短編
名前
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閉店時間まであと三分。
お客様はいないし、少し早いが閉めてしまおうか…なんて思っていたらドアベルが鳴った。
昨日の事もあり彼女は目をキョロキョロさせて、気まずそうにしている。
「オレンジジュース…美味しかったので、ください」
「ふっ…」
「わ、笑うな!」
「失礼しました。
カウンター席でお待ちください」
絞ったオレンジをグラスに注ぎ彼女に出せば、小さな声でお礼を言った。
そんな彼女の隣に座れば、何で座ってるんだという眼差しを向けられる。
「もう閉店時間過ぎたんで、隣に座っても構わないでしょう?」
「一つ空けて座って。近い」
「おや、そんな事言っても良いんですか?松田名前さん」
「やっぱり…」
「盗んでませんよ?
名前さんが落としたのに気づかず帰ったからでしょう」
「っ、名前で呼ぶな!」
カバンの中をごそごそあさっている。
催涙スプレーでも取り出すつもりだろう。
本気でやるつもりなのかは分からないが、とりあえず止めておこうと思い彼女の手首を掴む。
「はいはい、大人しくジュースを飲みましょうね」
「子ども扱いしないで!
タバコくらい吸えるんだから」
「だったらブラックコーヒー飲みます?
喫煙者はコーヒーを好みますからねえ。
お代は僕持ち、十杯でも二十杯でもどうぞ」
「……ごめんなさい。
オレンジジュースが良いです」
掴んでいた手首を離すと、彼女は両手でグラスを持ってオレンジジュースを飲んだ。
アイツは妹が可愛いと言ってたが、まあ分からなくもない。
からかいがいがあって、一緒に居て飽きない。
それに…たった二回しか会ってないが、安室透じゃなく降谷零として接して心地良いと思える存在だ。
「どうしてタバコ苦手って分かったの?」
「カバンの中にタバコもライターも無かったので」
「ふぅん…」
ジュースを飲み終えるとレジに百円玉を四枚置いたので彼女に百円玉三枚と十円玉二枚を返した。
「昨日お釣りを受け取らなかったでしょう」
「ああ、そっか…」
「それと保険証」
「ありがと。顔に似合わず優しい…」
最後の一言が余計だ。素直にお礼だけ言え。
送って行くと言えば「後片付けは?」と聞かれた。
グラス洗ってレジ締めだけだからすぐに片付くから待ってろと言えば、彼女は再びカウンター席に座った。
カバンからスマホを取り出し、昨日と同じように画面を見ている。
片付け終わって彼女に話しかければ、瞳を輝かせて話してくるじゃないか。そんなに誰かに話したかったのか。
「昨日も熱心にスマホを見てましたね」
「世界一カッコいいお兄ちゃんの写真見てるの」
確かに松田の顔は整ってるが世界一は言いすぎだ。一番モテたのは萩だしな。
「見たい?
見たらカッコ良すぎて嫉妬しちゃうよ」
「見せてくれるんですか?」
「良いよ」
日付を見ると殉職した一日前、松田が彼女の頬にキスをしている写真。
ガラケーからスマホに写真を移した物だからか画像があらい。
妹が可愛いとは言ってたが、まさかキスまでしてるとはな…。
「どう?カッコいいでしょ」
「ええ。とても。
貴方にこんなにも想われているお兄さんは幸せ者ですね」
「そう?
へへっ、ありがと」
松田は四年前に殉職してる。
彼女に会わせて欲しいとか今は何しているとかは聞かない。
彼女の笑顔を奪ってまで悲しい顔をさせたくないからだ。
だから…。
「名前さん。
お兄さんとの楽しい思い出、聞かせてください」
「うん!」
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