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守りたいひと

「本当は、何なんですか」

庭を出ていく皆を見送ると、弁慶はすかさず景時に聞いた。

「何が?」
「脚が痛い理由ですよ。転んで石が刺さったなんて、嘘なんでしょう」

言えば、「はは」と景時の乾いた笑い。笑っているのは口元だけ。目元には、暗い翳りをたたえている。

「すごいな。なんで分かったの?」
「目線の動きとか、言葉の行間とかですかね」
「ふふ、怖いなぁ。そのうち、オレの隠し事ぜ〜んぶ暴かれちゃいそうだ」
「そうできればいいとは、思ってしまいますけどね」

弁慶自身、隠し事の多い自覚があるので。人の秘密をそう簡単に知りたいと言うのはどうなのかとは思うのだが、いかんせん彼のことを好きだから。好きな人のことを知りたいと思わないのは、どうやら無理らしいので……。

「ところで、さっきの質問に答えて頂けますか。脚を怪我したのは、何故なのか」
「んー……」

景時が、どこへともなく視線を逸らす。そんなに言いたくないことなのか。
弁慶が、気を遣って引き下がった方がいいのだろうかと考え始めた頃、景時が「ま、君になら言っちゃってもいっか」と。

「誰にも言っちゃ駄目だよ」
「分かってますよ」
「ん……。ほんとはね、厨の包丁で刺しちゃったんだ」
「厨の包丁? 朝餉を作るときということですか」
「ううん。違うよ」
「ですよね。朝餉は譲くんや朔殿が用意されていたはず……。君が朝っぱらから厨へ行く用なんてあったんですか?」
「いいや。……そもそも、怪我をしたのは朝でもないんだ、本当は」
「昨日の晩、ということですか」
「そうそう」
「……」

先ほどから気になっていたけれど、景時が一向に核心の答えを言ってくれない。
僕に、推理させようというのか。
どういう意図だろう。知られたくないという思いと知って欲しいという思いがない混ぜになっているということだろうか。
……まあいい。考えることは得意だ。景時が当てて欲しいなら、付き合ってやることとする。

「夜食でも作ろうと思ったんですか」
「んー、暗い中で料理する気にはなれないなぁ」
「賊でも入ったとか」
「はずれ」
「では、賊ではない誰か?」
「お。当たらずとも遠からず」
「邸の人間なんですね」
「そうだね」

……そうだねって……。

「門番、ですか」
「ううん」
「……となると、仲間しかいなくなるんですが」

朔や望美、白龍や八葉の者が景時に攻撃するとは考えにくく、弁慶は悩む。
喧嘩でもしたのだろうか。しかしそれで包丁まで持ち出したとしたら、よっぽどだぞ。

「朔殿ですか?」
「あはは、朔はそんなことしないよ」
「白龍や望美さんではないでしょうし……」
「うんうん」
「……八葉の、誰か?」
「そう。だいぶ絞られたね」
「九郎と僕はあちらに帰っていたし、将臣くんはいないし。景時自身は除外して……」

そこまで言うと、くすくす、景時が笑い出した。一体何だと驚き、一拍置いて、気づいた。気づいて、しまった。

「まさか、自分で?」

ほぼそれが答えだという反応をされているのは、分かっている。けれど違うと言って欲しかった。だってそれはあまりにも。あまりにも……。
しかし、そんな弁慶の思いも儚く、

「当たり」

と。

「ま、ここまで言ったら外しようないよね」

また、景時がくすくすと笑った。
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