泡沫トワイライト
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瞬きを繰り返したり、深呼吸をしようとも、そこにあるものは同じだった。朝、目が覚めたら隣で恋人が寝ていた。彼女が同じベッドに居るというのはあり得ない、ならばこれは夢か。
だとすると随分と都合の良い、沢田の願望がそのまま夢に現れたとしか思えなかった。
動揺のあまり壁に背中を打ち付けてしまい、痛む腰を擦る。すると、沢田の声が煩わしかったのか、それとも少し捲れたタオルケットによって肌寒くなったのか。寝転んでいる楓香がシーツの上でもそもそと動く。
夢にしてはやけに鮮明で、随分と意識がはっきりしている。腰に痛みを感じることから、もしかするとこれは現実なのではないか。
無意識に喉仏が上下すると、心臓もドキリと動いた。
何故彼女が共寝しているのか謎だが、もうそんなことはどうでも良い。沢田は仕切り直すように深呼吸をした。依然起きる気配は感じられず、一定の寝息だけが聞こえてくる。
起こさないようにそっと身を屈めて、楓香を見下ろした。
幼さの残るあどけない寝顔はとても無防備だ。こんな姿を独り占め出来ることが嬉しくて自然と顔が綻ぶ。
「かわいい」
愛おしげに頬を指で撫でると、ゆっくり楓香に覆い被さり顔を近付ける。
あと数センチで唇が触れるか、というところだった。
「寝込みを襲うのはどうかと思うぞ」
不意に聞こえた声に一瞬動きを止める。我に返った沢田は勢い良く身体を起こし、再び壁に背中をぶつけた。
その声の主はハンモックに揺られ、小さな鼻ちょうちんを膨らませていた。すぴー、と規則正しい寝息を立てて眠っている。
「な、なーんだ寝言か」
ぐったりと脱力した沢田は気を取り直すと、楓香の方へ顔を寄せる。頬に手を添えれば鼓動が高鳴った。僅かに開いた唇へ吸い込まれそうになった時、また上から声が降ってきた。
「やーいツナのムッツリスケベ」
「やっぱり起きてたのかよッ!」
リボーンは口角をニッと上げると「その度胸を普段も発揮出来たら良いんだが」とハンモックから手馴れた素振りで飛び降りた。余計なお世話だと言い返したくなるが、その正論にぐうの音も出なかった。
「昨夜、お前がぐーすか眠っている間にナッツが楓香を乗せて連れて来たんだぞ」
「えっ、どうしてナッツが?」
「それは知らねー。当の本人はぐっすり寝ていたから事情を聞けずじまいだ」
匣兵器のナッツは所有者の意思に反して動き回ることがあるが、信頼関係を築いているので沢田は叱ることなく自由にさせていた。
「所有者に似て楓香にベッタリだな」
「うっ、うるさい。仕方ないだろ、好きな子が隣で寝ているんだから。しかもこんな可愛い楓香ちゃんを前にしたら、」
「ちゅーしたくなる、か」
「勝手に読心術使うなよ!」
彼女の懐には、体を丸めた小さなライオンが寝そべっている。その尻尾を楓香の腕に巻き付け、ゴロゴロと喉を鳴らすのを沢田は羨ましく思いながらも「(ありがとう神様仏様ナッツ様!)」と心の中で何度も感謝を告げた。
しかし、ニタニタと意地の悪い笑みを隠そうともしない家庭教師の前で所謂恋人同士の戯れなんてする気にはなれず、沢田は彼女が目を覚ます前に着替えることにした。脱いだスエットをその辺に置いて制服のシャツを手に取ると、背後で動く気配を感じる。
「わっ!?」
振り返ろうとしたが、ふわりと甘い匂いが鼻腔を掠めると背中にぴったり温もりがくっついた。
「……つなよしくん」
耳元で囁かれた辿々しく掠れた声は、沢田の思考を停止させるには充分だった。
「ふ、楓香ちゃん?」
名前を呼べば、ぎゅうっと縋り付くように抱き着かれる。「ぐえっ」と情けない声を上げた沢田の肩に顔を埋め、楓香はぐりぐりと額を擦り付けた。
「どうしたの、怖い夢でも見た?」
話しかけても返事はなく、少しの間楓香にされるがままだった沢田はお腹に回されている両手を上から握り締める。
「俺、知ってるよ。寝起きの楓香ちゃんは赤ちゃんになっちゃうんだよね」
「……」
「よしよし、まだ眠いよね。もうちょっとだけ寝よう」
次第に楓香の手から力が抜けて、こてんと沢田の肩に頭を預けた。にへらと締まりのない顔をしている自覚はある。その重たくなった身体をベッドに寝かせた沢田は、彼女の髪を優しく撫でる。起きたナッツが楓香のまろやかな頬をペロペロと舐めていた。
