風見パパになる
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コナン君に誘われてリニューアルオープンされた東都水族館へスケボーに乗ってやって来た。
スケートボードバッグに入れて背負ってコナン君を探す。
人混みの中、すぐにコナン君が見つかったが声をかけるのを躊躇した。
「(あいつらキュラソーを囲って何やってんだ…!?)」
ラムの腹心といわれるキュラソーだ。
もしかして私とシェリーを連れ戻しに来たのか。それとも工藤新一と気づいて近づいて来たのか。
最悪の事態になる前に風見に連絡してキュラソーを公安で引き取ってもらおう。
スマホを取り出して風見に電話をかけたが繋がらず舌打ちをした。
こうなったらキュラソーをどっかに連れ込んで殺してしまおうか。それとも元の姿に戻って狙撃するか。
どうするか悩んでいたら、少年探偵団の三人が私を呼んで手を振っているじゃないか。
よけいな事を…と思いつつキュラソーの近くにいるコナン君の背に隠れた。
「このお姉さんが記憶喪失で、皆で記憶の戻る手伝いをしようとしているんだ」
首を横は振ると何でと言われたから、お姉さんが怖いと呟く。
記憶喪失?演技だとしても、それが本当だとしても記憶戻ったらお前ら全員あの世行きだぞ?
コナン君は私の言葉で何か考えこんだが、子供達がキュラソーになついて手を引っ張ってその場を離れた。
「なあ、何であの人が怖いんだ?」
「人殺し…危険…におい…」
「…分かった。なまえちゃんを信じる。
なまえちゃん安室さんに電話をかけてくれる?」
「…ん」
電話番号を入力して発信したが安室さんは電話にでなかった。
風見も安室さんもどうして電話にでない。何か事件があったのか。昨日の爆発事件が関係しているのか。
「帰る。二人共、気をつけて」
スケボーに乗って自室に帰り元に戻る薬を飲もうとした。
スマホからバイブ音がして画面を見ると非通知になっていた。
普段の自分だったら電話にでないが…なぜだかでないといけない気がして通話の文字をタッチした。
『なあ…名前』
「降谷さん…良かった。
無事だったんだね」
『一度しか言わないからよく聞け』
「はあ…?」
『君に出会えて幸せだった。
じゃあな名字、幸せになれよ?』
降谷さん…何であの時の陣平と似たような言葉を言うの?
嫌な予感がする。
私の前からまた大切な人が消えるのか。
嫌だ。嫌だよ。どうして皆置いて行くんだよ。
薬を飲んで元の姿に戻る。帽子を深く被り、ライフルに拳銃にワイヤー銃、ロープに工具をもってGPSを起動させた。
前に降谷さんに渡した発信器付きのネックレスを持っていたんだ。良かった。
移動先は倉庫街だ。スケボーで向かえば赤井秀一の車が隠すように置かれていた。
「赤井秀一…」
「君か…安室君と水無玲奈はあの中にいる。
NOCリストが盗まれたんだ。まだ二人を疑ってる段階だが」
「ジンの事だから二人を殺すだろうね。
水無はどうなったって良いけど、あの人は大切な人だからダメだ。
だからあの中にいる奴らぶっ殺してくる」
「待て、落ち着け」
「落ち着いてるよ。
私の大切な人以外殺せば良いんでしょう」
「そしたら安室君が疑われるだろう」
「だったら組織の奴らを片っ端から殺す。ラムだろうとあの方だろうと。
最初からこうすれば良かったんだ。そしたらスコッチだって…」
あんな窮屈な生活しなくて済んだのにね。
本当は降谷さんにあいたいよね。ごめんね、私の力不足で。
「君は赤が似合わんよ。
だから手を汚す必要なんて無いんだ」
「は、何を今さら…っ!」
赤井秀一に片手で抱き寄せられたと思ったら首に衝撃が走った。
このやろう。最初から私を手刀で気絶させる気だったのか…。
目が覚めたら赤井秀一をぶん殴ってやるからな。
こうして私は赤井秀一のせいで意識を失った。
━━目が覚めたら赤井秀一の車の中だった。
外が暗い。今何時だ?
