死神の眼を持つ少女
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校門の前で、そびえ立つ校舎を見上げる。銀魂高校、それが今日から通う新しい学校の名前だ。
世間からの評判があまりよろしくないおかげで、いわく付きの自分でも快く迎え入れてくれた。最悪、お金のかかる通信制に転入することも覚悟していたので本当に感謝でしかない。
突然の転校だったから新しい制服が間に合っておらず、以前の学校のものを着て廊下を渡る。
まだSHRが開始されていないので、ちらほらと生徒達が通り過ぎるが、自分に視線が集まっていることに内心で溜め息を吐いた。
(よりによってセーラー服と学ラン…そりゃ浮くよね)
グレーのブレザーに結ばれた赤い紐リボン、チェックのスカートといった格好は、とても悪目立ちしていた。
事前に渡された校舎の案内図を見下ろし、職員室の場所を辿りながら歩いていると、突然壁のような大きい身体とぶつかった。
後ろに倒れそうになるものの寸前で踏み止まる。少し煙草の匂いがして、顔をくしゃりと顰めた。
「おいおい転校生ちゃん、ながら歩きは校則違反だぜ?おっかねー風紀委員にしょっぴかれっから気ィ付けろよー」
気怠げな声が降ってきて、顔を上げる。
目の前に立っていたのは、無機質な目をした白髪の男性だった。
「誰が、まるで半額以下の値引きシールが貼られた鮮度の悪い魚のような目をした男だコノヤロォォーー!」
(そこまでは言ってないけど!?)
すぐに頭を下げて謝罪したが、ぐわっと眼球をむき出しにしてガン付けられた。
「あと銀さんの髪は白髪じゃねーから!宵闇に輝く月!白銀!シルバー!はい、リピートアフターミー!」
唾が飛びそうなくらい一気に捲し立てられて、その勢いに圧倒された私は男の言う通りに復唱した。
「よ、宵闇に輝く月、白銀、シルバー」
「はい、よく出来ましたー」
きっと、街中でチンピラに絡まれた時の心情はこんな気持ちなんだろう。
ぐりぐりと無遠慮に頭を撫でられながら、そんなことを思った。
「あー、俺は坂田銀八。お前の担任だ、よろしくどーぞー」
その一言により、これからの学校生活が一瞬にして不安に駆られる。…嘘だ、煙草臭いチンピラが担任だなんて、しかもこの人は、
【7分後、毒死】
これからすぐに死んでしまう運命なのに。
呆然と見上げている私を気にすることなく、坂田先生は緩慢な動きで踵を返す。
「んじゃ、そろそろSHRも始まることだし、このまま教室に向かうぞ。おら、ついてこいピクミン」
「…ピクミンじゃなくて佐倉です」
歩く度にふわりと揺れるわたあめみたいな頭の上には、やはり何度視ても毒死の文字が浮かんでいた。
物心ついた時から、私の視界は人には視えないものが見えてしまう。幽霊などのオカルトチックなものではなく、他人の頭上に文字が視えるのだ。
それが意味することに気付いたのは、5歳の時だ。両親の頭の上に【1時間後、事故死】という文字が見え、現実でその通りのことが起きてしまった。交通事故だった。
もし、過去に戻れるのなら両親を失ったあの日に戻ってやり直したい。もう少し早く文字の意味に気付いていれば、と今でも後悔していた。
3年Z組の札が設置された教室の前に足を止めた坂田先生は、くるりと振り返る。
「ま、そんなガチガチに構えんなよ。お前もすぐに馴染むさ」
顔が強張っている私に緊張していると思ったのか安心させるように、ぽんと頭を撫でられた。
(違う違う、そうじゃ、そうじゃない)
【5分後、毒死】
死のカウントダウンが始まっているなど知る由もなく、坂田先生は引き戸をスライドして中へ入っていく。
名前が呼ばれるまで教室の外で待機と言われていたが、そわそわと腕時計の針を食い入るように見詰めた。
そもそも毒死ってどういうことだ。
何かを口にしたり直接毒を体内へ注入することで死ぬのなら、普通に考えれば食べ物に毒が混入されたパターンが多いけれど。
(見た感じでは特に異変はなかった。まだ毒を摂取してないのかも)
残り1分を切ったところで、教室がざわりと騒がしくなる。
「……どうしよう」
助けるべきか否か。でも、今回もあの時みたいなことが起きたら。たくさんの冷たい眼差しが、いつまでも脳裏にこびりついて離れない。
また誰も信じてくれないんだろう。それでも、私は、
(救える命を見殺しにはしたくない…!)
