私は大人だから(東リべ/三ツ谷)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
次に現実に戻った時はいつものレンタルビデオ屋ではなく何処かの祭場で、よく見たら俺自身も黒のスーツを身に纏っていた。
「花垣さん、この度は御足労頂きありがとうございます。」
状況を理解できていない俺に声を掛けてきたのはどこかで見たことがある女性で…そうか、ここは葬式場なのか。でも誰の…??
声をかけてくれた女性は受付に座った様子から見てこの葬式の親族であることは分かった。誰の葬式か分からないまま足を進めると受付から聞こえた会話の名前に心臓が高鳴る。
駆け足で中まで入るとそこにある遺影はよく知った人でそのまま棺に駆け寄って顔を見る。三ツ谷君だ…!!なんで、待って。
俺は焼香もそこそこに祭場から出る。
頭の整理が、突きつけられた現実が理解できない。
不意にポケットから落ちた鍵が視界に入る、これは俺が住んでるボロアポートの…
拾い上げようと屈んだ俺の視界に細くない指が映る、それはそのまま剥き出しのその鍵を拾い上げて俺に差し出す。
お礼を言いながらそれを受け取り手元から相手の顔へ視線を向けるけど俺はその人を見たことがなかった。
鍵を拾ってくれた左手の薬指には銀色の指輪がはめられて反対の右手にはまだ幼い子供の手を握っている。
ふたりとも喪服を着ている所を見たら三ツ谷君の知り合いなのかと想像はできたけど本当に俺は出会ったことがない女性だった。
「武道君だけになっちゃったね、」
そう溢すように俺の顔を見ながら言うその人は静かに涙を流した。
「君に覚悟があるなら、彼を救って。」
この人の言ってる事が理解出来ず呆然としてる俺に女性が手を繋いでいた子供が俺のズボンを引っ張る。子供の方を見ればどことなく既視感を覚える目鼻立ちで俺らさらに困惑した。何か思い出せそうで思い出せない、俺はこの人の事は知ってる気がする。
そう、この12年の記憶の中にある気が…
「たけみっち、おとうさん、もう、おきてくれないんだって」
声を詰まらせながら拙くそう紡ぐ子供に目線を合わせれば今まで蓋をしてたものが溢れるように思い出す。
そうだ、この子は三ツ谷君の子で…今俺の眼の前にいるのは三ツ谷君の奥さんである(名前)さんだ。
今までなんでわからなかったのか不思議な位様々な情報が溢れてくる、それと同時にもう一つの記憶も引っ張り出す。
前のループの時、俺が東卍の幹部になってる時も確かこの人の名前は幹部会の時に聞いた。
そしてこの間、12年前の初詣の時に三ツ谷君達と一緒に居た人だとも思い出す。一度話しただけだけど当時とあまり顔の変わってない事を今になって理解する。
そっか、あの時から三ツ谷君はこの人のことが好きなのは流石の俺も見てて分かったからその想いは実ったのかと嬉しく思うも今行われている葬式の故人を思い出せば素直には思えなかった。
「あの、彼って…」
俺は色々な記憶と思いを気付かれないように返す。
(名前)さんは優しく、そして悲しそうに微笑みながら、そこに行けばわかると思う。とだけ言って子供の手を引きながら祭場へと戻って行った。
現状が全然分からないまま(名前)さんの言葉を頼りに俺はひとまずいつものボロアポートへと向かった。
歩き進めた男の背中を見つめる。
「お願いね、私達のヒーロー。」
そう呟いた彼女の手を幼く小さい手が可能な限り強く指を引く。
「おかーさん?」
「ん、お父さんを見送りに行かないとね」
可愛らしく下っている目尻は彼女が愛した男とそっくりで、彼がこの世に居た現実と、今はもう居ないという現実の証明のようで
彼女は祭場に戻る迄の短い道のりの間、その小さな手を握りしめながら静かに泣いた。
4/4ページ