約束
翌朝である。
目が覚めて即、ヒノエは己の体調の悪さを自覚した。いつもであれば寝覚めでもある程度はすっきりしている頭が、ぼうっとしている。起き上がってみれば身体は鉛のように重く、頭痛もする。ついでに少し、吐き気もある。
「ハァー…………」
既に起き出していったのだろう、共に雑魚寝していた譲と白龍と敦盛の姿がすでにないのをいいことに、ヒノエは両手で顔を覆って深くため息をついた。
最低、最悪の気分だ。
自分の身体がこうなった理由は、分かりきっている。昨晩、敦盛の……怨霊の身体へ触れたからだ。
そのせいで、昨晩のうちから自分の気が乱れたことには気がついていた。しかしまだそこまで体調に影響が出ていなかったものだから、もしかしたら大丈夫なのではないかと淡い期待さえしていたのだが。
寝て起きてみたら、全然、駄目になっているとは。
「畜生……!」
悔しくて、床へ拳を叩きつけた。
こんなにも、好きだというのに。
ーーーなんで、勝手に死んでんだよ!
幾度も幾度も、心の中で怒鳴ってきた言葉である。
終わったことを「こうだったら良かった」と考えるのは、無意味だと知っている。知っているけれど、そう思わざるを得ない。
敦盛が生きてさえいたら。こんなことで困らなくて良かった。熊野の連中を説き伏せるだけで、事足りた。
「……」
ぽたり、衾の上へ涙の滴が落ちた。
いっそのこと、蘇ってくれなければ良かった。
だって敦盛が蘇って八葉にならなければ、彼をこんなふうに好きになることはなかった。死んだままであれば、せいぜい彼の死を数年後に知り、すこし悲しむ程度で済んだろうに。
……などと考え始める自分を、これももう何度目か、叱咤する。だってもう、そんなことを言ったってしようがない。彼は蘇り、行動を共にしており、自分はかなり、彼を愛おしいと思うようになってしまった。後からどうこうできることでは、ない。
と、廊下からきしきしと足音が聞こえてきて、ヒノエは咄嗟に寝転び衾を頭の上まで被った。案の定、足音は自分のすぐ近くで止まり、「ヒノエ、もう飯できてるぞ」譲の声が、降ってきた。
「ちょっと……身体が怠くてね。悪いけど、食べといてくんない」
「そうなのか。大丈夫か?」
「んー……。もう少し寝ることにするよ」
「分かった。昼にはちゃんと食べるんだぞ」
「ん。……ありがとう」
きしきし、遠ざかっていく足音。涙声にならずに話せてよかった。衾から顔を出して、涙を拭った。
しかしこれで、敦盛はさらに触れさせてくれなくなるだろうなと思う。それが悔しくて、また涙が溢れてきた。頭もがんがんと痛む。「畜生」一人呟き、目元を擦ると目を閉じた。今はもう一度寝て、自分の気の乱れが何とかなるまでやり過ごすしかない。
目が覚めて即、ヒノエは己の体調の悪さを自覚した。いつもであれば寝覚めでもある程度はすっきりしている頭が、ぼうっとしている。起き上がってみれば身体は鉛のように重く、頭痛もする。ついでに少し、吐き気もある。
「ハァー…………」
既に起き出していったのだろう、共に雑魚寝していた譲と白龍と敦盛の姿がすでにないのをいいことに、ヒノエは両手で顔を覆って深くため息をついた。
最低、最悪の気分だ。
自分の身体がこうなった理由は、分かりきっている。昨晩、敦盛の……怨霊の身体へ触れたからだ。
そのせいで、昨晩のうちから自分の気が乱れたことには気がついていた。しかしまだそこまで体調に影響が出ていなかったものだから、もしかしたら大丈夫なのではないかと淡い期待さえしていたのだが。
寝て起きてみたら、全然、駄目になっているとは。
「畜生……!」
悔しくて、床へ拳を叩きつけた。
こんなにも、好きだというのに。
ーーーなんで、勝手に死んでんだよ!
幾度も幾度も、心の中で怒鳴ってきた言葉である。
終わったことを「こうだったら良かった」と考えるのは、無意味だと知っている。知っているけれど、そう思わざるを得ない。
敦盛が生きてさえいたら。こんなことで困らなくて良かった。熊野の連中を説き伏せるだけで、事足りた。
「……」
ぽたり、衾の上へ涙の滴が落ちた。
いっそのこと、蘇ってくれなければ良かった。
だって敦盛が蘇って八葉にならなければ、彼をこんなふうに好きになることはなかった。死んだままであれば、せいぜい彼の死を数年後に知り、すこし悲しむ程度で済んだろうに。
……などと考え始める自分を、これももう何度目か、叱咤する。だってもう、そんなことを言ったってしようがない。彼は蘇り、行動を共にしており、自分はかなり、彼を愛おしいと思うようになってしまった。後からどうこうできることでは、ない。
と、廊下からきしきしと足音が聞こえてきて、ヒノエは咄嗟に寝転び衾を頭の上まで被った。案の定、足音は自分のすぐ近くで止まり、「ヒノエ、もう飯できてるぞ」譲の声が、降ってきた。
「ちょっと……身体が怠くてね。悪いけど、食べといてくんない」
「そうなのか。大丈夫か?」
「んー……。もう少し寝ることにするよ」
「分かった。昼にはちゃんと食べるんだぞ」
「ん。……ありがとう」
きしきし、遠ざかっていく足音。涙声にならずに話せてよかった。衾から顔を出して、涙を拭った。
しかしこれで、敦盛はさらに触れさせてくれなくなるだろうなと思う。それが悔しくて、また涙が溢れてきた。頭もがんがんと痛む。「畜生」一人呟き、目元を擦ると目を閉じた。今はもう一度寝て、自分の気の乱れが何とかなるまでやり過ごすしかない。