嫉妬
その日有川邸に帰ると、ヒノエが「ソファ」とかいうものに座って居眠りをしていた。それ自体は、いいのだ。彼は好奇心が旺盛で色々なところを飛び回っているから、疲れているだろうし。
ただ、問題は、
「よう、おかえり、敦盛」
「ま……さ、おみ殿」
将臣にもたれかかって、眠っていることだ。
「今日もあれか? 図書館行ってたのか」
「は、はい」
「そうか。気に入った場所ができてよかったな」
「……はい」
将臣の話が、全然頭に入って来ない。
ーーーいらいらする。
きっと偶然二人が並んで座っていて、そしてたまたまヒノエが眠くなって、そこにいた将臣にもたれかかることになったのだろう。ただ、それだけのこと。分かる。分かるけれど、それが嫌。
「将臣殿、その……ヒノエが」
「ん? ああー、そうなんだよ。今日はだいぶ歩いたみたいでさ。疲れたらしくて、いつの間にか寝ちまった」
「……そうなんですか」
常と変わらぬ様子の将臣。その言葉に、偽りなどないのだろう。だってヒノエは自分を好きであるはずで、ヒノエと自分はそういう関係であるはずだ。ヒノエが自分に向けてくるような感情を、将臣にも向けているようなことはきっとない。将臣がヒノエを好きであるということも、多分ない。
……など、色々頭の中で言ってはみるけれど。どうにもこうにも今目の前に広がる情景が、気に入らないったら仕方ない。
「……おーい、敦盛?」
「え、あ、」
声を掛けられて、我に返った。気に入らないという心持ちが、随分と顔に出ていたらしい。何かを察したらしい将臣が、「心配すんなって、今起こすからさ」と。
「おいヒノエ、起きろ」
「あ……いや心配など……」
言いながらヒノエを軽く揺さぶる将臣に、敦盛はろくに何も言い返せない。恥ずかしくて、かあ、と顔に熱が集まってくる。
「……んん」
元々深い眠りでもなかったのだろう、いくらもしないうちにヒノエが薄く目を開けた。将臣にもたれていた身体を起こして、ふああと欠伸をする。……呑気なものだ。
「そろそろ起きろよ。敦盛が帰ってきたぜ」
「ええ? ……あー、おかえり」
「た、ただいま……」
「んじゃ、俺は部屋に戻るからな」
引き止める間もなく、将臣がすたすたと部屋を出て行った。
残された、ヒノエと敦盛。敦盛はとりあえず、ヒノエの隣に座った。
「随分と気持ちが良さそうに眠っていたな」
「そうかな……お前は随分、機嫌が悪そうだね」
……誰のせいだと思っているんだ。
「……そんなことはない」
「あるって。お前気づいてないの? めちゃくちゃ顔に出てるぜ」
「…………」
どうしたんだよと聞いてくる彼に、何でもないと返す。機嫌が悪くないとヒノエに言っておきながら、態度に出てしまう自分も嫌になってくる。
「何でもなくないだろ」
「だからそんなことは………」
「なに、俺が将臣にもたれて寝てたのが気に食わなかったわけ」
「………………」
まさにそこ、というところを突かれて、黙ってしまう。そこへ触れてほしくないなら、違うと一言だけでも言えば良かった。だか、言葉が出なかった。
嘘を吐く時機を逃してしまった。かと言って、素直にそうだとも言えないのでは、きまり悪く押し黙り続ける他ない。
「妬いてくれたんだ」
にやにやとヒノエが勝ち誇ったような笑みで身を寄せてくる。それがまた、悔しい。
「嬉しー」
「嬉しいって……」
「安心しなよ。心配しなくても、俺が心から愛してるのはお前だけ。この間もそう言ったじゃん」
「う、うるさい」
かわいい、と頭を撫でてくるヒノエ。かわいくなどない。女人ではないのだから、そんなことをされても嬉しくない……はずなのに。
彼の手を跳ね除ける気が起こらないのは、顔が熱くて彼の方を見られないのは。一体、どうしてなのだろう。
