君といられる喜びを。─短編集─
あなたのお名前は?
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同窓会の二次会の格好で外をうろつくと大抵ろくなことがない。というのは、迷信じゃなく私の実体験によるものだ。同窓会に限らずそういうイベント事の後は面倒事が起きやすい。
つい先程、中高と一緒だった同級生に「指輪と苗字と俺の人生、全部あげる」とプロポーズまがいの恥ずかしすぎる言葉を公共の場で言われた私。
どうしていいかわからなくなって、混乱したまま行きつけのバーに逃げてきたのだった。
「付き合ってもないのにいきなりプロポーズてアホちゃう……空気も読まんし……最悪」
「おお、えらい機嫌悪いな」
すぐ近くで放たれた言葉に思わず伏せていた顔をあげる。と、空席だった隣はいつの間にかよく見知った顔で埋まっていた。
「あ……宮君、お疲れ様」
「おつかれー。いやー災難やったな。俺としてはおもろいもん見れて良かったけど」
「趣味悪いなぁ、宮君もあいつも」
そう、同じ学校の同級生である宮侑君もまた、私がプロポーズされた現場にいたのだ。頭が真っ白になった時咄嗟に探したのは、どうしてか彼の姿だった。一瞬目が合って、いても立ってもいられなくなって飛び出してきた……というのがほんとのところだ。
だから、気に入ったバーに知り合いがいるからというのもあるが……そういう経緯もあって何だかすわりが悪い。
「自分を過小評価し過ぎやって。ええやん、ロマンチックで」
「ほんまにそう思ってんの?」
「だって俺の全部をやる!って言ってるんやで。俺ケチやからそんなこと出来ん。かっこええやん」
ドライマティーニ一つ!と無邪気な笑顔でマスターに注文を入れる。
「……渋いの飲むな」
「えー、女の子の前なんやからかっこつけさせてや」
「今更かっこつけんでも、かっこええことくらい知っとるわ」
氷がカラン、と溶ける音が響く。会話が途切れたことで自然と振り返りタイムに入り、あれ?私なんか変なこと言った?と思いながら自分の顔と並行に伸びるテーブルをぼーっと見つめた。
「自分、付き合うとか結婚とか興味無いん?」
再び後頭部に質問をぶつけられ、姿勢を崩すこと無く「ない」とばっさり切り捨てる。 自分に言い聞かせる。
「そもそもそんな人と出会えるとも思ってへん。運命の人とか言うけど、その気が無かったら運命の人でも発展せんて」
「〝って思ってたのに〟って話がオチやんか。さっき愛の告白してきた奴が運命の人やったかも知れんよ」
「あれはなんか……ちゃう気がするわ」
「俺も。名無しさんにはもっとイケメンで高給取りで何でも出来るスパダリがお似合いやで」
「めっちゃ上げてくれるやん。宮君モテるのも分かるわ」
やっと起き上がってお気に入りのカクテルの最後の一口をぐいっと飲み干す。
「そんで宮君は何でこんなとこおるん?」
「いやこっちのセリフやで。俺もようここ来るもん」
「嘘や、見たことないもん」
「バレた?」
何なん、と言葉とは裏腹に全く怒ってない口振りで笑う。
こういう力が抜けて、どうでもいい話が出来るのはありがたい。「本当に常連だったら良かったのに」なんて考えが頭を過ぎり、戒めるようにギュッと眉間を摘んだ。
きっと、彼に、宮侑にそんな時間はない。
昔「他人のやってることにあんま興味無いねん」と何気なく放った私の一言を気に入って、彼が今ここにいるのなら、深入りする権利はない……し、したくない。
誰と会っても「プロバレー選手の宮侑」であることは疲れるんじゃないかと容易に想像がつく。たとえ全部私の想像に過ぎなくて、本人は全く気に留めていなかったとしても。
そうしたら、私はただの〝通過点〟だ。
追加のカクテル、やめとくか。
何だか惨めになってきた。
「私そろそろ帰るわ」
「そうなん?じゃあ最後に答え合わせしとこか」
「ん?何か問題出されてたっけ」
一瞬浮きかけた腰をまた定位置に戻す。これで何だかんだ朝まで飲まされたりせんよな…と少し不安になったけれど、相手は宮侑だ。そんなことする理由がない。
「俺さっき、名無しさんにはイケメンで高給取りで、何でも出来るスパダリがお似合いやでって言うたやろ?」
「うん?」
「その時名無しさんは宮君がモテるのも分かるわーって返した。これ不正解やな」
「えぇ……なら何が正解なん?」
「そんな人宮君しかおらんなぁ、や。これが、わざわざ自分のことバーまで追っかけてきた男に言う正解」
どんな感情も通り越して、先に頬に笑みが浮かんでしまう。
全く、何を言っているんだろう、この男は。
「私、からかわれてんの?」
「別にどう取ってもらってもええよ」
「何それ。宮君が言い出したんやん」
「全然俺に興味無いなら、そのまま帰ったらええんやで?答え合わせは終わったし」
顔を直視できないのは、ずっとまっすぐ見られてるって分かってるからだ。視線を合わせたら最後、私が自分で隠した〝女〟の部分が顔を覗かせてしまうに決まってる。
危険な男。男だけど、メデューサみたいだ。
「はい、質問はあと一個までな。何でも聞いてくれてええで」
質問……聞きたいこと……。
何か喋ったら質問としてカウントされそうだったので、黙って服の裾を引っ張ると、察した宮君が私と二人分の会計を済ませ外に出てくれた。
何でそんな余裕あるん?
