オレンジ色の光に染まる桐先高校弓道場では練習が終わっても弓を引いている者がいる。


美しさの中に秘める力強さを備えた射をする貴公子である藤原愁と彼の恋人である結華だった。


「やっぱり，愁君の射型はいつ見ても綺麗だよね」


「そう？」


「うん，むしろ綺麗という言葉では表しきれないぐらいだよ」


「そう言ってくれて嬉しいよ。けど俺の中ではまだ満足の射ではないんだ」


的を真っ直ぐ見つめる時の彼の横顔はとても優しい表情をしていた。


「愁君，最近は弓を引いている時すごく楽しそうだよね」


「俺が…？」


「前は，弓を引いててもどこか悲しそうな表情をしていたから，さっきみたいに笑顔でいることが多くなって嬉しいんだ」


彼女がニコッと微笑んで彼に伝えると愁も静かに微笑み，想いを伝える。


「俺は，今まで弓は自分のために引くものだと思っていた」


「愁君？」


「…でも誰かのために弓を引くことが大切だというのを感じさせてくれた人がいるんだ」


「それって，湊君？」


「いや…」

愁は彼女の頬を優しく撫で，愛しそうに見つめながら答える。


「君だよ… 結華」


「えっ？ 私？」


誰かのために弓を引くことの大切さ，誰かと弓を引く楽しさ，かけがえのない時間……全て彼女が教えてくれた。


「君が俺の全てを変えてくれたんだ」


「しゅう…くん」


頬に触れていた指が顎の方へ移動しクイッと持ち上げられる。


真っ直ぐに見つめる紫の瞳がゆっくりと近づき，甘い口付けを交わした。


〇 藤原 愁 の I love you の訳し方
＝「君が俺の全てを変えてくれたんだ」