「朝っぱらから惚気けやがって」
胸焼けしそうだ、と二人とおまけに一匹の世界に浸る沢田達を呆れた目をしながら見守っていたリボーンだったが、何かに気付きピクリと片眉を上げた。
コンコンと部屋のドアがノックされる。廊下に立っているのは、お玉を片手に持った奈々だった。
「ツっ君、朝ご飯出来たから下に降りてらっしゃい。もう獄寺君が玄関で待ってるわよー…ん?何だか静かだけど、ちゃんと起きてるの?ツっ君、ドア開けるわよ」
「待って、今着替えてる途中だから!部屋に入って来ないで!」
甘く穏やかな空気に包まれた室内が一瞬にして凍り付いた。
楓香が居ることを奈々に知られたら色々と不味い。顔面蒼白の沢田は呑気に寝ている恋人を抱き寄せると、タオルケットで身を隠した。
「早くしなさいねー」
幸いにもドアが開けられることはなく、奈々の足音が遠くなっていく。一階に下りたのを耳を澄まして確認した沢田は溜め息を吐いた。
「はぁー、危なかった」
「楓香と恋人になったこと、ママンにはまだ言ってねーのか」
「うん。母さんに伝えたら嫌でも父さんの耳に入るし、そうなったら絶対面倒なことになるのは分かり切ってるから。…いずれは紹介しようと考えているけど」
「なんたって未来のドン・ボンゴレの恋人だからな。そこら辺のペーペー共とは訳が違う」
「だから俺はボスになんかならないってば」
耳に届いた訴えは聞こえていない振りをして、リボーンは部屋を後にした。どんなに否定しても、この家庭教師は聞く耳を持とうとしない。
また溜め息を吐いていれば、何の前触れもなく強い視線を感じた。下を向くと、淡い陽光に照らされた沢田の顔を捉える二つの瞳があった。
「……つ、なよしくん?」
それは動転としていて、まだ起きていない声帯を振るわせ、どうにか喉を通したようなか細い声だった。
シーツに沈んだ楓香の髪は乱れ、無造作に散らばっている。艶やかな黒を耳にかけると、露わになった耳朶を指の腹で優しくなぞって撫でた。
「おはよう、楓香ちゃん」
丸くなった目はゆらゆらと揺れていて、今の状況を把握出来ていないらしい。その様子から、彼女の意思とは関係なくナッツに連れて来られたのが見て取れた。戸惑いがありありと伝わり、つい笑みが零れた。
朝を告げる沢田の声はゆっくりと楓香の鼓膜に届き、そして溶けていく。見詰め合ったまま、少しの沈黙が流れた。楓香は表情も手も動かすことが出来ず固まった。
目が覚めると何故か沢田が覆い被さっていて、顔の横に両肘をつき此方を覗き込んでいた。視界が、頭の中が彼で占められる。熱い眼差しが絡みついて全身が動かない。その視線だけで囚われているみたいだった。
「これはゆめですか」
「ううん、現実です」
「なるほど、ゆめか」
顔に触れる沢田の指は温かくて、むにむにと頬を抓られる。普通に痛い。一向に夢から覚める気配もない。ということは目の前に居る彼は紛れもなく本物で、六道が見せたマヤカシでもない。夢のような現実であった。
「楓香ちゃんは夢の方が良いの?」
「だって、ゆめならいくらでもくっつけるから」
「…現実でもくっついてよ」
「む、むり、はずかしい」
何とかして顔を背ける楓香だが、沢田は即座に赤く染まった耳朶へ唇を寄せて「無理じゃない」と囁く。
「俺もこういうの慣れてないから恥ずかしいし照れるけどさ。そんなこと気にならないくらい、楓香ちゃんに甘えられたい、たくさん構いたい気持ちでいっぱいなんだ」
切実な声音にそっと横目で窺えば、橙と視線が交わった。彼の瞳の奥にはじんわりとした熱が潜んでいる。
通常ならば沢田に愛されているという幸福感に心が満たされているが、今はそれどころじゃなかった。先程から視界にちらつく胸板に意識が持っていかれそうになる。目線を下に辿れば綺麗に割れた腹筋が見え、眠気が一気にすっ飛んだ。
「わ、分かったから、取り敢えず服を着て。綱吉君ってパンイチで寝るタイプなの!?」
そこでようやく沢田は自分が着替えの途中であることに気付く。今までこの格好で会話をしていたのか、と自覚し一拍遅れて猛烈な羞恥心に襲われた。
「うわあーーッ!ごめん!(何やってんだよ俺!カッコ悪!)」
慌てた沢田が楓香の上から身体を退けようとした瞬間、ノックも何もなくドアが開かれた。
「おっはよーございます!じゅう、だい…」
