私は大人だから(東リべ/三ツ谷)
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窓から差し込む朝日と鳥の鳴き声で目を覚ます。
机に突っ伏して寝ていた身体を無遠慮に起こすと首に痛みが走って声が漏れる。
「つぅ………──」
近くに置いていた携帯で時間を確認すれば朝の5:27、固定設定しているアラームがなる3分前。
変な体制で寝ていたせいで痛む腰を誤魔化すように伸ばして立ち上がれば見慣れたリビング、私の家では無いけど実家と同じ位勝手知ったる足取りで洗面所で頬についたよだれの跡をきれいに洗い流す。
台所で冷蔵庫から食材を出して我が物顔で料理を始める。
換気扇をつけてグリルに塩鮭を並べて雪平鍋でほうれん草を茹でてお浸しを作る、その間に昨夜作っておいたひじきの煮物を温めて…段取り良く作業をしながらトースターにパンを入れた辺りで隆君がリビングに顔を出す。
「おはよう、(名前)さん」
「おはよう隆君、昨日何時に帰ってきたの?」
「日付超える前には帰ってきてたよ」
「嘘、私ちゃんと0時までは起きてたもん」
「でも俺が帰ってきた時にはよだれ垂らして寝てたよ」
「ゔ、間抜け顔見てたなら起こしてくれたら良かったのに」
「可愛かったよ。」
「嬉しくない。」
最初の挨拶以外お互いに顔を合わせずに会話を続けてそのまま洗面所へ向かう隆君の気配を感じながら卵焼きを作る。
ジュワ、といい音をさせながらパタ、パタ、と折り返していけば匂いで起きたのか音で起きたのか、ルナちゃんとマナちゃんが眠そうに目を擦りながら私に声を掛ける。
彼女達におはよう、と返して洗面所に居る隆君へ彼女達を受け渡す。
焼き上がった卵焼きを皿に乗せて包丁で切ると彼女達の歯を磨いたりと面倒見る隆君の声が聞こえてくる。
おかずが全部揃った辺りでタイミング良くタイマー設定していた炊飯器からご飯の炊けた合図が響く。
ちょうどトースターもチン、と音が鳴る。
パタパタと天使達が私の足元に近寄って来る。
「(名前)ちゃん朝ごはん何ー?」
「なにー?」
「今日はパンとヨーグルトだよ。早く着替えておいで」
「やったー!ジャム塗る!」
「私苺のが良いー!」
「苺ジャムも出しておくから」
はーい、と素直な返事をしながらキャッキャッと二人で着替えに寝室へ向かうのを見ていたら後ろから気配もなく近づいて私の名前を呼ぶ隆君に驚く。
「び、っくりしたぁ…危ないでしょ。」
「包丁持ってるわけでもないしいいかな、って」
「全くもう…」
「パン、並べていいの?」
私の言葉なんて聞き流しながらトースターからパンを皿に盛ってテーブルに置く、後は?と振り返りながら訪ねてくる彼にヨーグルトといちごジャムを出してもらう様に伝えて私はお弁当箱を取り出す。
可愛い小さなピンクのお弁当箱とそれより一回り大きなお花柄のお弁当箱、あと白い二段弁当と最後に一番大きな黒い二段弁当箱と取り出して炊きたてのご飯やさっき出来上がった卵焼きやおかず達を詰めていく。
私がおかずを詰めてる間に着替えた天使達が椅子に座って朝食を食べ始める。ジャムを塗ったり牛乳を注いだりという世話を隆君がしてくれてるので私はお弁当と水筒の用意に専念して準備が終わる。
ついてたテレビのニュースが朝の7時過ぎをアナウンスし始めた頃バタバタと最後に一人、このお家の家主が起き上がって飛び出てくる。
「やばいやばいやばい、寝過ごした!!!」
大急ぎで洗面所に行ったと思ったらすぐに戻って来て部屋に入ったと思ったらまたすぐ着替えた姿で顔を出す。なかなかの早業に私も少し驚く。
椅子に座ってもらってパンを食べてもらえばその間に私が髪を結い上げる。もぐもぐしながら必死に喋ろうとする家主に苦笑いするがこれまた早食いの域でパンとヨーグルトを平らげたらルナちゃんとマナちゃんと隆君の頬にキスをして玄関に急ぐ。
私は彼女の忘れ物を慌てて手提げに詰めて玄関先で手渡す。
「ありがとう(名前)ちゃん!」
ニコッと笑いながら私の頬にもキスをするおばさんに私も微笑みながら見送る。
するとそろそろ時間になったようでルナちゃんとマナちゃんがランドセルを背負って玄関に来る。
「お弁当持った?」
「持ったー!」
「水筒とハンカチは?」
「あるよー!」
