながら(名前)はニコッと笑った。
その笑顔によってハッと思い出した様な顔をする千冬の頭を少し乱暴に撫でながら(名前)は髪を解いて言う。
「まぁ私も“場地”だから間違ってないし気にしないで」
「でも、そう言うわけには」
「…圭介と私ってそんなに似てるかな?」
千冬の頭から手を離して尋ねる(名前)の顔は嬉しいのか悲しいのか、はたまた何かを懐かしむ様な、千冬には読み取ることのできない表情をしていた。
「ま、私もついうっかり“千冬”って呼んじゃったしお愛顧って事で」
パッ表情を変えて明るく務めるようにそう言う(名前)の意思を汲み取り千冬はコクリと頷いた。
─────────
「千冬」
「千冬ぅー」
二人で呼んでも身じろぎ一つしない千冬の様子に(名前)と一虎は顔を合わせながら首を傾ける。
すると(名前)が手にしていたコンビニ袋から一つ、個包装の袋を取り出してニヤついた顔をすると一虎はそれを止める様子もなく手にしていたバニラアイスを咥える。
「ちーふーゆー」
ピト、とその個包装を千冬の首に当てれば流石に温度差に驚いた千冬が飛び起きて椅子からずり落ちそうなる姿に(名前)はケラケラと笑う。
何事かと焦る様に周りを見渡す千冬の視界にはさっき迄の路地裏はなく見慣れた店内だった、今自分を椅子から落ちる起こし方をした張本人の先程まで見てた筈だった長い黒髪は見る影もなく自分と同じ位まで切られた短髪姿で、さらに彼女の隣でアイスを食べながら静かにこちらを見てる一虎の姿でここが今、現実でさっき迄自分は寝ていて昔の夢を見ていた事にすぐ気づいた。
「起きた?」
「(名前)さん…」
「いくら呼んでも起きないんだもん。心配しちゃった」
「絶対心配してる人の起こし方じゃないですよね」
「そんなことないよ、ねー?一虎」
(名前)の同意に頷くわけでも首を振るわけでもなく一虎はただ黙々とアイスを頬張っていた。
「それよりアイス、買ってきたから食べよ」
気を取り直す様に差し出されたその袋は先程自分に当てられたもので、その袋を受け取ろうとした千冬の手は宙を掴んだ。
「え。」
バリッと個包装を開けた(名前)はそのまま二本の棒が刺さった一個のアイスを取り出す。
なれた手付きで二本の棒を左右に引けばパキッといい音をさせながらそれは一本のアイスキャンディーへと姿を変える。
(名前)はその涼しそうな色をしたアイスキャンディーの片割れを千冬に差し出す。
「はい千冬、半分こ。」