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約束

ゆらゆらと、意識が浮上しつつある。まだ目は閉じたまま夢と現の間をうろつき始めて、直感的に、傍に何となくいやなものが在ると思って、ヒノエは瞬時に苦しい気持ちになった。何故ならこのいやな気というのは、想い人の纏うそれであるからだ。

ぬらり、目を開ける。首を動かし、いやな気の方を見た。やはり、敦盛がいた。

「……はよ」
「おはよう。気分はどうだろうか」
「最高だよ」

目が覚めて、一番初めに視界に映るのがお前だなんて。

「嘘は、吐かなくていい」
「ほんとなんだけどな」
「……。なら、聞き方を変える。体調はどうだろうか」
「……良くない、よ」

ほんとのことを、言った。嘘を吐いたって、彼を傷つけてしまうだけなので。

「朝よりはマシだけど。頭が痛い」
「……すまない」
「お前に謝られる筋合いはないね。昨日のあれは、こうなるかもと分かった上で、オレが望んでしたことだから」
「そうかも知れないが。やはり……無理だな」
「何が?」
「昨日、言っていたこと。戦が終わったら考える、と」
「…………」

抱き締めて、口づけしただけでここまで具合が悪くなってしまっては。それ以上のことなどできるわけもないことは、明白である。無理矢理すれば、命の危険さえある。

「……申し訳ない……」

敦盛が、泣きそうな顔でまた謝ってくる。ヒノエも悔しいけれど、一番悔しいのは本人であろうから。本当は、抱き締めるなりして慰めたいのに。手を握ることもままならないから、

「……あのさ、」
「ん……」
「言葉でしか伝えられなくて、歯痒くて仕方ないけど。お前のこと、ほんとに好きなんだ。愛してるって言ってもいい。身体に触れることが許されなくたって、いつも想ってるし、大事にしたいよ」
「……、」
「……自分もだとは、言ってくれないんだね」
「あ、いや。私ももちろん、君と同じ気持ちだ。だが……」
「だが、なに?」
「いや……」

敦盛が、口を薄く開けては閉じを繰り返す。一体何を、言いたいけれど言えないのか。
しはらく言葉を待ってみると、その甲斐もなく「やはりなんでもない」と。なんでもないってなに、とか言おうとしたけれど、言いにくいことを無理矢理言わせるのもなと思ってやめておいた。
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