私は大人だから(東リべ/三ツ谷)
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「隆君!!!」
「あ、(名前)さ…──!!」
パァン──と乾いた音が夜空に響き渡る。
黒龍との坑争から帰宅して団地の入り口まで戻るとそこには肩を白くした(名前)さんが膝を抱えて座り込んでいた。
一緒に居た八戒と柚葉もその姿に驚いた様子で俺と同じ様にバイクから降りる。
俺のインパルスの音に気づいた(名前)さんは顔を上げてしきりに周りを見渡す、そして俺を見つけるやいなや俺の名前を呼んで…………ぶたれた。流石に少しよろけた俺はそのまま倒れそうになりながら腕を引かれて視界が塞がる。
え…………と、抱きしめ、られてる…??
「馬鹿!!!!」
「あ、えっと…」
暖かくて柔らかい感覚に思考が追いつかない。
本当なら俺の両腕も(名前)さんの背中に回すべきなんだろうけどテンパりすぎて触れていいのか分からず宙をさまよう。カッコわりぃ…
そのままダラン、と腕を下ろして俺はただ抱きしめられるだけだった。
後ろに八戒と柚葉が居るとか、そんな事はもう頭にはなくてもう目の前のこの人の温もりにしか意識は向いていなかった。
そっと距離を開けて温もりが無くなる。
俺はゆっくりと顔を上げて(名前)さんを見据えると俺の頬にに手を添えれば指で傷をなぞると痛そうに顔をしかめる。(名前)さんが怪我したわけじゃないのに。
「こんな怪我して…ほんとに、馬鹿。」
消え入りそうな声でそう言うと長い睫毛に涙を目一杯溜める。
「あー………ごめん。」
「どれだけ心配したと思ってるの…」
「ごめん…」
「喧嘩しないでなんて私が言う資格ない、だけど…こんな怪我して…大寿君相手に、何かあったんじゃないか。って待つ方の身になる私の事考えてよ…」
「ごめ………なんで大寿とやったって知ってんの。」
(名前)さんが知ってる訳ない今日の相手の名前に俺は少し驚く。いや、これ以上驚くことってあんまり無いと思うけど。
「私の事、侮らないで。」
あぁ、これは
そのまま(名前)さんは大きくため息をつけば軽く俺を再び抱きしめたらさっきとは違ってあっさりと離れる。
そのまま俺の後ろ、八戒達の方に近寄って二人を両手で抱きしめた。
「大事がなくて良かった。」
その声は心底安堵した様子だった。
二人の頭を近づけ頬を擦り寄せる姿はさながら猫のようだと三ツ谷は思った。
頭を撫でながら離れて八戒と柚葉の顔を俺にしたように優しく触れる様子を眺めていたら何かを話してそのまま離れ八戒達はバイクに跨がった。
「たかちゃん、俺達とりあえず帰るよ。」
「あぁ、」
「無理しないでちゃんと怪我治すのよ、何かあったら連絡してね。」
「(名前)さんは心配性だな」
「心配もするわよ。」
「(名前)ちゃんは三ツ谷の手当してあげてよ、私達は大丈夫だから。」
ちらりと(名前)さんを見ると少し納得してなさそうな顔で柚葉達を見つめたが折れるように肩をすくめて「わかった。」と一言返して八戒達を見送った。
「私達も帰ろう。」
「うん」
─────────────────
クリスマスの出来事から1週間が経とうとしてた、そう今日は12月31日大晦日。
俺の家には今(名前)さんが来てて二人で年越しそばを啜っていた。
この後日付が変わる少し前に八戒達と初詣の約束をしていたからルナとマナは早めに蕎麦を食べて先に少し寝ている。
年越しスペシャルの番組を小音で見ながら海老天を囓る。ズルズル、と(名前)さんの蕎麦を啜る音が聞こえる。
「んー、やっぱり隆君の作る年越しそばは美味しいね」
本当に美味しそうにそう言う彼女を見ながら少しぶっきらぼうに俺は応える。
「市販のそばに特売の海老天だけどね」
「それでもそれを湯がいて温めて盛り付けてくれたのは隆君だもん、充分隆君が作った年越しそばだよ」
丼を傾けて出汁まで啜る(名前)さんの喉が上下するのを眺める。