バン、と勢い良く教室の引き戸を開け放った。
すると、モザイクがかけられた禍々しい塊が直線的に力強い軌道を描き、坂田先生へと飛んでいくのが見えた。
スローモーションのように迫ってくる暗黒物質に、先生は大きく口を開けて絶叫する。きっと毒の正体はこの塊だ。
「…あぶないッ!」
横から突進するように先生の身体に体当たりし、そのまま巻き込む形で横倒しになる。
二人で盛大に転がると、少し離れた場所に毒の塊が床へぶちまけられた。
意識を失い、パチパチと星を飛ばしている坂田先生の頭上に目を滑らせる。
【XXXX】
その文字に、ほっと安堵の息を吐いた。
この表記は寿命が尽きるまでに、まだまだ時間があることを意味している。良かった、毒死を回避し生き延びることが出来たのだ。
私の下敷きになっている先生から離れて、立ち上がると声をかけられた。
「あら。ひょっとして貴女、転校生さんかしら?」
綺麗な顔立ちをした女の子が首を傾げ、結ばれた髪がぴょこんと揺れる。
「は、はい、今日からこのクラスの一員になる佐倉楓香です」
「タメなんだから敬語はよして。私は志村妙、よろしくね」
ふふっと笑みを零す彼女は聖母の如く人畜無害そうだが、その握っているものにはモザイクがかかっていた。
「こ、こちらこそよろしくね。ところで、あの、それ…」
志村さんが手にしているグロテスクなブツが気になって自己紹介どころではない。
悪臭放つその塊に、恐る恐る指をさして尋ねる。
「これは今朝作ったお妙特製爆弾おにぎりよ。先生に味見してもらおうと思って投げ付けたの」
味見ではなく毒味の間違いじゃないだろうか。とてもおにぎりには見えないし、それは正しく悪魔の兵器だった。
「はいはーい!お妙さん、先生ばかりズルい!俺にも愛妻おにぎり欲しい!」
何故か教室にゴリラが居た。しかも人語を喋って、行儀よく席に着いている。
気のせいかと目を擦るが、やっぱりゴリラだ。
そして、そのゴリラの頭上には文字が浮かんでいた。
【5秒後、毒死】
隣に立っていた志村さんが片足を上げ、ブツを手にした腕を大きく回した。
(まずい、このままだとゴリラがヤられる!)
投球フォームに入った彼女の腰に慌ててしがみつく。
「もうやめましょうよ!動物虐待です!命がも゛ったいだいっ!」
泣きついて止めに入ると、「あらあら」と困った笑みが返ってきた。
「そうですよ姉上!前科者になった姉上の姿なんて僕は見たくない!」
【1分後、粉微塵】
眼鏡をかけた真面目そうな男子生徒が、私と同じく志村さんを止めに入る。が、彼の頭上…ではなく何故か眼鏡の上に文字が浮かんでいた。
これは眼鏡の寿命ということ?もしかして彼の本体は眼鏡なの?
「近藤さん悪いことは言わねェ。そのダークマターは止めておけ」
V字型の前髪をした男子が静かに席を立ち、ゴリラの肩を叩く。
「代わりに、これやるよ。焼きそばパン土方スペシャルだ」
「いや、トシ…それもはや焼きそばパンじゃないからね?黄色い奴だからね!?」
【5秒後、マヨ死】
ゴリラの死因が新たに上書きされた。えっ、マヨ死って何なの初めて視るんだけど!?
拒むゴリラの口に黄色い物体を強引に押し込む男子に向かって、一人の生徒がバズーカ砲を構えた。いや、それ何処から出したの?