出し抜けに現れた獄寺は、予想だにしなかった光景に言葉を失う。まじまじと部屋の奥を凝視すると、あんぐりと口を開く。敬愛している沢田が半裸の姿になって、楓香を組み敷いている。雷に打たれたような衝撃を受け、獄寺は言葉を発するのも忘れて立ち竦む。
そして、刻まれた眉間の皴がぐにゃりと歪んだ。
「……んのドロボー女ッ!!」
くわっと目をいからし、楓香を睨み据えた。般若の形相をした獄寺が大きな足音を立てて迫り来るので、ベッドから飛び出した沢田が止めに入る。
「おっ、落ち着いて獄寺君!」
「十代目退いて下さい、ソイツ消せません!ドロボー女から盗まれた貴方のお心、俺が必ず取り戻してみせます!」
「違うんだ、誤解だよ!俺と楓香ちゃんは恋人同士なんだってば!」
「分かっています!十代目はハニトラに騙されているんですよね!」
「頼むから人の話を聞いてくれーーッ!」
じたばたともがく獄寺を羽交い締めし、なるべく楓香から引き離した沢田はオロオロとしているナッツを呼ぶ。
「楓香ちゃんを乗せて逃げるんだ!」
「ガウ!」
二階のベランダに置いてあった楓香の靴を咥え、成獣の大きさに変化したナッツは呆ける彼女の足にグイグイと頭を押し付ける。楓香は流れされるままナッツの背に乗った。
「このライオンもどき、綱吉君のところで飼ってる子だったの?」
「うん、ナッツって言うんだ。昨日の夜、勝手に連れて来ちゃったみたいで迷惑かけてごめん!また学校で会おう!」
「待ちやがれドロボー女ッ!」
膨れ上がった殺気が楓香に突き刺さるが、ナッツがベランダから飛び立つと次第に感じなくなった。
(…ついにバレてしまった)
恐ろしさのあまり獄寺の方を一切見ないようにしていたが、次回ばったり会おうものなら確実に消されるだろう。沢田の説得が上手くいくことを切に願った。
ナッツに自宅までの道案内をしている楓香の背後からピョコンと小さな顔が覗いた。
「ちゃおっス、楓香。散々な朝だったな」
「り、リボーン君!?」
腰にしがみつく幼児は傍から見てコアラのようだ。
「お前に聞きたいことがある」
ナッツが楓香を連れて来た夜、監視役の記憶がまた欠如していた。彼女が家を出て橋を渡った瞬間から記憶が曖昧になり、唯一覚えていたのは―――。
「どうして橋から飛び降りようとしたんだ?」
ぎくりとその小柄な身が強ばる。酷く緊張している様子で「何のことかな」としらを切った。そう簡単には吐かないか、とリボーンは言葉を続ける。
「ツナはそんなに頼りないか」
数秒間の沈黙の末に楓香は首を横に振った。
「ううん。これは私の問題だから、綱吉君は関係ないの」
何かあったのは確実だが、それを押し隠して気丈に振る舞う楓香にこれ以上踏み込むのは沢田自身が良しとしないだろう。ナッツに聞いても口止めをされているらしく、頑なに教えてくれなかった。主そっくりの子ライオンは楓香の味方についたようだ。
一抹の不安が残るが、リボーンはこの件に関して追求するのを止めた。
「昨夜のことだが、ツナには黙っておいてやる。もし知ったらすげー怒るだろうからな。もう二度と馬鹿な真似はすんなよ。アイツ、本気で切れたらヤバいんだぞ」
ありがとう、と呟いた楓香の表情は窺えなかったが、俯いたその顔は憂悶と苦悩で揺れている気がした。
ナッツ達に送迎してもらった楓香はすぐに身支度を済ますと、家を出た。朝食の菓子パンを食べながら、結衣と肩を並べて登校する。
「山本君が試合に出れないのは残念だけど、生きてさえいればまた来年挑戦出来るんだし、本当に無事で良かったわ」
「…そうだね」
「どうしたの、そんな浮かない顔して」
胸元にぶら下げた指輪は、もう何の意味も成さないガラクタとなっていた。
消失の力のことは誰にも話さず秘密にして欲しいと山本に頼んだのは良いものの、どうしてリボーンが昨夜のことを知っているのか疑問だった。
何処かで目撃されていたのだろうか。ただ、異能の存在が気付かれなかったのは幸いであった。
一連の出来事を思い返せば、己の無力さに打ちひしがれてしまい、自然と口角が下がる。
「ううん、何でもない。気にしないで」
そのぎこちない笑みを目にした結衣は、鼓舞するように友人の肩を叩く。
「下手くそ」
「えっ」
「そんな顔してると、愛しの沢田が心配するわよ」
「……あ、」
数十分前にたっぷりと浴びた怒声が脳内に響く。猛犬注意の看板が見えた気がする程の獄寺の暴れっぷりに、楓香は遠い目をした。
