ボーイズ・トーク
白龍の神子一行は、宿をとっていた。
もう夜も更けた。八葉部屋、もとい男子部屋も、そろそろ寝ようという空気になっていた。
そんなに広くもない部屋に九人の男が寝るのだから、ぎゅうぎゅうである。爽やかで飄々としたヒノエや、女性のような顔立ちの敦盛がいるとはいえ、男ばかりが九人一つの部屋に集まるとーーーーはっきり言って、むさ苦しい。
しかし、もとよりそんなことはあまり気にする方でもない敦盛は、いつものように寝ようとしていた。
今日は右隣にヒノエ、左隣に弁慶が眠る配置だ。
衾を被ってしばらく経ったところで、ヒノエが声をかけてきた。
「なあ、お前ってさあ」
何だ、と答える代わりに、そちらへ首を向ける。
「ホントに望美が好きなのな」
「んなっ……!?」
敦盛は思わず大きな声を上げていた。
「な、なぜ……いや、そんな、いや……」
焦ってしまって、うまく言葉が紡げない。
確かに自分は望美が好きだ。大好きだ。というか、愛している。
けれど、それを口にしたことなどないし……どうして、知られている?
今が夜で良かった。たぶん、自分の顔は紅くなってしまっているだろうから。
「いやあ、なぜって……見てりゃ分かるよ。お前いつも望美を目で追ってるし、見てるときの表情だって、どこかうっとりしてるっていうか。ま、それは俺もだけどね」
「………」
嘘だ、ばれていたなんて……
「あと、たまに寝言でも言ってますよ。神子、って」
突然会話に参加してきた弁慶の方へ、がばっと向いた。
「べ、弁慶殿、起きてっ……!?」
「ふふ、もちろんですよ」
弁慶の口元が、にまり、と緩んだのが、暗闇の中でも見てとれた。
「ヒノエは聞いたことはありませんか? 敦盛君の寝言」
「さあ、俺は聞いたことないけど」
「そうなんですか。結構聞きますけどね。昨日なんか、何回『神子』と呼んでいるのを聞いたことか。一体何の夢を見ていたんですか?」
「ちょ、ちょっ……」
勝手に話を進めないでくれ。 というか、本人の目の前でそんな……
「俺も興味あるな。教えてくれよ」
「いや、あの」
神子のことを好きだと告げたら、 神子も私のことを好きだと言ってくれて。 彼女をこの胸に抱き、 そのぬくもりを感じた、そんな夢だった……
などと、言える訳もない。
「……」
「ふふ……からかいすぎるのもよくありませんね」
あまりに何も答えられない敦盛を見かねて、弁慶が困ったように少しだけ笑った。
ああ答えなくて済む、と敦盛がほっとした瞬間、
「告白してしまわねえの?」
「なっ……こっ……!?」
ヒノエの爆弾発言。
「そんなに好きなんだったらさあ、言えば」
「いや、それは……できない」
怨霊である身で、そんなことはできない。 消えることが定められている、この穢れた身で。
だから、敦盛は決して想いは告げないとかたく心に決めているのだ。
「えー? 何でさ。たぶん、望美もお前に気があると思うけどね。……悔しいけど」
「え」
「ああ、それは僕も思いますね。実は最近、望美さんと敦盛くんの関係がもどかしくってたまらないんです、僕」
「俺もだよ。ーーーなあ、皆もそう思うだろ?」
「み、皆?」
「………」
と、これまで寝たフリを決め込んでいた他の八葉たちの気配が浮き立ってきた。
「もしかして……皆、この話を聞いて」
敦盛がわなわなと言うと、どこからか景時の声がする。
「……ごめんね」
嘘だ……
「あ……でも、白龍は大丈夫、寝てるから」
申し訳なさそうな、譲の声も聞こえる。
しかし、白龍が聞いていなかったところで何の慰めにもならない。
ああもう、色々と終わった。
敦盛は、とにかく一刻も早くこの場から抜け出したかった。
「……私は、もう眠るから」
顔が熱くて実際のところちっとも眠れそうではないのだが、早くこの話を終わらせたくて、敦盛は言った。
「そうですね。明日も早いですし。いい加減寝ますか」
隣で弁慶も言う。
その後、敦盛以外の八葉は眠る中、敦盛は寝付けなかったのは言うまでもない。
* * * * * *
朝、宿を出たところで八葉組と女子組が合流した。
望美が、声をかけてくる。
「おはようございます、敦盛さん」
「あ、ああ」
と、普通に答えたはずであるのに、ここで望美が はっとしたような顔をした。……なんだ?
