丸井ブン太
丸井ブン太は、滅茶苦茶にシャイである。有り得ないくらい。付き合った当初、それはもう驚いたのをはっきりと覚えている。
「すき、だ……」
首まで真っ赤に染め、絞り出したのは、いつもなら考えられないくらいか細い声。
夕陽に染まる廊下、部活終わりで人気がない、消灯した教室を背景に、赤い癖毛が跳ねる。
丸井の手は、ごく控えめに私のブレザーの袖を掴んでいる。男子にしては小柄な背を、仁王くらい丸めながら俯く丸井は、普段とは別人のようだった。
廊下の古いフローリングがきぃ、と音を立てた。静まり返った校舎に響く。丸井はまだ、手を離さない。
振り返った姿勢のまま、私は固まる。肩にかけた学生鞄の紐がずり落ちた。
丸井より若干低いはずの視線をおそるおそる上げると、目の前には髪色と同じくらいに染まった顔。斜め下を睨みながら唇を食む。少し滲んだ瞳には、恥じらいと期待と、不安が混ざったような色が浮かんでいた。
「! ごめんその……言いたかっただけだから……じゃ、また、えっと、また明日……」
袖を掴んでいた右手を慌てて離し、丸井はバタバタと階段をかけ下りる。
カッカッカッ、と、上履きとフローリングが擦れる音が小さくなり、消えていく。私はロッカーの前で立ち尽くした。
ずるい。
あんなのずるい。
だいぶ前に、ジャッカルとした世間話を思い出す。そういうことかよ。
『いざ好きだ、って言ったら逃げるくせにな』
「すき、だ……」
首まで真っ赤に染め、絞り出したのは、いつもなら考えられないくらいか細い声。
夕陽に染まる廊下、部活終わりで人気がない、消灯した教室を背景に、赤い癖毛が跳ねる。
丸井の手は、ごく控えめに私のブレザーの袖を掴んでいる。男子にしては小柄な背を、仁王くらい丸めながら俯く丸井は、普段とは別人のようだった。
廊下の古いフローリングがきぃ、と音を立てた。静まり返った校舎に響く。丸井はまだ、手を離さない。
振り返った姿勢のまま、私は固まる。肩にかけた学生鞄の紐がずり落ちた。
丸井より若干低いはずの視線をおそるおそる上げると、目の前には髪色と同じくらいに染まった顔。斜め下を睨みながら唇を食む。少し滲んだ瞳には、恥じらいと期待と、不安が混ざったような色が浮かんでいた。
「! ごめんその……言いたかっただけだから……じゃ、また、えっと、また明日……」
袖を掴んでいた右手を慌てて離し、丸井はバタバタと階段をかけ下りる。
カッカッカッ、と、上履きとフローリングが擦れる音が小さくなり、消えていく。私はロッカーの前で立ち尽くした。
ずるい。
あんなのずるい。
だいぶ前に、ジャッカルとした世間話を思い出す。そういうことかよ。
『いざ好きだ、って言ったら逃げるくせにな』