「綱吉君と付き合ってること姑にバレてしまったんだけど、どうしよう」
「私、アンタのこと一生忘れない」
「勝手に殺すな」
南無阿弥陀仏やアーメンなど唱え神妙な面持ちで十字を切るので、楓香の頬がひくりと引き攣った。
沈んだ気持ちのまま学校に到着し、教室の戸を開ければ、そこには犬ではなく鬼が待ち構えていた。無言で此方を見下ろし、クイッと顎を動かすと廊下の先を示した。ついて来い、ということらしい。
大人しくドナドナされて向かった先は屋上だった。心配して後を追った沢田は、獄寺から楓香を庇うように前へ出た。
「俺と楓香ちゃんが付き合ってること、今まで黙ってたのは謝るよ、本当にごめんなさい。でも誤解しないで欲しいんだ。俺達はお互いに好き同士であって、騙されているとかじゃなく…」
「それは先程も十代目が話してくれたので、よく分かりました。ですが、俺は認めません!こんなぽっと出の女に、俺の大切な十代目が…!」
ぐぬぬと歯を食いしばる獄寺の目は血走っていて、理性が飛んでいた。楓香は沢田の後ろから顔を出していたが、わなわなと怒りで唇を震せている獄寺に怯え身体を隠す。
「おいドロボー女、テメェ十代目の好きなところ言ってみろ」
逃がさないとばかりに人差し指を向けられ、おずおずと顔を再び覗かせた。
「そんないきなり言われても…本人の前で言うのはちょっと恥ずかしいというか」
「はぁーん?テメェやっぱり、」
次第に怪訝な顔付きになっていくので、楓香は仕方なく声を上げる。
「わっ、分かりました言うから!優しくてちょっと抜けてるところが可愛くて好き!」
「ふん、ありきたりだな」
「えっと、ピンチの時に助けてくれるヒーローみたいなところ!」
「それだけか?」
「あとは…」
普段思っていることをありのまま言語化出来たらどんなに良いか。沢田の好きなところはたくさんあるのに、何故か今はそれを上手く言葉にすることが出来ない。もどかしくて人差し指同士をもじもじと擦り合わせていれば、獄寺が鼻で笑った。
「俺は十代目の素晴らしさを全て語るのに数日はかかるくらいたっくさん挙げられるぞ。テメェその程度で恋人なんて笑わせるぜ。本当にこのお方のことを心の底から愛しているのか?」
「…それはもちろん」
「嘘つけ、ならもっと言えるだろ」
ただ好きなところを挙げるだけなのに、どうしてこうも恥ずかしさが勝ってしまうのか。何だか公開処刑されている気分だった。それでもこの想いが伝わるように言葉を紡いだ。
「……私、あまり自分のことが好きじゃないんだけど、綱吉君が好きだという自分は嫌いじゃない。それってすごいことで、だから、そう思わせてくれる綱吉君が、…私は大好き」
楓香は目元を和らげ、穏やかな口調で言った。
「どんなに嫌なことがあっても綱吉君が傍に居てくれるだけで、前を向いて頑張れる。そんな人、初めてなんだ。まだ十数年しか生きていないけれど、きっとこの先彼以上に想える人は私には現れない。ううん、綱吉君がいい、綱吉君じゃなきゃ嫌だ」
そう言い切ると、目の前の蜂蜜がふわりと揺れ、気付けば沢田に抱き締められていた。
突然のことに驚いた楓香だが、その力強い抱擁に身動きが取れず額がくっついたかと思えばそのまま唇が重なった。手のひらに包まれた頬が熱い。
ふにゃりと沢田の目が細まる。
「ごめん、我慢出来なかった」
「ひ、人前でキスするのは禁止だって言ったのに!」
「だって楓香ちゃんがすごく可愛いこと言うから」
再びぎゅうぎゅうと楓香に抱き着いた沢田は、小さなつむじに鼻先を埋めた。
「綱吉君、恥ずかしいから離れて」
「誰かさんのせいでたくさん構いたくなっちゃったから駄目」
獄寺の存在を忘れた二人は桃色の空気を辺りに撒き散らしていた。
「…俺の前でイチャイチャすんじゃねーーッ!」
痺れを切らした獄寺は地団駄を踏み、宙を飛び交うハートを鷲掴んで彼方へと放り投げる。少しの間、悩ましそうに眉間を揉むと、分かったと口を尖らせた。やけくそに前髪を掻き上げて楓香を見据えた。
「要検討だ」
ドン!というオノマトペが獄寺の背後に現れる。
いやいやと、顔の前で手を振って楓香は抗議の声を上げた。
「今のはどう考えても認める流れでしょ!」
「はいそうですかって簡単に頷ける訳ねーだろ!検討に検討を重ねて検討だ!」
「この獄寺君の分からず屋!検討使!」
「んだとコラッ!てか、いつまでくっついてやがる!さっさと離れろ!」
