このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

短編集


「##NAME1##~~っ!!おっはよ!」

バレリーナ達の大部屋前に来たとき、廊下の先から元気の良い少女に声をかけられた。
少女は金色の髪を揺らしながら、トタトタとこちらに走り寄ってくる。

「おはよ、メグ!」

##NAME1##は片手を上げながら近寄って来る、メグと呼んだ少女にハイタッチで挨拶を返そうと自身も片手を上げながら近づいた。

が、

「キランっ、隙ありっ!!!」

メグは##NAME1##とタッチを交わすどころか、姿勢を低くして##NAME1##のスカートの裾を掴んみ、そして思いっきりめくった。

「ちょっ!!メグ!!!」

##NAME1##はヒラヒラと舞い上がるスカートをガバッと両手で抑えた。

「良いじゃなーい、どうせズボンはいてるんだから♪」

「よ、良くないっ!!」

たしかに私はスカートやドレスの下に男物のズボンをはいている。
だけどそれは、仕事で大掛かりな作業をしたりするときにヒラヒラする服装じゃ邪魔になるからで、決して人に見せる為ではない。

それに、ズボンをはいているからって女性のスカートをめくるなんて信じらんないっ!!!

このクソガキっ!!


「痛っ!!」

##NAME1##はメグの頭にげんこつを落とした。そんなに強くではないが、少女は頭を抑えながら呻き声をあげている。

「メ、メグっ!」

すると先ほどメグが走ってきた方から、今度はクルクルとカールがかかった茶色の髪が特徴的な少女が走り寄ってきた。
活発的なメグとは正反対な、大人しい少女──クリスティーヌだ。

「おはよ、クリスティーヌ」

「おはようございます、##NAME1##さん」

クリスティーヌは小さく頭を下げると、大きな瞳で##NAME1##と未だに呻き声をあげているメグを困った顔で交互に見た。

「どうしたんですか?」

「バチがあたったの、ね?メグ」

「ひっどーい!!鬼!!」


メグはプウッと頬を膨らませ私を睨んだが、そんなことは気にしない。
そんな私達のやりとりを見て、クリスティーヌは笑っていた。


「それで?私にわざわざ会いに来たのはイタズラをする為だけ?」

少し嫌味らしくメグに聞く。
それを見てクリスティーヌがまた笑った。

「ち、違うわよ…。今度、寄宿舎の皆でお料理会を開くのよ」

「それで、ジリー先生に他の人も誘って良いわよって言われたので、##NAME1##さんも誘おうと思って」


なるほど、そういうことね。
彼女達の話だと、このお料理会は一年に一回の頻度で開かれてるみたい。
私がオペラ座に来てから丁度一年位だから、そんな行事があったなんて知らなくて当然よね。