スマホで確認すると風見からメールがあった。内容は東都水族館に近寄るなとの事だ。
降谷さんのGPSを確認すれば場所が東都水族館を示している。赤井秀一が助けたのか。
車から降りて見ると巨大観覧車が見える。赤井秀一もこの東都水族館に用があった…?
という事はここで何かやろうとしているのか。
何のためにと思ったら、周りには警察関係者がごろごろいるじゃないか。
観覧車を見上げて見るとちょうど五色の色が光ってる。
まるでキュラソーがいつも持ち歩いてる五色のフィルムが…。
もしかして記憶喪失は本当で記憶を戻そうとしてるのか?
だとしたら…観覧車を貸し切りにしてキュラソーと誰かが一緒に乗って記憶を呼び覚ます役がいるはず。だから中には人が全然乗っていないんだ。
ここら周辺に風見の匂いが僅かに香る。
どうか無事でいて欲しい。観覧車のゴンドラで大切な人が二度も死ぬのは見たくない。
ゴンドラに飛び乗りながら頂上を目指すと、あちらこちら爆弾のコードが張り巡らされているのが分かる。これが爆発したら死ぬだろう。
子供達が途中で視界に入ったが無視させてもらう。優先順位ってもんがあるんだ。
「っ、風見!」
倒れている風見が見える。
出入口を素手でこじ開けて風見の側に近寄れば気絶をしていた。良かった、生きてる。
ほっと息をはいて、私の背中に風見をロープで結んで背負った。
ライフルケースを左手に持ち、地面に落ちてる風見のスマホと拳銃をポケットに入れてさっさと逃げようと思ったら、江戸川コナンが上から着地してやって来た。
「アンタはあの時の…その人をどうするつもりだ!」
「どうって…ここから逃げるんだよ」
「その人を…組織に渡すのか」
「後でそこら辺に捨てておく。
子供はさっさと家に帰れ」
「…待って!
ここには爆弾がある。安室さんもいる。僕が言いたい事、分かるよね…?」
安室さんを助けるために爆弾を止めろって?生意気なガキだな。
ローター音がこちらに近づいてくる。ジンの事だからゴンドラごと持ち上げてここに居たであろうキュラソーを回収するつもりなんだ。
コナン君を担いでワイヤー銃を使いゴンドラから脱出する。
目指すは場所は降谷さんだ。
コナン君をどっかに降ろした後、降谷さんを担いでさっさとここから逃げよう。爆弾が爆発しようが大勢の奴らが死のうがどうでもいい。
さっきまで乗っていたゴンドラが持ち上げられて地面に叩き落とされた。
無造作に降ってくる弾丸の嵐。二人に当たらないように避けながら降谷さんの元へ急ぐ。
「ねえ!一度どこかに身を潜めないと!」
「うるさい黙ってろ!こっから落とすぞ!」
コナン君に言い返している時、無作為に降り注いでいた銃弾の雨が一ヵ所に集中した。ジンがキュラソーを見つけたのか。
ようやく降谷さんの元へたどり着いたと思ったら近くにいた赤井秀一を睨み付けて叫んでる。
「反撃の方法はないのか!?FBI!!」
「あるにはあるが…」
赤井秀一は、淡々と状況を知らせてる。
ローターの結合部がウィークポイントだと判明したものの、暗視スコープが潰れて、今は通常のスコープしか使えないと。
「何とかヤツの姿勢を崩し、なおかつローター周辺を5秒照らすことができれば…」
「だったら私のを貸す。
で、私らはこの場からさっさと逃げる。それで良い?」
「っ、来てたのか!