「おい土方コラ、近藤さんに犬のエサ食わせんな死ね」
【5秒後、爆死】
土方と呼ばれた男子の死因が更新された。本人はゴリラをマヨ責めするのに夢中で気が付いていない。
「おいサド野郎、こんなところでバズーカぶっ放したら全員煤まみれになるダロ。行け定春、アイツの息の根を止めるネ」
これまた何処から現れたのか規格外の大きな白犬が、栗色の髪をした男子へと飛びつく。
【5秒後、出血死】
ぽんぽんと目まぐるしく更新されていく死因に血の気が引いた。何なんだ、このクラスは。
今日は皆にちょっと殺し合いをしてもらいます、と告げられ無人島で最後の一人になるまで戦う例のゲームのようだ。
意識が戻った坂田先生が「まーたカオス極まってるよこれ」と鼻をほじっている。
私は頬を引き攣らせながら挙手した。
「あのー…すみません、此処はデスゲーム会場ですか?」
転校先、チェンジで。
世間からの評判があまりよろしくないおかげで、いわく付きの自分でも快く迎え入れてくれた。最悪、お金のかかる通信制に転入することも覚悟していたので本当に感謝でしかない。
突然の転校だったから新しい制服が間に合っておらず、以前の学校のものを着て廊下を渡る。
まだSHRが開始されていないので、ちらほらと生徒達が通り過ぎるが、自分に視線が集まっていることに内心で溜め息を吐いた。
(よりによってセーラー服と学ラン…そりゃ浮くよね)
グレーのブレザーに結ばれた赤い紐リボン、チェックのスカートといった格好は、とても悪目立ちしていた。
事前に渡された校舎の案内図を見下ろし、職員室の場所を辿りながら歩いていると、突然壁のような大きい身体とぶつかった。
後ろに倒れそうになるものの寸前で踏み止まる。少し煙草の匂いがして、顔をくしゃりと顰めた。
「おいおい転校生ちゃん、ながら歩きは校則違反だぜ?おっかねー風紀委員にしょっぴかれっから気ィ付けろよー」
気怠げな声が降ってきて、顔を上げる。
目の前に立っていたのは、無機質な目をした白髪の男性だった。
「誰が、まるで半額以下の値引きシールが貼られた鮮度の悪い魚のような目をした男だコノヤロォォーー!」
(そこまでは言ってないけど!?)
すぐに頭を下げて謝罪したが、ぐわっと眼球をむき出しにしてガン付けられた。
「あと銀さんの髪は白髪じゃねーから!宵闇に輝く月!白銀!シルバー!はい、リピートアフターミー!」
唾が飛びそうなくらい一気に捲し立てられて、その勢いに圧倒された私は男の言う通りに復唱した。
「よ、宵闇に輝く月、白銀、シルバー」
「はい、よく出来ましたー」
きっと、街中でチンピラに絡まれた時の心情はこんな気持ちなんだろう。
ぐりぐりと無遠慮に頭を撫でられながら、そんなことを思った。
「あー、俺は坂田銀八。お前の担任だ、よろしくどーぞー」
その一言により、これからの学校生活が一瞬にして不安に駆られる。…嘘だ、煙草臭いチンピラが担任だなんて、しかもこの人は、
【7分後、毒死】
これからすぐに死んでしまう運命なのに。
呆然と見上げている私を気にすることなく、坂田先生は緩慢な動きで踵を返す。
「んじゃ、そろそろSHRも始まることだし、このまま教室に向かうぞ。おら、ついてこいピクミン」
「…ピクミンじゃなくて佐倉です」
歩く度にふわりと揺れるわたあめみたいな頭の上には、やはり何度視ても毒死の文字が浮かんでいた。
物心ついた時から、私の視界は人には視えないものが見えてしまう。幽霊などのオカルトチックなものではなく、他人の頭上に文字が視えるのだ。
それが意味することに気付いたのは、5歳の時だ。両親の頭の上に【1時間後、事故死】という文字が見え、現実でその通りのことが起きてしまった。交通事故だった。
もし、過去に戻れるのなら両親を失ったあの日に戻ってやり直したい。もう少し早く文字の意味に気付いていれば、と今でも後悔していた。
3年Z組の札が設置された教室の前に足を止めた坂田先生は、くるりと振り返る。
「ま、そんなガチガチに構えんなよ。お前もすぐに馴染むさ」
顔が強張っている私に緊張していると思ったのか安心させるように、ぽんと頭を撫でられた。
(違う違う、そうじゃ、そうじゃない)
【5分後、毒死】
死のカウントダウンが始まっているなど知る由もなく、坂田先生は引き戸をスライドして中へ入っていく。
名前が呼ばれるまで教室の外で待機と言われていたが、そわそわと腕時計の針を食い入るように見詰めた。
そもそも毒死ってどういうことだ。
何かを口にしたり直接毒を体内へ注入することで死ぬのなら、普通に考えれば食べ物に毒が混入されたパターンが多いけれど。
(見た感じでは特に異変はなかった。まだ毒を摂取してないのかも)
残り1分を切ったところで、教室がざわりと騒がしくなる。
「……どうしよう」
助けるべきか否か。でも、今回もあの時みたいなことが起きたら。たくさんの冷たい眼差しが、いつまでも脳裏にこびりついて離れない。
また誰も信じてくれないんだろう。それでも、私は、
(救える命を見殺しにはしたくない…!)
