風見パパになる
名前
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退屈な授業がようやっと終わり下校時間になった。
いつものようにコナン君と階段を降りて下駄箱で靴を履き替えてスケボー片手に外に出ると、校門前にいるはずのない人物が立っている。
気だるげに口に手を当ててあくびをする姿が似ていて…。
「よお、待ってたぜ?」
「………」
「お前の大切な人の姿と声を探すのにけっこう時間かかったんだ…って、おい……泣いてんのか?」
近づくと、姿は似ていて声は同じだが匂いが違う。
陣平は萩の真似て煙草を吸い始めた。
吸う前は太陽みたいに暖かくて落ち着く匂いをしていた。
爆発に巻き込まれて死んだが、遺体も遺品も何一つとして無かったから、実はどこかで生きていて、そのうちひょっこり帰ってくるんじゃないか、なんて…。
そんな事あるわけないのに、何度考えただろう。
「なまえちゃん…その人は…」
「ん、分かってる」
目元を服の袖で擦って奴を睨んだのに、上目遣いか?と私を抱き上げてニヤリと笑った。
「んな可愛い顔してるとキスするぞ?」
「できるならいいよ」
「ばーか、冗談だよ」
奴はデートだと言って私のスケボーに乗ってゲームセンターにやって来た。
一緒にモリオカートをやって、太鼓のゲームをやって、手先が器用な事を活かして手のひらサイズの電気ネズミのぬいぐるみのキーホルダーを取ってくれた。
夕方になると公園のベンチに私を座らせると、喉渇いただろと言って近くの自販機で買ったオレンジジュースの缶を手渡される。隣に座った奴はココアを飲んだ。
「…あのさ」
「おう」
「もし生きていたら今日みたいに…私を楽しませようと色んな場所に連れて行っただろうな」
目の前にいるのは本人じゃない。
だから頬にキスはしないし好きとも言わない。
ただの…他の人より変装が上手な高校生だ。
「お前じゃあの人の代わりなんてできないし、代わりなんてそもそも居ない。
だから…今日は楽しかったなんて言わない。今度誘う時は黒羽快斗でいい」
「なまえ……」
それから…。
黒羽快斗と公園で別れ、空になった缶を握り潰し、スマホを開いて最後に二人で撮った陣平との写真を見た。
「━━名前」
声が頭の中で再生される。
生きてたら子供の姿が懐かしいだとか可愛いとか言って、色んな場所に連れて行ってくれて、たくさん甘やかしてくれるだろうな。
陣平がキスしなくなったから、頬も額も風見に上書きされたよ。
もう二度と陣平が甘い飲み物もお菓子も買ってくれないから、風見が代わりに買ってくれるんだよ。
手料理だって今まで陣平が作って私が食べてたのに、今では私が風見に作っているんだよ。
ねえ陣平
このまま風見と一緒にいたら、私……
「名前」
「……れい」
「帰ろう」
私の事を名前で呼ぶのは零しかいない。
陣平は私の事を一度も好きと言わず、ただ側に置いていただけだが、零はこんな私に好きと言った。
缶を捨てて零に抱き上げられたので大人しく零にくっついた。
零に尾行されているのは気づいてたので泳がせていた事を話したら、尾行じゃなくて犬みたいな嗅覚で気づいたんじゃないか?と返された。
「まあ君はどちらかというと犬じゃなくて猫だが。
手懐けるのにかなりの年月が必要だからな」
「手懐けるって私はペットか」
「いや?
俺の好きな…大切な人だよ」
そうやってまた私に告白してくる零。
零の親友は恋愛対象に見てくれって言われたけど無理なんだ。
だから風見にも想いを伝えないし、零の気持ちにも答えない。
自分は汚い人間だから、それを口にだして言ったら零が離れてしまうかもって思うから言わないんだ。
「私と付き合いたかったら陣平より料理上手で優しくて強くなってから許可もらってね」
「それなら松田をとっくに越えてるだろ」
「観覧車でボコボコにされた人のセリフじゃない。それに陣平の差し歯の恨み忘れてないから」
「くっ…!
次こそ君に好きと言わせるからな」