「敦盛さん、昨日よく眠れなかったんですか?」
「えっ、いや、別に」
敦盛はどきりと目を逸らした。あの話のあと、案の定長いこと眠れなかったのだ。 心配そうに見つめてくる望美には申し訳ないが、昨晩のことが思い出されて彼女の顔を見ることができない。
「でも、隈、できてますよ。何か悩みがあるなら私、話だけでも」
「いや、いい。平気だから」
ーーーなどという、やりとりを見守る、他の八葉たちの生暖かい視線。敦盛は気づいているのか、いないのか。
もう夜も更けた。八葉部屋、もとい男子部屋も、そろそろ寝ようという空気になっていた。
そんなに広くもない部屋に九人の男が寝るのだから、ぎゅうぎゅうである。爽やかで飄々としたヒノエや、女性のような顔立ちの敦盛がいるとはいえ、男ばかりが九人一つの部屋に集まるとーーーーはっきり言って、むさ苦しい。
しかし、もとよりそんなことはあまり気にする方でもない敦盛は、いつものように寝ようとしていた。
今日は右隣にヒノエ、左隣に弁慶が眠る配置だ。
衾を被ってしばらく経ったところで、ヒノエが声をかけてきた。
「なあ、お前ってさあ」
何だ、と答える代わりに、そちらへ首を向ける。
「ホントに望美が好きなのな」
「んなっ……!?」
敦盛は思わず大きな声を上げていた。
「な、なぜ……いや、そんな、いや……」
焦ってしまって、うまく言葉が紡げない。
確かに自分は望美が好きだ。大好きだ。というか、愛している。
けれど、それを口にしたことなどないし……どうして、知られている?
今が夜で良かった。たぶん、自分の顔は紅くなってしまっているだろうから。
「いやあ、なぜって……見てりゃ分かるよ。お前いつも望美を目で追ってるし、見てるときの表情だって、どこかうっとりしてるっていうか。ま、それは俺もだけどね」
「………」
嘘だ、ばれていたなんて……
「あと、たまに寝言でも言ってますよ。神子、って」
突然会話に参加してきた弁慶の方へ、がばっと向いた。
「べ、弁慶殿、起きてっ……!?」
「ふふ、もちろんですよ」
弁慶の口元が、にまり、と緩んだのが、暗闇の中でも見てとれた。
「ヒノエは聞いたことはありませんか? 敦盛君の寝言」
「さあ、俺は聞いたことないけど」
「そうなんですか。結構聞きますけどね。昨日なんか、何回『神子』と呼んでいるのを聞いたことか。一体何の夢を見ていたんですか?」
「ちょ、ちょっ……」
勝手に話を進めないでくれ。 というか、本人の目の前でそんな……
「俺も興味あるな。教えてくれよ」
「いや、あの」
神子のことを好きだと告げたら、 神子も私のことを好きだと言ってくれて。 彼女をこの胸に抱き、 そのぬくもりを感じた、そんな夢だった……
などと、言える訳もない。
「……」
「ふふ……からかいすぎるのもよくありませんね」
あまりに何も答えられない敦盛を見かねて、弁慶が困ったように少しだけ笑った。
ああ答えなくて済む、と敦盛がほっとした瞬間、
「告白してしまわねえの?」
「なっ……こっ……!?」
ヒノエの爆弾発言。
「そんなに好きなんだったらさあ、言えば」
「いや、それは……できない」
怨霊である身で、そんなことはできない。 消えることが定められている、この穢れた身で。
だから、敦盛は決して想いは告げないとかたく心に決めているのだ。
「えー? 何でさ。たぶん、望美もお前に気があると思うけどね。……悔しいけど」
「え」
「ああ、それは僕も思いますね。実は最近、望美さんと敦盛くんの関係がもどかしくってたまらないんです、僕」
「俺もだよ。ーーーなあ、皆もそう思うだろ?」
「み、皆?」
「………」
と、これまで寝たフリを決め込んでいた他の八葉たちの気配が浮き立ってきた。
「もしかして……皆、この話を聞いて」
敦盛がわなわなと言うと、どこからか景時の声がする。
「……ごめんね」
嘘だ……
「あ……でも、白龍は大丈夫、寝てるから」
申し訳なさそうな、譲の声も聞こえる。
しかし、白龍が聞いていなかったところで何の慰めにもならない。
ああもう、色々と終わった。
敦盛は、とにかく一刻も早くこの場から抜け出したかった。
「……私は、もう眠るから」
顔が熱くて実際のところちっとも眠れそうではないのだが、早くこの話を終わらせたくて、敦盛は言った。
「そうですね。明日も早いですし。いい加減寝ますか」
隣で弁慶も言う。
その後、敦盛以外の八葉は眠る中、敦盛は寝付けなかったのは言うまでもない。
* * * * * *
朝、宿を出たところで八葉組と女子組が合流した。
望美が、声をかけてくる。
「おはようございます、敦盛さん」
「あ、ああ」
と、普通に答えたはずであるのに、ここで望美が はっとしたような顔をした。……なんだ?
「敦盛さん、昨日よく眠れなかったんですか?」
「えっ、いや、別に」
敦盛はどきりと目を逸らした。あの話のあと、案の定長いこと眠れなかったのだ。 心配そうに見つめてくる望美には申し訳ないが、昨晩のことが思い出されて彼女の顔を見ることができない。
「でも、隈、できてますよ。何か悩みがあるなら私、話だけでも」
「いや、いい。平気だから」
ーーーなどという、やりとりを見守る、他の八葉たちの生暖かい視線。敦盛は気づいているのか、いないのか。
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