それに風見とコナン君も…!」
コナン君には花火ボールがという照らす手立てはあるから、それを使うつもりだろうけど…。
「大体の形が分からないとローター周辺には…」
コナン君が上空に目を向けた瞬間、再び銃撃が始まった。狙いは車軸の爆弾だ。
このままだとヤバいな。この建物全滅する。
こっちはさっさと逃げたいのに、降谷さんがどうしても止めようとするからここから逃げられないじゃないか。
降谷さんはバッグに爆弾を放り込んでファスナーを閉めて、勢いをつけて振りかぶった。
「大体の形がわかればいいんだったよな?見逃すなよ!!」
渾身の力で投げられたそれは、轟音を轟かせて爆散し、戦闘機の姿が浮かび上がった。
「見えた!!」
白く光るボールが戦闘機めがけて飛び出した。
それは機体に当たり、ローターの真上へ跳ね上がる。暗闇を花火が照ら、しトリガーが引かれる。
「━━墜ちろ」
機体のローターから黒煙をあげていた。
機体が不安定になり、これで帰ってくれるのかと思ったらのまま再び銃弾を撃ち込んできた。もうだめだな。車軸が崩壊する。
「こっちに来い!」
「わかってる!」
降谷さんの元に駆け寄ると、これをどうにかできないのかと私に言ってきた。
真横に倒せば止まるだろうけど、そうすると降谷さんの初恋の女医の子供がゴンドラの中に残っているからダメだ。
車軸を壊され巨大観覧車が転がっていく。
前方には水族館があり、停電の影響がなかったためそこには人が密集してる。
「コナン君にサッカーボール膨らませてもらえば良いだろ!?降谷さんはその手伝いすれば!」
「名字!どこに行くつもりだ!」
「もう一つのストッパーを用意するんだよ…!!」
いくら巨大なサッカーボールを膨らませてクッション代わりにしても、坂道で加速するしこれじゃ止まらない。
ワイヤー銃を使って停まってるクレーン車に向かう。これで観覧車に突っ込めば軌道が変わり止まるはずだ。
「っ、キュラソー!」
「貴方…ジンのお気に入りの」
私と同じ考えだったのか逃げ出したはずのキュラソーがクレーン車に乗り込む姿が見えた。
本当は風見を気絶させた事に怒りがあるが言い争ってる時間は無い。
「そこを退け。私が代わってやる」
「その男を背負ってあそこに突っ込む気?心中でもする気かしら」
「アンタには生きてもらわなきゃ困る。組織の情報を吐いてもらわないといけないから」
「このケガじゃもう長くないのは分かってる。だからせめて…あの子達を……」
「キュラソー…」
「さあ、ここから離れなさい。
貴方の事、わりと気に入ってたわ」
クレーンが衝突し車輪の向きが僅かに変わる。
クレーンに引っかかった鉄骨が、ギシギシと音を立てた。
膨らむサッカーボール、爆発したクレーン車により巨大観観覧車は止まった。
「ん…」
「起きたか風見」
「…名字、さん……?」
鉄骨に押し潰された運転席を眺めて思う。
最後に笑った顔は組織にいた時とは違い、私の知らないキュラソーだった。
大切そうにイルカのストラップを持っていた。
私がいなかった間に、少年探偵団がキュラソーを変えたのか。
キュラソーは死ぬ間際に何を思って死んだのだろう。
「一人で歩けるか?」
「はい。
あの…あの女は…」
「死んだよ。
クレーン車に潰されてね」
ロープをほどいて風見を地面に降ろし、赤井秀一の車に戻る。あそこにスケボーを置きっぱなしだからな。
「じゃあな##NAME1##…幸せになれよ」
赤井秀一の車の座席に座って、電話越しの言葉を思い出す。
陣平は最後に何を思って死んだのか。
もう少し生きたかった?萩の元に行きたかった?私と一緒に居て幸せだった?
まあいくら陣平を想っても、死んだ人間にはもう二度と声は届かないが。
けど…どうせ死ぬなら……大切な人より先に死にたいなあ。
「おや、生きていたのか」
「勝手に殺すなよ」
「安室君が取り乱していたからね。
少し会ってきたらどうだ?」
「はあ?」
「クレーン車の中に君が乗ったと思っている」
「ああそう…」
仮にクレーン車に乗り込んだとしても潰れる前に脱出してるよ。
貸した暗視スコープはぼろぼろになって、私の手のひらに返ってきた。使い物にならないな。風見に買ってもらおう。
「いいのか?」
「いいよ。部屋まで送って」
そういえば降谷さんが電話越しに陣平の真似事してたな。あれは何だったのだろう。