多分この人は世辞とか抜きで本気で言ってる。だからある意味厄介なんだよな…なんて思いながら俺も最後の麺を啜りきればタイミング良くインターホンがなる。
「あ、柚葉ちゃん達かな」
パッと顔を上げる(名前)さんを制止して俺が玄関へ向かう。
多分八戒達で間違いはないが深夜だし念の為がある、そう思いながら玄関を開ければその心配は杞憂に終わる。予想通り、そこには少し大きな荷物を抱えた八戒と柚葉の姿。
「あけましておめでとう、たかちゃん!」
「まだ明けてねぇよ」
あ、そっか。なんて言いながら笑う八戒達を家の中へ招き入れればテーブルに置いてた食器を全部洗ってくれた(名前)さんが手を拭きながらこちらを見る。
「柚葉ちゃん、八戒君、久しぶり。クリスマス以来だね」
怪我は平気そうだね、そう言いながら二人の顔に手を添える(名前)さんはホッとしたような表情だった。
そのまま視線は二人の荷物へと向く。それが何かは俺達には恒例のことだったから聞くまでもなかった。
「二人が晴れ着ならやっぱり隆君も着なきゃね」
振り返りながらそう言う(名前)さんに俺は気まずく視線を少しそらす。「ほらー、だから言ったでしょー」と少し楽しそうに零す(名前)さんは奥の部屋に行って吊るしていた着物を手に戻ってくる。
「ね?」
(名前)さんから差し出されたそれはちゃんと風通しされた男物の着物。
毎年初詣に着物を着ていくのは俺達が物心ついた頃からの“当たり前”だった。ただ、ここで問題なのは等の着付ける本人…(名前)さんは着物を着ないって事。
本人にその話を振ると「私はいいの」の一点張り。
その理由は少し考えてみたら難しくなくて、小さなルナとマナの手を引いて人混みを行く事を分かってて普段より動きにくくなる着物を着る事を憚れるのは(名前)さんの性格を考えたらすぐ分かることだった。
…まぁそのことに気づいたのは今年なんだけど。
とりあえずそのことに気づいた俺は少しいたたまれなくなって「今年は着物を着ない。」と言った。
けど俺のそんな考えを知る由もない(名前)さんは「八戒君たちは絶対着るから」と言って着物を出して用意していた。
因みにこの考えは八戒達に言ったはずなんだが…そう思いながら柚葉を見れば静かに親指を立ててきた。………ん?
「あのね(名前)ちゃん、今回は(名前)ちゃんの分の着物も持ってきたの」
「え?いや、でも…」
柚葉の思惑が分かった俺は(名前)さんの外堀を埋める。
「ルナとマナなら俺が手を繋いでるし昔と違って今の二人は勝手にどこか行ったりしないし」
(名前)さんが一番良くわかってるでしょ?と付け加えたら
少し困ったような、でも嬉しそうな顔で眉を下げながら笑った。
───
「(名前)ちゃん綺麗!」
「美人!」
着付けを終えてルナとマナを起こして神社へ向かう道中、二人は初めて見る(名前)さんの着物姿にうっとりしたような顔で(名前)さんの手を握り離さずしっかりと隣を歩いていた。
どことなくいつもと違う、初めて見る(名前)さんの姿に俺は正直ドキドキしていた。
その気持ちが悟られないように(名前)さんの後ろ歩いていると隣から柚葉に肘で突っつかれる。
「後でルナちゃんとマナちゃん連れて屋台回るからちゃんとやりなよ」
小声でそう囁かれると考えない様にしていた事が不意に頭を占める。
でも(名前)さんの事だから俺が誘っても応じてくれないかもしれない…なんて悶々と考えてたら背中を力強く叩かれる。
「いっ──!!!」
咄嗟の事で声が漏れる。
前を歩いてた八戒と(名前)さんが振り返って心配してくれる、二人に笑って返せばジトリと柚葉を見ると悪びれた様子は無かった。
「頑張んなよ。」
「頑張る、たって…」
「三ツ谷なら大丈夫だよ。」
「何を根拠に」
「女の勘」
女の勘なんて出されたら俺はこれ以上何も言えない。
肩をすくみながらそれを返事に当てれば神社の入り口まで来ていた。
あ?あそこに居るの…
「たけみっち!七五三見てぇな着こなしだな。」
(それはいつも通りの出来事とそうじゃない出来事)