SHRの始まりを告げる鐘の音が鳴るまで、屋上の喧噪は続いた。
だとすると随分と都合の良い、沢田の願望がそのまま夢に現れたとしか思えなかった。
動揺のあまり壁に背中を打ち付けてしまい、痛む腰を擦る。すると、沢田の声が煩わしかったのか、それとも少し捲れたタオルケットによって肌寒くなったのか。寝転んでいる楓香がシーツの上でもそもそと動く。
夢にしてはやけに鮮明で、随分と意識がはっきりしている。腰に痛みを感じることから、もしかするとこれは現実なのではないか。
無意識に喉仏が上下すると、心臓もドキリと動いた。
何故彼女が共寝しているのか謎だが、もうそんなことはどうでも良い。沢田は仕切り直すように深呼吸をした。依然起きる気配は感じられず、一定の寝息だけが聞こえてくる。
起こさないようにそっと身を屈めて、楓香を見下ろした。
幼さの残るあどけない寝顔はとても無防備だ。こんな姿を独り占め出来ることが嬉しくて自然と顔が綻ぶ。
「かわいい」
愛おしげに頬を指で撫でると、ゆっくり楓香に覆い被さり顔を近付ける。
あと数センチで唇が触れるか、というところだった。
「寝込みを襲うのはどうかと思うぞ」
不意に聞こえた声に一瞬動きを止める。我に返った沢田は勢い良く身体を起こし、再び壁に背中をぶつけた。
その声の主はハンモックに揺られ、小さな鼻ちょうちんを膨らませていた。すぴー、と規則正しい寝息を立てて眠っている。
「な、なーんだ寝言か」
ぐったりと脱力した沢田は気を取り直すと、楓香の方へ顔を寄せる。頬に手を添えれば鼓動が高鳴った。僅かに開いた唇へ吸い込まれそうになった時、また上から声が降ってきた。
「やーいツナのムッツリスケベ」
「やっぱり起きてたのかよッ!」
リボーンは口角をニッと上げると「その度胸を普段も発揮出来たら良いんだが」とハンモックから手馴れた素振りで飛び降りた。余計なお世話だと言い返したくなるが、その正論にぐうの音も出なかった。
「昨夜、お前がぐーすか眠っている間にナッツが楓香を乗せて連れて来たんだぞ」
「えっ、どうしてナッツが?」
「それは知らねー。当の本人はぐっすり寝ていたから事情を聞けずじまいだ」
匣兵器のナッツは所有者の意思に反して動き回ることがあるが、信頼関係を築いているので沢田は叱ることなく自由にさせていた。
「所有者に似て楓香にベッタリだな」
「うっ、うるさい。仕方ないだろ、好きな子が隣で寝ているんだから。しかもこんな可愛い楓香ちゃんを前にしたら、」
「ちゅーしたくなる、か」
「勝手に読心術使うなよ!」
彼女の懐には、体を丸めた小さなライオンが寝そべっている。その尻尾を楓香の腕に巻き付け、ゴロゴロと喉を鳴らすのを沢田は羨ましく思いながらも「(ありがとう神様仏様ナッツ様!)」と心の中で何度も感謝を告げた。
しかし、ニタニタと意地の悪い笑みを隠そうともしない家庭教師の前で所謂恋人同士の戯れなんてする気にはなれず、沢田は彼女が目を覚ます前に着替えることにした。脱いだスエットをその辺に置いて制服のシャツを手に取ると、背後で動く気配を感じる。
「わっ!?」
振り返ろうとしたが、ふわりと甘い匂いが鼻腔を掠めると背中にぴったり温もりがくっついた。
「……つなよしくん」
耳元で囁かれた辿々しく掠れた声は、沢田の思考を停止させるには充分だった。
「ふ、楓香ちゃん?」
名前を呼べば、ぎゅうっと縋り付くように抱き着かれる。「ぐえっ」と情けない声を上げた沢田の肩に顔を埋め、楓香はぐりぐりと額を擦り付けた。
「どうしたの、怖い夢でも見た?」
話しかけても返事はなく、少しの間楓香にされるがままだった沢田はお腹に回されている両手を上から握り締める。
「俺、知ってるよ。寝起きの楓香ちゃんは赤ちゃんになっちゃうんだよね」
「……」
「よしよし、まだ眠いよね。もうちょっとだけ寝よう」
次第に楓香の手から力が抜けて、こてんと沢田の肩に頭を預けた。にへらと締まりのない顔をしている自覚はある。その重たくなった身体をベッドに寝かせた沢田は、彼女の髪を優しく撫でる。起きたナッツが楓香のまろやかな頬をペロペロと舐めていた。
「朝っぱらから惚気けやがって」
胸焼けしそうだ、と二人とおまけに一匹の世界に浸る沢田達を呆れた目をしながら見守っていたリボーンだったが、何かに気付きピクリと片眉を上げた。