バン、と勢い良く教室の引き戸を開け放った。
すると、モザイクがかけられた禍々しい塊が直線的に力強い軌道を描き、坂田先生へと飛んでいくのが見えた。
スローモーションのように迫ってくる暗黒物質に、先生は大きく口を開けて絶叫する。きっと毒の正体はこの塊だ。
「…あぶないッ!」
横から突進するように先生の身体に体当たりし、そのまま巻き込む形で横倒しになる。
二人で盛大に転がると、少し離れた場所に毒の塊が床へぶちまけられた。
意識を失い、パチパチと星を飛ばしている坂田先生の頭上に目を滑らせる。
【XXXX】
その文字に、ほっと安堵の息を吐いた。
この表記は寿命が尽きるまでに、まだまだ時間があることを意味している。良かった、毒死を回避し生き延びることが出来たのだ。
私の下敷きになっている先生から離れて、立ち上がると声をかけられた。
「あら。ひょっとして貴女、転校生さんかしら?」
綺麗な顔立ちをした女の子が首を傾げ、結ばれた髪がぴょこんと揺れる。
「は、はい、今日からこのクラスの一員になる佐倉楓香です」
「タメなんだから敬語はよして。私は志村妙、よろしくね」
ふふっと笑みを零す彼女は聖母の如く人畜無害そうだが、その握っているものにはモザイクがかかっていた。
「こ、こちらこそよろしくね。ところで、あの、それ…」
志村さんが手にしているグロテスクなブツが気になって自己紹介どころではない。
悪臭放つその塊に、恐る恐る指をさして尋ねる。
「これは今朝作ったお妙特製爆弾おにぎりよ。先生に味見してもらおうと思って投げ付けたの」
味見ではなく毒味の間違いじゃないだろうか。とてもおにぎりには見えないし、それは正しく悪魔の兵器だった。
「はいはーい!お妙さん、先生ばかりズルい!俺にも愛妻おにぎり欲しい!」
何故か教室にゴリラが居た。しかも人語を喋って、行儀よく席に着いている。
気のせいかと目を擦るが、やっぱりゴリラだ。
そして、そのゴリラの頭上には文字が浮かんでいた。
【5秒後、毒死】
隣に立っていた志村さんが片足を上げ、ブツを手にした腕を大きく回した。
(まずい、このままだとゴリラがヤられる!)
投球フォームに入った彼女の腰に慌ててしがみつく。
「もうやめましょうよ!動物虐待です!命がも゛ったいだいっ!」
泣きついて止めに入ると、「あらあら」と困った笑みが返ってきた。
「そうですよ姉上!前科者になった姉上の姿なんて僕は見たくない!」
【1分後、粉微塵】
眼鏡をかけた真面目そうな男子生徒が、私と同じく志村さんを止めに入る。が、彼の頭上…ではなく何故か眼鏡の上に文字が浮かんでいた。
これは眼鏡の寿命ということ?もしかして彼の本体は眼鏡なの?
「近藤さん悪いことは言わねェ。そのダークマターは止めておけ」
V字型の前髪をした男子が静かに席を立ち、ゴリラの肩を叩く。
「代わりに、これやるよ。焼きそばパン土方スペシャルだ」
「いや、トシ…それもはや焼きそばパンじゃないからね?黄色い奴だからね!?」
【5秒後、マヨ死】
ゴリラの死因が新たに上書きされた。えっ、マヨ死って何なの初めて視るんだけど!?
拒むゴリラの口に黄色い物体を強引に押し込む男子に向かって、一人の生徒がバズーカ砲を構えた。いや、それ何処から出したの?
「おい土方コラ、近藤さんに犬のエサ食わせんな死ね」
【5秒後、爆死】
土方と呼ばれた男子の死因が更新された。本人はゴリラをマヨ責めするのに夢中で気が付いていない。
「おいサド野郎、こんなところでバズーカぶっ放したら全員煤まみれになるダロ。行け定春、アイツの息の根を止めるネ」
これまた何処から現れたのか規格外の大きな白犬が、栗色の髪をした男子へと飛びつく。
【5秒後、出血死】
ぽんぽんと目まぐるしく更新されていく死因に血の気が引いた。何なんだ、このクラスは。
今日は皆にちょっと殺し合いをしてもらいます、と告げられ無人島で最後の一人になるまで戦う例のゲームのようだ。
意識が戻った坂田先生が「まーたカオス極まってるよこれ」と鼻をほじっている。
私は頬を引き攣らせながら挙手した。
「あのー…すみません、此処はデスゲーム会場ですか?」
転校先、チェンジで。
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