ただ、問題は、
「よう、おかえり、敦盛」
「ま……さ、おみ殿」
将臣にもたれかかって、眠っていることだ。
「今日もあれか? 図書館行ってたのか」
「は、はい」
「そうか。気に入った場所ができてよかったな」
「……はい」
将臣の話が、全然頭に入って来ない。
ーーーいらいらする。
きっと偶然二人が並んで座っていて、そしてたまたまヒノエが眠くなって、そこにいた将臣にもたれかかることになったのだろう。ただ、それだけのこと。分かる。分かるけれど、それが嫌。
「将臣殿、その……ヒノエが」
「ん? ああー、そうなんだよ。今日はだいぶ歩いたみたいでさ。疲れたらしくて、いつの間にか寝ちまった」
「……そうなんですか」
常と変わらぬ様子の将臣。その言葉に、偽りなどないのだろう。だってヒノエは自分を好きであるはずで、ヒノエと自分はそういう関係であるはずだ。ヒノエが自分に向けてくるような感情を、将臣にも向けているようなことはきっとない。将臣がヒノエを好きであるということも、多分ない。
……など、色々頭の中で言ってはみるけれど。どうにもこうにも今目の前に広がる情景が、気に入らないったら仕方ない。
「……おーい、敦盛?」
「え、あ、」
声を掛けられて、我に返った。気に入らないという心持ちが、随分と顔に出ていたらしい。何かを察したらしい将臣が、「心配すんなって、今起こすからさ」と。
「おいヒノエ、起きろ」
「あ……いや心配など……」
言いながらヒノエを軽く揺さぶる将臣に、敦盛はろくに何も言い返せない。恥ずかしくて、かあ、と顔に熱が集まってくる。
「……んん」
元々深い眠りでもなかったのだろう、いくらもしないうちにヒノエが薄く目を開けた。将臣にもたれていた身体を起こして、ふああと欠伸をする。……呑気なものだ。
「そろそろ起きろよ。敦盛が帰ってきたぜ」
「ええ? ……あー、おかえり」
「た、ただいま……」
「んじゃ、俺は部屋に戻るからな」
引き止める間もなく、将臣がすたすたと部屋を出て行った。
残された、ヒノエと敦盛。敦盛はとりあえず、ヒノエの隣に座った。
「随分と気持ちが良さそうに眠っていたな」
「そうかな……お前は随分、機嫌が悪そうだね」
……誰のせいだと思っているんだ。
「……そんなことはない」
「あるって。お前気づいてないの? めちゃくちゃ顔に出てるぜ」
「…………」
どうしたんだよと聞いてくる彼に、何でもないと返す。機嫌が悪くないとヒノエに言っておきながら、態度に出てしまう自分も嫌になってくる。
「何でもなくないだろ」
「だからそんなことは………」
「なに、俺が将臣にもたれて寝てたのが気に食わなかったわけ」
「………………」
まさにそこ、というところを突かれて、黙ってしまう。そこへ触れてほしくないなら、違うと一言だけでも言えば良かった。だか、言葉が出なかった。
嘘を吐く時機を逃してしまった。かと言って、素直にそうだとも言えないのでは、きまり悪く押し黙り続ける他ない。
「妬いてくれたんだ」
にやにやとヒノエが勝ち誇ったような笑みで身を寄せてくる。それがまた、悔しい。
「嬉しー」
「嬉しいって……」
「安心しなよ。心配しなくても、俺が心から愛してるのはお前だけ。この間もそう言ったじゃん」
「う、うるさい」
かわいい、と頭を撫でてくるヒノエ。かわいくなどない。女人ではないのだから、そんなことをされても嬉しくない……はずなのに。
彼の手を跳ね除ける気が起こらないのは、顔が熱くて彼の方を見られないのは。一体、どうしてなのだろう。
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