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お願いキスして10題

「んー、やっぱりそれは遠慮しておこうかな」

自分への口づけなど、気が向くままに、好きなようにすればいいと言えば、意外にもヒノエが複雑な顔をした。
てっきり「じゃあお言葉に甘えて」とでも言うのかと思って身構えていた敦盛は、良く言えばほっとした。悪く言えば、拍子抜けした。

「……どう、して」

もしかして、自分のような者にそこまでする価値はないということだろうか。

ヒノエがあまりに「普通」に接してくれるので、時々忘れかけるけれど。こんな穢れた身に、そんな口づけをしてもいいなどと言う方が間違っていたのだ。そもそも、どのようにでも口づけしてくれること自体がありがたいことであるのに。
ああ、どうしてあんなことを言ってしまったのか。愚かが過ぎて、自分が嫌になる。

「ちょっと、敦盛」
「…………」
「なんか悪い方に考えてない? オレがお前にそんなことしたくないからとか考えてるなら、真逆だからね」
「え?」

では、何だというのか。測りかねて顔を上げると、やっぱり悪く考えてたんだ、とヒノエが苦笑した。

「だってさ、お前今気分が沈んでて、ちょっと投げやりな気持ちで言ってるだろ」
「………だったら、何だというんだ」
「オレはさ、お前を愛してるから……正直言って、そりゃさっきお前が言ったようなこともしたいけど」
「それなら、すればいいだろう」
「でもさ、オレ、お前のことできるだけ大事にしたいんだよね。何も考えずにオレの好きなようにしたら、何ていうか…お前を単にオレの『そういう』気持ちのはけ口にしてしまうみたいじゃん。それはやっぱ違うかなって」

ぽん、とヒノエが肩に手を置いた。紅い瞳が、にこりと細くなってこちらを見つめる。

「だからさ、お前がもっとオレのこと好きになってくれて、本当にオレのこと欲しいって思ったら……もう一回言って」
「………」
「な、敦盛」

肩にあったヒノエの手が、軽く首に添えられた。
ふわりと頬に触れた彼の唇が、やさしい。
その温度が暖かい。大事だよという気持ちが伝わってくる。落ち込んでいた心が少しだけ浮かんでくるようだ。

「ヒノエ、」
「うん?」
「……ありがとう」

俯いてそう言えば、彼がにこりと微笑んだ。
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