私は大人だから(東リべ/三ツ谷)
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日も暮れて、いつも通りのノリで集会に行く。って言った彼を見送ったのがほんの数十分間前。
自分の家に帰ってシャワーを浴びて濡れた頭を拭いてるタイミングでけたたましく鳴る携帯を手に取り映し出された名前に胸が焦る。
平静を努めながら着信を取る。
「もしもし、八戒君?」
「(名前)さん……タカちゃんが…!!!」
気づいたら車の鍵を手に家を飛び出していた。
運転席に飛び乗りシートベルトをする、肩に太もも…シャツの襟口を髪から滴る水滴がシミを作っても気にならない。
出来るだけ冷静に、電話で言われた病院へ飛ばす。
はやくはやくはやく…こんな時に限って赤信号が嫌に長く感じる、ハンドルを握る手に力がこもる。
抜け道と法定速度ギリギリで走って病院についた時、待合に居た八戒君に声をかける。
話を聞いたら集会に行く途中不意打ちを食らったって…こんなの、もう子供の喧嘩じゃない。素直にそう思った。
でもそれは八戒君も思ってたみたいで彼の握りしめて震える拳に手を添える。
「ごめん、(名前)さん」
「良いんだよ。」
軽く深呼吸した八戒君は私の手を引いて病院の奥へと進む。
「タカちゃんはこの先の病室に居るから」
そう言われて着いた窓ガラス越しの隆君を見た瞬間目頭が熱くなる。
「俺…みんなにこの事伝えて来ないと。」
隆君のこんな姿を見て「はい、いってらっしゃい。」って言えるわけなくて、車で送ると食い下がったが断られた。
「タカちゃんの側にいてあげて。目が覚めた時一番最初に(名前)さんの顔、見たいだろうから」
「でも、」
「それにアングリー君と違って俺は家族じゃないからさ、付いてるなら大人の方が病院の人も良いだろうし」
普段、隆君をあしらう時に使う常套句を言われてしまったら何も言えなくて、八戒君は軽く微笑む。
「…わかった。」
そう言うと「お願い」と言って八戒君は病院を後にした。
隣にいたアングリー君と二人で近くのベンチに座る。
どれくらい経ったか、気疲れしたのか眠ってしまったアングリー君が私の肩によりかかる。
そんな彼をそっとソファに寝かせて私のコートをかけてゆっくりと足音を立てないように窓ガラスへ近づく、繋がれた管と機械からは一定のリズムを刻んでるのを見つめる。
「なんで…ねぇ、お願い…お願いします神様…どうか、どうか隆君をまだ連れて行かないで下さい…」
祈る様に、あるいは縋るように、硝子に項垂れながら私はひたすら立ち尽くした。
次に気づいた時、あの後寝る…というか意識を飛ばしてしまっていたことに気づいた私は体を勢いよく起こす。
するとパサ、と下に落ちた特攻服が目に付く。
“弐番隊 副隊長”と腕に刺繍されたそれを手に周りを見渡すとこちらに気づいた八戒君が近づく。
「(名前)さん、大丈夫?」
「ごめん、私…」
「ううん、それより病室、入って良いって言われたから。」
そう言いながら私の手を引いてさっき迄見つめていた病室の扉を潜る。
「手、握ってあげてよ」
ベッドに眠る彼は以前として静かに呼吸をしていた。
節ばった、でも少し細い、その綺麗な手にそっと自分の手を重ねて握る。
キュッ、と握る力に反射的にピクリと少し動くのが分かってまた涙が止まらなくなる。
「隆君、隆君…」
分かってた。
自分の気持ちなんてとうの昔から、でもそれは彼にとっては青春の一瞬でしかない。だから蓋をして、悟られないようにしてきた。
まさかそれが今、こんな後悔の念に押し寄せられる結果になるなんて思ってもなくて。
「ごめん、ごめんね、大好きだよ。君が好きなの…だから、帰ってきて…隆君…」
「それって、今までの返事って事でいい?」
聞き慣れた、でも予想もしてなかった声に握りしめた手から顔を上げる。
うっすらと目を開けてこちらを見ながら微笑む彼の姿に私は安堵の気持ちで涙が止まらなくなる。
握っていた手は私の掌から抜けて頬を伝う雫を拭う。
「泣きすぎ、」
微笑みながら私の頬に手を添えてゆっくりと撫でる。
隆君、隆君、隆君………!!
撫でてくれるその手に私も上から手を添えてその手に頬擦りをする。
「よかった…よかった……」
「俺、そんなにやわじゃねぇよ」
「意識不明の重体だったのに何言ってんのよ。」
本当に、この子は何を言ってるんだろう。こんなに心配させておいて平気そうな顔で笑うのだから。
「でさ、さっきの事なんだけど、」
「あ、私先生呼んでくるね。」
「はぁ!?」
逃げる様に病室を出る私の背中へ彼から不満の声が投げられるが聞こえないふりをして出ていくずるい私に少し諦めたため息が聞こえた。
───
あの後スマイリー君も目が覚めて、いくら目が覚めてもまた暫くは絶対安静の入院だと説明を受けたのが数時間前。
そう、“絶対安静”なのである。
なのに彼…いやコイツ等は今何を言ってるの?
必要な物を買って病室に戻ってきたら聞こえてきた会話の内容に私は目眩がしていた。
その会話に気づいてないフリをして病室に入ると明らかに“どうしよう。”といった表情でこちらを見てくる4人。
この時ばっかりは八戒君もアングリー君も宛にできない事が今ここで分かった。
私は静かに椅子を扉の方に置いて座る。
その行動ですべてを悟った4人は少し気まずそうに顔を見合わせる。
室内の時計の秒針が響く。
このまま静かに寝てくれないかな、と割と本気で思うけどそんなこと無理なのは私もよく知ってる。ここは眠気との耐久レースになりかねないと思っていたら隆君が口を開く。
「なぁ(名前)さん、ちょっとだけ抜け出したら…」
「は?」
中々に低い声が出た。
私のこんな顔と声見たことない他の3人がビクッと肩を震わせるのが見える。それでも隆君は怯まない。
「駄目に決まってるでしょう」
「頼むよ…」
眉を少し下げながら言ってくる彼に私が頭を抱える。
「………何、言ってるのよ…こんな時に…駄目に決まってるでしょう…何が君をそんなに動かすの…」
「意地だよ。男として、負けらんねぇ意地。」
しっかりと私の瞳を捉えて離さず、力強く私を見つめて言う。
それ以上でもそれ以下でもないとでも言うように、もう呆れてため息が出る。
「意地って…はぁー………………馬鹿じゃないの…」
「あぁ、大馬鹿だよ」
隆君は「男だからさ」と付け足したような顔で少し笑いながら言う。もう本当に男の子って馬鹿!でもきっとそんな彼らに感化されて大人として振る舞えない私はもっと馬鹿。
「…………あーもう!!!!八戒君、アングリー君、二人を抱えて。車椅子は私が持ってく。」
「(名前)さん…?」
「鼓舞しに行くだけよ。喧嘩は絶対ダメ、約束守るなら、車で送ってあげる。」
「ありがとう(名前)さん!」
嬉しそうな顔に私も嬉しく思うからきっといい大人にはなれそうにない。