短編
名前
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「いらっしゃいませ。
一名様でよろしいですか?」
「はい」
「こちらのカウンター席へどうぞ」
一人で来店した彼女は初めてのお客様。
彼女にまとわりついてる匂い、顔だちがアイツを思い出させる。
「すみません、注文良いですか?」
「はい」
「オレンジジュースとミートスパゲティお願いします」
「かしこまりました」
匂いに似合わずジュースを注文するのか。てっきりコーヒーを頼むかと思った。
ピークのお昼を過ぎ、学生は学校で授業中。
お客様は彼女以外誰もおらず、今は自分と彼女、二人だけだ。
注文の品ができる間、彼女はスマホをじっと見ていた。
画面に反射シールが貼ってあって、何を見ているかは分からない。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
「僕、お昼まだなんです。
ご一緒しても良いですか?」
「えっ?」
彼女の返事を聞かず隣に座り、ミートスパゲティを食べる。
彼女は、俺を不審者を見るような目線を向けたら無言で食べはじめた。
「…タバコ」
「はい?」
「タバコ、吸うんですか?」
「はっ…だったら何?
初対面なのにプライベートの事までつっこんでくるなんて、とんだチャラ男だな。
やっぱり男はお兄ちゃん以外、信用も信頼もできない」
お兄ちゃんか…。
そういえば、世界一可愛い妹がいる…なんて言ってたか。
もしかしてと思い名前を聞けば、バッグから催涙スプレーを取り出して、いつでも発射できるように俺に向けている。
こんなアホなことを俺にしてくる奴なんて、すごく久しぶりだ。
思わず声にだして笑ったら、彼女は口を開けてぽかんとしている。
「すみません、つい…。
先に名乗るのが礼儀ですね。
僕の名前は安室透です。あなたの名前を教えてください」
「私の名前は…じゃない!
あんたに教える義理なんて無いんだから!」
こんな店さっさと出て行ってやると言って、あっという間にミートスパゲティを完食したが、慌てて食べたせいで喉にひっかかったのだろう。
口元に手を当て咳をするのを堪えてる。
「大丈夫ですよ。
遠慮せずに、しっかりとむせてください」
背中を優しくさすればたくさん咳き込んで、呼吸が落ち着いた。
さっきまできゃんきゃん騒いでたが、お礼を言う躾はできてるらしい。
「ほら、慌てて食べるからですよ」
「~っ、ジュース飲む!」
ジュースを一気飲みするとレジに直行し千五百円を置く。
お釣りの三百二十円を受け取らず彼女は店を出ていってしまった。
これだとレジのお金が合わなくなるから、今度会った時に渡そう。
「ん?」
レジ前に何かが落ちている。
拾って見ると落として気づかず帰ってしまった彼女の保険証。
保険証にはご丁寧に住所が書き込まれてる。やっぱり彼女は思った通り…。
「松田名前…アイツの妹か」