仁王雅治
じくり、と、針が刺さる。
奥底に閉じ込めたはずの、どろりとした液体が、針の穴を広げ流れ出した。汗が首筋を伝うみたいな、気持ちいいとは言えない感覚で、全身が満たされる。
心臓の音が痛い。
背中から。頭上から。足元から。こちらに向かって生えてくる極太の棘が、心ごと体を貫く。不思議なことに、そこまで気分は悪くない。四方八方から自分を突き刺す棘に、愛おしさすら感じてしまう。
ずっと貫かれていたい。心地いい痛みと、少しの虚しさ、控えめに、だが確かに流れ出るずるりとした感覚。頭が痺れる。
何も言わず、ただ隣にいるだけの、お互いが人の気配を感じるための関係。好きな食べ物も、住んでる地域も、誕生日すら、まともに知らない。
ただあの晴れの屋上で、空の下でだけ言葉を交わす。サボりと不登校、お互いに折れ曲がり、くすんだ色の関係性。俺の中で、屋上へ行く目的が入れ替わったのは、もうどれくらい前になるだろう。
余裕が、ごりごりと音を立てて削れていく。すりおろされた心は柔らかく、湿気と空気を含んで体積を増した。それをかき消すように、よく晴れた空は、からりとした空気を連れてくる。
言葉にすれば消えてしまうような、形容詞のない曖昧な関係。友達だと言うには酷く脆く、知り合いだと言うには知り過ぎた。
「何も、聞かずに……頷いてくれんか」
頼むから。
とうの昔に定位置と化したベンチで、右隣へと呟いた。
奥底に閉じ込めたはずの、どろりとした液体が、針の穴を広げ流れ出した。汗が首筋を伝うみたいな、気持ちいいとは言えない感覚で、全身が満たされる。
心臓の音が痛い。
背中から。頭上から。足元から。こちらに向かって生えてくる極太の棘が、心ごと体を貫く。不思議なことに、そこまで気分は悪くない。四方八方から自分を突き刺す棘に、愛おしさすら感じてしまう。
ずっと貫かれていたい。心地いい痛みと、少しの虚しさ、控えめに、だが確かに流れ出るずるりとした感覚。頭が痺れる。
何も言わず、ただ隣にいるだけの、お互いが人の気配を感じるための関係。好きな食べ物も、住んでる地域も、誕生日すら、まともに知らない。
ただあの晴れの屋上で、空の下でだけ言葉を交わす。サボりと不登校、お互いに折れ曲がり、くすんだ色の関係性。俺の中で、屋上へ行く目的が入れ替わったのは、もうどれくらい前になるだろう。
余裕が、ごりごりと音を立てて削れていく。すりおろされた心は柔らかく、湿気と空気を含んで体積を増した。それをかき消すように、よく晴れた空は、からりとした空気を連れてくる。
言葉にすれば消えてしまうような、形容詞のない曖昧な関係。友達だと言うには酷く脆く、知り合いだと言うには知り過ぎた。
「何も、聞かずに……頷いてくれんか」
頼むから。
とうの昔に定位置と化したベンチで、右隣へと呟いた。