コンコンと部屋のドアがノックされる。廊下に立っているのは、お玉を片手に持った奈々だった。
「ツっ君、朝ご飯出来たから下に降りてらっしゃい。もう獄寺君が玄関で待ってるわよー…ん?何だか静かだけど、ちゃんと起きてるの?ツっ君、ドア開けるわよ」
「待って、今着替えてる途中だから!部屋に入って来ないで!」
甘く穏やかな空気に包まれた室内が一瞬にして凍り付いた。
楓香が居ることを奈々に知られたら色々と不味い。顔面蒼白の沢田は呑気に寝ている恋人を抱き寄せると、タオルケットで身を隠した。
「早くしなさいねー」
幸いにもドアが開けられることはなく、奈々の足音が遠くなっていく。一階に下りたのを耳を澄まして確認した沢田は溜め息を吐いた。
「はぁー、危なかった」
「楓香と恋人になったこと、ママンにはまだ言ってねーのか」
「うん。母さんに伝えたら嫌でも父さんの耳に入るし、そうなったら絶対面倒なことになるのは分かり切ってるから。…いずれは紹介しようと考えているけど」
「なんたって未来のドン・ボンゴレの恋人だからな。そこら辺のペーペー共とは訳が違う」
「だから俺はボスになんかならないってば」
耳に届いた訴えは聞こえていない振りをして、リボーンは部屋を後にした。どんなに否定しても、この家庭教師は聞く耳を持とうとしない。
また溜め息を吐いていれば、何の前触れもなく強い視線を感じた。下を向くと、淡い陽光に照らされた沢田の顔を捉える二つの瞳があった。
「……つ、なよしくん?」
それは動転としていて、まだ起きていない声帯を振るわせ、どうにか喉を通したようなか細い声だった。
シーツに沈んだ楓香の髪は乱れ、無造作に散らばっている。艶やかな黒を耳にかけると、露わになった耳朶を指の腹で優しくなぞって撫でた。
「おはよう、楓香ちゃん」
丸くなった目はゆらゆらと揺れていて、今の状況を把握出来ていないらしい。その様子から、彼女の意思とは関係なくナッツに連れて来られたのが見て取れた。戸惑いがありありと伝わり、つい笑みが零れた。
朝を告げる沢田の声はゆっくりと楓香の鼓膜に届き、そして溶けていく。見詰め合ったまま、少しの沈黙が流れた。楓香は表情も手も動かすことが出来ず固まった。
目が覚めると何故か沢田が覆い被さっていて、顔の横に両肘をつき此方を覗き込んでいた。視界が、頭の中が彼で占められる。熱い眼差しが絡みついて全身が動かない。その視線だけで囚われているみたいだった。
「これはゆめですか」
「ううん、現実です」
「なるほど、ゆめか」
顔に触れる沢田の指は温かくて、むにむにと頬を抓られる。普通に痛い。一向に夢から覚める気配もない。ということは目の前に居る彼は紛れもなく本物で、六道が見せたマヤカシでもない。夢のような現実であった。
「楓香ちゃんは夢の方が良いの?」
「だって、ゆめならいくらでもくっつけるから」
「…現実でもくっついてよ」
「む、むり、はずかしい」
何とかして顔を背ける楓香だが、沢田は即座に赤く染まった耳朶へ唇を寄せて「無理じゃない」と囁く。
「俺もこういうの慣れてないから恥ずかしいし照れるけどさ。そんなこと気にならないくらい、楓香ちゃんに甘えられたい、たくさん構いたい気持ちでいっぱいなんだ」
切実な声音にそっと横目で窺えば、橙と視線が交わった。彼の瞳の奥にはじんわりとした熱が潜んでいる。
通常ならば沢田に愛されているという幸福感に心が満たされているが、今はそれどころじゃなかった。先程から視界にちらつく胸板に意識が持っていかれそうになる。目線を下に辿れば綺麗に割れた腹筋が見え、眠気が一気にすっ飛んだ。
「わ、分かったから、取り敢えず服を着て。綱吉君ってパンイチで寝るタイプなの!?」
そこでようやく沢田は自分が着替えの途中であることに気付く。今までこの格好で会話をしていたのか、と自覚し一拍遅れて猛烈な羞恥心に襲われた。
「うわあーーッ!ごめん!(何やってんだよ俺!カッコ悪!)」
慌てた沢田が楓香の上から身体を退けようとした瞬間、ノックも何もなくドアが開かれた。
「おっはよーございます!じゅう、だい…」
出し抜けに現れた獄寺は、予想だにしなかった光景に言葉を失う。まじまじと部屋の奥を凝視すると、あんぐりと口を開く。敬愛している沢田が半裸の姿になって、楓香を組み敷いている。雷に打たれたような衝撃を受け、獄寺は言葉を発するのも忘れて立ち竦む。
