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手に入らぬひと

「はあ……」

弁慶は、皆には気づかれないよう、静かにため息をついた。
源氏が劣勢だから、ではない。いわゆる恋のお悩みというやつだ。我ながららしくないと思うが、

(だって、貴女は今までの女性とは違う)

視線の先には、白龍の神子ーーー望美がいる。
彼女はちょっと褒めてやったらなびいてくるような女性ではない。すなわち、弁慶が今まで手に入れたいと思った女性にしてきたことは、通用しない。

厄介だ。
……だからこそ、こんなにも惹かれてしまったのだが。

加えてもっとまずいこともある。いつも望美の視線の先にいるのは、自分ではなく敦盛であった。
彼女が優しい笑みを向けるのも、嬉しそうに照れるのも、彼の前だけ。哀しいかな、ずっと彼女を見てきた弁慶には、それが分かってしまう。おそらく、敦盛の方も望美に惹かれているのだろうということも含めて。

(あんな仲に、入れる訳ないじゃないですか)

だから弁慶は決めたのだ。
この想いは、心の深淵に沈めてしまおうと。

(……決めたのに)

気がつくと、どうすれば彼女が自分のものになるのか策を練っている。

無理矢理……なんて、いけないし。
敦盛の方をどうにかしてしまうか。
望美を薬で眠らせて、どこか遠いところへさらってしまうか。

思い浮かんでくるのは強引な手ばかり。
らしくないなと、自分でも思う。

「戦の方が、よっぽど楽だ」

自嘲気味に小さく笑うと、隣を歩く九郎が訝しげにこちらを見た。

「弁慶、どうかしたのか?」

いけない、つい口に出してしまっていた。
この想い、誰にも知られてしまう訳にはいかない。

「ふふっ、何でもありませんよ」

にっこりと、誤魔化す他あるまい。
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