「これ、私達二人で作った招待状です。受け取ってもらえますか?」

「もちろん、もらってくれるわよね??」

メグはワザとだろうけど、クリスティーヌは素だろう。二人の少女は上目使いで私の顔を見つめてくる。

少し大人っぽく見える彼女達もまだ13歳か14歳なのよね。
あぁ…そんなに目を輝かせて私を見ないで。


「わかった…わかったわよ」

##NAME1##は招待状を受けとるとエプロンのポケットにしまった。

目の前の少女達は飛びはね喜んでいるが、あまり素直に喜べない##NAME1##であった。




「…で?先程からお前は何を唸っているんだか」

「ぎゃっ!!!きゅ、急に出てこないでよ!ビックリするじゃない!」

物音もたてずに、椅子に座った##NAME1##の後ろからエリックがそう呟いた。
##NAME1##は今まで見ていた物を彼に見えないように隠す。

が、

「お料理会か…楽しそうではないか?」

隠した意味は無かった。
ばっちり見られている。

「見えてるなら聞かないで!そ、それに、女性の部屋にノックも無しに入るなんて、紳士としてどうなの?」

ムッとした顔で私がエリックを振り返ると、彼は顎に手をあてながら口の端を少しあげて(まるで三日月のようだ)言った。

「まさか。私はきちんとノックをし、そしてお前の了解もとったぞ?紳士として礼儀正しく一礼もしてな」

自身が言ったことを再現するように、大袈裟な動作でエリックは私の前で一礼した。

「え、…ほんと?」

「本当だとも。だが、お前は私の訪問には興味を持たなかった様子だったが?」

正直言って、記憶がない。
もちろんエリックが私の部屋に来てくれることは嬉しい、興味を持たないはずがない。

でも、今はそれどころじゃないのは事実だ。

「ご、ごめん…別にそんなつもりは無いのよ。ただ…」

「ただ?」


そんな甘い声で呟かないで!
しかも耳元で!!
エリックの声は大好きだけど、危険だ。
本当に危険。


「お料理会っていうのが厄介なのよ…」

##NAME1##はクリスティーヌ達から貰った招待状をエリックに渡した。
彼はそれを興味深げに読む。

「まず、お前が悩む理由が理解できん。これはクリスティーヌからの招待状だぞ?それだけで行くべきだ。違うか?あぁ!!クリスティーヌ…何故私には招待状をくれぬのだ」

「いやいやいや、それはあなたの理由でしょ!!それに、クリスティーヌから見てあなたは音楽の天使なんだから、招待できるはずがないじゃない」

目の前の男は一体何を考えているんだか。
愛弟子のクリスティーヌを思う彼の行動には本当に呆れる。
これが世を震え上がらせるオペラ座の怪人の姿とは。


「はいはい、クリスティーヌはおいといて」

おいとくな!
と、彼は呟いたけど無視無視。

「私が悩む理由はお料理会。これなのよ」

深い溜め息がもれた。

「…##NAME1##。まさかお前は、料理が得意ではないと?」

「ずいぶんとストレートに言ってくれますね、怪人さん」

「ふっ…不得意ならば練習をすれば良いではないか」

鼻で笑いながらそう言うエリック。

「そんな簡単に上手くなれるはずないじゃない…」

「ほう?いつも強気なお前にしては、ずいぶんと簡単に諦めてしまうのだな」

いつも以上にトゲのある言葉をはくエリック。
ここまで言われては引き下がるわけにはいかないけど。

「じゃぁ、あなたが指導してくれるのかしら?」

少し挑発的な口調でそう言うと、エリックは少し考えたあとにこう言った。


「手伝ってはやるが、やるのはお前だ」



で、結局。
エリックの隠れ家に着いていった私。

そこで、彼のキッチンを借りて調理はスタートしたんだけど、彼は何もしてくれなかったのよね。

始める前に本を一冊手渡してくれただけ。
しかもその内容が、


『初心者でも簡単クッキング♪』


とかいう本で。
まさか、エリックにこういう趣味があったとは…まぁ、怪人だから変わった趣味があっても驚きはしないわ。

というのはおいといて。



慣れた手つきでエリックがページをめくると、そこにはシチューのレシピが載ってた。
なんでシチューかというと、お料理会でつくるのがそれなのよね。
ほんの少しの間だったけど、招待状を見たときに確認してたみたい。ちょっと関心。

そして一言。

「やってみろ」


おかしいと思わない?
料理が苦手だから教えて欲しいと言ってるのに、やってみろの一言。
抗議しても聞いてもらえず、取りあえず始めたのはいいけれど。


「##NAME1##、その手に持ってるものは何だ?」

「何って?じゃがいもに決まってるじゃない」

「では、お前はじゃがいもを皮を剥く前に鍋に入れるのか?」


こんなことの繰り返し。
終いには溜め息なんてつかれちゃった。






「で、できたー!!」

モクモクと湯気がたつ鍋を覗き込みながら、##NAME1##はそう言った。

最初はどうなることかと思ったが、調理が進むにつれて私が小言を言うことも無くなっていた。
さすがにシチュー一つ作るのに3時間はかかりすぎだが。

だが、嬉しそうに完成したばかりのシチューを覗き込む##NAME1##を見ると、時間など気にならん。

「味もバッチリだと思うの♪エリック、どう?」

「あぁ、問題ない」

##NAME1##から渡された小皿に盛られたシチューを味見する。美味しい。
当然だ。レシピ通りに調理したのだ、不味かったらそれこそ彼女に問題がある。

だが、私ならこれに少し手を加え更に美味しいシチューを作ることができる自信はあるが、これは##NAME1##には言わないでおこう。


「やればできるではないか」

隣に立つ##NAME1##に私はそう言った。
だが彼女は少し困った顔をしてこちらを見上げるのだ。

「ほとんどエリックのおかげじゃない…私だけじゃ出来ないわ」


あぁ、なるほど。
彼女は自信が無いだけなのだ。


「誤解されては困る。私はお前に指示など一度もしていないではないか。レシピを見たのはお前であり、作ったのもお前自身だ」

私を見上げる##NAME1##はとても真っ直ぐな目をしていた。
そんな彼女の頭の上に私は手を軽くのせ、彼女と同じ目線になった。

彼女は女性の平均身長に比べたら高い方なのだろうが、私の隣に立てば誰でも小さく見える。

「お前は出来ないのではなくて、ただやらないだけなんだ。そうやれないのは自信が無いだけ。だが自信はついたではないか?大丈夫、お前ならできる」

最近、愛弟子のレッスンばかりだったせいで、##NAME1##相手にも少し子ども扱いし過ぎただろうか。
彼女の顔はほんの少し赤い。

少し申し訳ない気持ちになってしまった。
さすがに自分と10以上も年が離れている相手と同じ扱いをされてしまっては、彼女も不満だろう。

「すまない、少し子ども扱いしてしまったな」

「そ、そんなことないわ…。ただ、いつもより優しいなぁって思って」

彼女のそんな言葉に内心驚きながらも、私は戸棚から大きなお皿を二つ取り出した。

「さて、せっかくのシチューが冷めてしまう。もちろん、食べていかれるのだろう?」

「あ、うん!大盛りで」

「女だろう?少しは恥じらいを──」

「気にしなーい、気にしなーい」





平凡な日常を、##NAME1##と共に過ごせること。
それが何より嬉しいことで。

彼女の力になれること。
それが何よりも幸せで。




3/10ページ
スキ