そして、刻まれた眉間の皴がぐにゃりと歪んだ。
「……んのドロボー女ッ!!」
くわっと目をいからし、楓香を睨み据えた。般若の形相をした獄寺が大きな足音を立てて迫り来るので、ベッドから飛び出した沢田が止めに入る。
「おっ、落ち着いて獄寺君!」
「十代目退いて下さい、ソイツ消せません!ドロボー女から盗まれた貴方のお心、俺が必ず取り戻してみせます!」
「違うんだ、誤解だよ!俺と楓香ちゃんは恋人同士なんだってば!」
「分かっています!十代目はハニトラに騙されているんですよね!」
「頼むから人の話を聞いてくれーーッ!」
じたばたともがく獄寺を羽交い締めし、なるべく楓香から引き離した沢田はオロオロとしているナッツを呼ぶ。
「楓香ちゃんを乗せて逃げるんだ!」
「ガウ!」
二階のベランダに置いてあった楓香の靴を咥え、成獣の大きさに変化したナッツは呆ける彼女の足にグイグイと頭を押し付ける。楓香は流れされるままナッツの背に乗った。
「このライオンもどき、綱吉君のところで飼ってる子だったの?」
「うん、ナッツって言うんだ。昨日の夜、勝手に連れて来ちゃったみたいで迷惑かけてごめん!また学校で会おう!」
「待ちやがれドロボー女ッ!」
膨れ上がった殺気が楓香に突き刺さるが、ナッツがベランダから飛び立つと次第に感じなくなった。
(…ついにバレてしまった)
恐ろしさのあまり獄寺の方を一切見ないようにしていたが、次回ばったり会おうものなら確実に消されるだろう。沢田の説得が上手くいくことを切に願った。
ナッツに自宅までの道案内をしている楓香の背後からピョコンと小さな顔が覗いた。
「ちゃおっス、楓香。散々な朝だったな」
「り、リボーン君!?」
腰にしがみつく幼児は傍から見てコアラのようだ。
「お前に聞きたいことがある」
ナッツが楓香を連れて来た夜、監視役の記憶がまた欠如していた。彼女が家を出て橋を渡った瞬間から記憶が曖昧になり、唯一覚えていたのは―――。
「どうして橋から飛び降りようとしたんだ?」
ぎくりとその小柄な身が強ばる。酷く緊張している様子で「何のことかな」としらを切った。そう簡単には吐かないか、とリボーンは言葉を続ける。
「ツナはそんなに頼りないか」
数秒間の沈黙の末に楓香は首を横に振った。
「ううん。これは私の問題だから、綱吉君は関係ないの」
何かあったのは確実だが、それを押し隠して気丈に振る舞う楓香にこれ以上踏み込むのは沢田自身が良しとしないだろう。ナッツに聞いても口止めをされているらしく、頑なに教えてくれなかった。主そっくりの子ライオンは楓香の味方についたようだ。
一抹の不安が残るが、リボーンはこの件に関して追求するのを止めた。
「昨夜のことだが、ツナには黙っておいてやる。もし知ったらすげー怒るだろうからな。もう二度と馬鹿な真似はすんなよ。アイツ、本気で切れたらヤバいんだぞ」
ありがとう、と呟いた楓香の表情は窺えなかったが、俯いたその顔は憂悶と苦悩で揺れている気がした。
ナッツ達に送迎してもらった楓香はすぐに身支度を済ますと、家を出た。朝食の菓子パンを食べながら、結衣と肩を並べて登校する。
「山本君が試合に出れないのは残念だけど、生きてさえいればまた来年挑戦出来るんだし、本当に無事で良かったわ」
「…そうだね」
「どうしたの、そんな浮かない顔して」
胸元にぶら下げた指輪は、もう何の意味も成さないガラクタとなっていた。
消失の力のことは誰にも話さず秘密にして欲しいと山本に頼んだのは良いものの、どうしてリボーンが昨夜のことを知っているのか疑問だった。
何処かで目撃されていたのだろうか。ただ、異能の存在が気付かれなかったのは幸いであった。
一連の出来事を思い返せば、己の無力さに打ちひしがれてしまい、自然と口角が下がる。
「ううん、何でもない。気にしないで」
そのぎこちない笑みを目にした結衣は、鼓舞するように友人の肩を叩く。
「下手くそ」
「えっ」
「そんな顔してると、愛しの沢田が心配するわよ」
「……あ、」
数十分前にたっぷりと浴びた怒声が脳内に響く。猛犬注意の看板が見えた気がする程の獄寺の暴れっぷりに、楓香は遠い目をした。
「綱吉君と付き合ってること姑にバレてしまったんだけど、どうしよう」
「私、アンタのこと一生忘れない」
「勝手に殺すな」
南無阿弥陀仏やアーメンなど唱え神妙な面持ちで十字を切るので、楓香の頬がひくりと引き攣った。