「忘れ物はないね?」
「うん!」
「よし、行ってらっしゃい。気をつけてね」
「はーい!いってきまーす!」
仲良く二人で手を繋いで出ていくのを見送る。
さて、最後は彼なんだけど…そう思いながら振り返るが彼はまだ玄関には来ていなかった。
リビングにいけば椅子に座ってパンをもぐもぐしながら牛乳を飲む隆君の姿。
私は向いに座ってコップに注いだ水を飲む。
「遅刻しない?」
「まだ平気。」
「でもここから学校までだともうギリギリでしょ?」
「バイクで行くから。」
「こら」
「冗談だよ、時間が平気なのは本当。」
「サボっちゃ駄目だよ。」
「分かってるよ」
ホントかなぁ、なんて思いながら彼のもぐもぐと動く頬を眺める。
「………見すぎ」
耳を赤くしながらこちらに訴える隆君を可愛く思いながらからかうと話を逸らすように私の方に話を振る。
「(名前)さんは時間平気なの?」
「んー?私今日は講義午後からだから。」
「そうじゃなくて…」
何か言いたそうに少し口籠る隆君。
何が言いたいのか、彼が私に向ける感情とかを知ってるから、私は素直に応える。
「別れた。」
「え、」
「私の事マザコンって言って来たから別れた。」
「(名前)さんは確かにマザコンだけど…」
少し嬉しそうに、でもそれを必死に隠すように隆君は言う。そんな彼が可愛くて、可愛いの延長線に少し愛おしく思う。
できるだけ真摯に対応してるつもりだし、彼の恋心を弄ぶ気は私には無い。
だからこうして恋人の話も素直にする。
小さい頃、彼が器用に作ったシロツメクサの指輪は私にとって宝物だ。今でも押し花にして栞として持ち歩くくらいには。まぁその事を隆君は知らないんだけど。
でもやっぱり人間には“年齢”と言うものがある。
彼からの気持ちが本気なのも知ってる、だけどそれでも私は20で彼は15。
彼と好いた腫れたの恋をするには私は対象外。
中学生にでもなれば同級生の子に目が向くかと思ったけど意外とそうも行かなくて驚いてるのも事実だけど、あと数年…それこそ高校とか大学に行けば私なんて“初恋のお姉さん”になれる。
だから私は彼の気持ちに気づいてる事を隠さないし、そのことに言及しない。
私はあくまでも、“古い付き合いの近所のお姉さん”で居るし、それを辞める気はない。
この間その事を柚葉ちゃんに話したら「(名前)ちゃんは残酷だ」って言われたけど、これは私なりの誠意なんだよ。って言ったら「不器用な二人だね。」って会話したのはつい最近の事。
「なら今、フリーなんだよね」
「“今は”ね」
「それじゃあ、今度の夏祭り一緒に行こう」
「武蔵神社の?」
「うん、」
だめ…?と捨てられそうな仔犬のように見つめてくる隆君は少し卑怯だと思った。多分無意識なんだろうけど。
ここで断るべきだと頭では分かってる。下手な期待はさせるべきじゃない、簡単なこと。「予定があるから。」って言えばいい、んだけど…………
ちらりと隆君をみたら凄く寂しそうにこちらを伺う顔。
視線を下げて左右に揺らす。
「………っ、八戒と柚葉も呼ぶから。デートじゃ、ないから。」
必死に繕うように付け足した言葉に私は折れるしかなかった。
「分かった。いいよ、」
その言葉に分かりやすく顔を明るくする隆君。
ハッとして首を振りながら何でもないような表情を取り繕うけど何ともわかりやすい。
「それじゃあ、神社前に18時で」
「分かった。ってそれより隆君、時間。」
「え、あ、あー…」
「今週遅刻しなかったら浴衣着て行ってあげる。」
「まじで!!」
ガタッと立ち上がって食い気味に顔を近づけてくる隆君に少し後ずさりながら頷く、そんなに食いつく要素か?
そう思ったけど隆君からしたらそこそこのやる気には繋がるらしくバタバタと鞄にお弁当と水筒を詰めたら家を飛び出した。
「行ってくる!」
「はいはい、行ってらっしゃい。」
彼を見送ってリビングを片付けて台所も綺麗にしたら私も預かってる鍵でこの家を出る。
鍵を閉めて玄関扉に付いてるポストに鍵を投函したら私も自分の家へと帰る。
………浴衣、風通しさせとかないといけないかなぁ。と思いながら私はジリジリと暑い太陽の下を歩いた。
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