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信じる、君を

厳島、舞台。
ごうごうと、暗く淀んだ風が吹き荒れる。この野郎清盛め、と柄にもなく悪態をつきそうになったのを、弁慶はなんとか堪えた。望美のいる前だ……という前に、そんな場合ではない。

決死の作戦。望美と協力して、清盛を滅ぼし黒龍の逆鱗を破壊した。これで争いが終わりへ向かう……はずだった。
黒龍の逆鱗から現れたのは、清盛に呪詛され荒魂(あらみたま)となった黒龍であった。そんなものを、二人だけで相手できるとは到底思えない。

「これで君は、自分の世界へ帰ってください」

預けられていた白龍の逆鱗を差し出しながら言うと、望美が、キッとこちらを睨んだ。

「嫌です! 弁慶さんを置いて逃げるなんて」
「ですがこうなってしまっては仕方がありません。手は尽くしたんです。本当に頑張った。僕も、君も」
「でも!」
「君は、君と僕の二人だけであれをーーー正気を失い荒ぶる神を、どうにかできると思っているんですか」
「……っ! でも、嫌です! 何かないんですか。何か、いい方法は……!」
「………」

ここまでに、弁慶は策を練りに練っている。あらゆる可能性を考え、これがこう来た場合にはこうと、いくつもいくつも保険をかけている。
実はこうなるのも、予想の範疇であった。清盛と黒龍の逆鱗をどうにかできたとしても、最悪最後にこうなることもあろうと思っていた。だから、それに対してももちろん、策がある。ある……けれど。上手くいく確率が低すぎて、望美に言ってもいいものか。

ーーーだって、いくら頼まれたからって、源氏にいた頃の仲間が助けに来てくれると思うか? あんなに手酷く裏切っておいて。しかも、来てくれたとしても、間に合うかどうかも分からない。

「策が、ないことはないんです。けれどあまり自信がない。ですからやはり君は」

元の世界へ逃げてください。そう、言おうとしたところへ、

「弁慶!!」

後ろから自分の名を呼ぶ声がした。振り返ると、必死の形相で走ってくる人影。
ーーー景時。
その後から、九郎やらヒノエやら、他の者も走ってくる。

「景時!」
「はあ、はあ……、ま、間に合った、よね」
「ええ。……信じてくれたんですね、僕を」
「言ったでしょ、信じて待ってるって。……まあ、実際には行く側だったけどね。皆も同じ思いだったよ。君を助けに行きたいって言ったら、誰も反対しないで来てくれた」
「………」

ーーー感激、だ。
僕は、なんていい人たちに囲まれているのだろう。まずいな、そんな暇はないのに。目の前が滲んできた。目尻に溜まってきた涙をさっと拭いなんとか止めて、気持ちを切り替える。

「私、もう逃げなくていいですよね」

しっかりと剣を握り、望美が言う。弁慶は、自分も薙刀を握り直して頷いた。二人では駄目でも、皆がいれば何とかなるかも知れない。いや、絶対に何とかなる。
すぐに、他の者も駆けつけた。黒龍が吠える。最後の戦いが、始まる。
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