沈んだ気持ちのまま学校に到着し、教室の戸を開ければ、そこには犬ではなく鬼が待ち構えていた。無言で此方を見下ろし、クイッと顎を動かすと廊下の先を示した。ついて来い、ということらしい。
大人しくドナドナされて向かった先は屋上だった。心配して後を追った沢田は、獄寺から楓香を庇うように前へ出た。
「俺と楓香ちゃんが付き合ってること、今まで黙ってたのは謝るよ、本当にごめんなさい。でも誤解しないで欲しいんだ。俺達はお互いに好き同士であって、騙されているとかじゃなく…」
「それは先程も十代目が話してくれたので、よく分かりました。ですが、俺は認めません!こんなぽっと出の女に、俺の大切な十代目が…!」
ぐぬぬと歯を食いしばる獄寺の目は血走っていて、理性が飛んでいた。楓香は沢田の後ろから顔を出していたが、わなわなと怒りで唇を震せている獄寺に怯え身体を隠す。
「おいドロボー女、テメェ十代目の好きなところ言ってみろ」
逃がさないとばかりに人差し指を向けられ、おずおずと顔を再び覗かせた。
「そんないきなり言われても…本人の前で言うのはちょっと恥ずかしいというか」
「はぁーん?テメェやっぱり、」
次第に怪訝な顔付きになっていくので、楓香は仕方なく声を上げる。
「わっ、分かりました言うから!優しくてちょっと抜けてるところが可愛くて好き!」
「ふん、ありきたりだな」
「えっと、ピンチの時に助けてくれるヒーローみたいなところ!」
「それだけか?」
「あとは…」
普段思っていることをありのまま言語化出来たらどんなに良いか。沢田の好きなところはたくさんあるのに、何故か今はそれを上手く言葉にすることが出来ない。もどかしくて人差し指同士をもじもじと擦り合わせていれば、獄寺が鼻で笑った。
「俺は十代目の素晴らしさを全て語るのに数日はかかるくらいたっくさん挙げられるぞ。テメェその程度で恋人なんて笑わせるぜ。本当にこのお方のことを心の底から愛しているのか?」
「…それはもちろん」
「嘘つけ、ならもっと言えるだろ」
ただ好きなところを挙げるだけなのに、どうしてこうも恥ずかしさが勝ってしまうのか。何だか公開処刑されている気分だった。それでもこの想いが伝わるように言葉を紡いだ。
「……私、あまり自分のことが好きじゃないんだけど、綱吉君が好きだという自分は嫌いじゃない。それってすごいことで、だから、そう思わせてくれる綱吉君が、…私は大好き」
楓香は目元を和らげ、穏やかな口調で言った。
「どんなに嫌なことがあっても綱吉君が傍に居てくれるだけで、前を向いて頑張れる。そんな人、初めてなんだ。まだ十数年しか生きていないけれど、きっとこの先彼以上に想える人は私には現れない。ううん、綱吉君がいい、綱吉君じゃなきゃ嫌だ」
そう言い切ると、目の前の蜂蜜がふわりと揺れ、気付けば沢田に抱き締められていた。
突然のことに驚いた楓香だが、その力強い抱擁に身動きが取れず額がくっついたかと思えばそのまま唇が重なった。手のひらに包まれた頬が熱い。
ふにゃりと沢田の目が細まる。
「ごめん、我慢出来なかった」
「ひ、人前でキスするのは禁止だって言ったのに!」
「だって楓香ちゃんがすごく可愛いこと言うから」
再びぎゅうぎゅうと楓香に抱き着いた沢田は、小さなつむじに鼻先を埋めた。
「綱吉君、恥ずかしいから離れて」
「誰かさんのせいでたくさん構いたくなっちゃったから駄目」
獄寺の存在を忘れた二人は桃色の空気を辺りに撒き散らしていた。
「…俺の前でイチャイチャすんじゃねーーッ!」
痺れを切らした獄寺は地団駄を踏み、宙を飛び交うハートを鷲掴んで彼方へと放り投げる。少しの間、悩ましそうに眉間を揉むと、分かったと口を尖らせた。やけくそに前髪を掻き上げて楓香を見据えた。
「要検討だ」
ドン!というオノマトペが獄寺の背後に現れる。
いやいやと、顔の前で手を振って楓香は抗議の声を上げた。
「今のはどう考えても認める流れでしょ!」
「はいそうですかって簡単に頷ける訳ねーだろ!検討に検討を重ねて検討だ!」
「この獄寺君の分からず屋!検討使!」
「んだとコラッ!てか、いつまでくっついてやがる!さっさと離れろ!」
SHRの始まりを告げる鐘の音が鳴るまで、屋上の喧噪は続いた。
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