私のどこを好きになったん?
そもそも、ほんまに私のこと好きなん?
そんなこと、聞くだけ野暮だ。今後に繋げられる質問を……今度いつ会える、とか?
あれ、いいんだっけ。
ずっと遠くを歩いている彼の背中を、私が掴んでいいんだっけ。
急かさずずっと待ってくれている彼のピカピカの革靴から、やっと顔を上げた。
「私のこと、幸せにしてくれる……?」
今までの人生の中で、それなりに、適当にこなしてきた私にとって、今が一番目を逸らしちゃいけない時だと直感で思った。
「ばぁちゃんになって死ぬ時に、次生まれ変わっても俺を選ぶって言わせたるわ」
自信満々なように見えて、ちょっと照れてる顔。同じクラス、隣の席で見てたから分かる。
同窓会の二次会の格好でうろつくと大抵ろくなことがないって言ったけれど、やっぱり撤回する。
たまにはいいことも起こるじゃん。
「ありがとう」と素直に笑えて、抱きついたら受け止めてくれるんだから、今はこれで充分だ。単に「好き」と言うより、言われるより、ずっとずっと心が満たされていた。
今はまだ、自信が足りないけれど。
いつか胸を張って、「私が幸せにするよ」と面と向かって言えるような女性になろう。
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つい先程、中高と一緒だった同級生に「指輪と苗字と俺の人生、全部あげる」とプロポーズまがいの恥ずかしすぎる言葉を公共の場で言われた私。
どうしていいかわからなくなって、混乱したまま行きつけのバーに逃げてきたのだった。
「付き合ってもないのにいきなりプロポーズてアホちゃう……空気も読まんし……最悪」
「おお、えらい機嫌悪いな」
すぐ近くで放たれた言葉に思わず伏せていた顔をあげる。と、空席だった隣はいつの間にかよく見知った顔で埋まっていた。
「あ……宮君、お疲れ様」
「おつかれー。いやー災難やったな。俺としてはおもろいもん見れて良かったけど」
「趣味悪いなぁ、宮君もあいつも」
そう、同じ学校の同級生である宮侑君もまた、私がプロポーズされた現場にいたのだ。頭が真っ白になった時咄嗟に探したのは、どうしてか彼の姿だった。一瞬目が合って、いても立ってもいられなくなって飛び出してきた……というのがほんとのところだ。
だから、気に入ったバーに知り合いがいるからというのもあるが……そういう経緯もあって何だかすわりが悪い。
「自分を過小評価し過ぎやって。ええやん、ロマンチックで」
「ほんまにそう思ってんの?」
「だって俺の全部をやる!って言ってるんやで。俺ケチやからそんなこと出来ん。かっこええやん」
ドライマティーニ一つ!と無邪気な笑顔でマスターに注文を入れる。
「……渋いの飲むな」
「えー、女の子の前なんやからかっこつけさせてや」
「今更かっこつけんでも、かっこええことくらい知っとるわ」
氷がカラン、と溶ける音が響く。会話が途切れたことで自然と振り返りタイムに入り、あれ?私なんか変なこと言った?と思いながら自分の顔と並行に伸びるテーブルをぼーっと見つめた。
「自分、付き合うとか結婚とか興味無いん?」
再び後頭部に質問をぶつけられ、姿勢を崩すこと無く「ない」とばっさり切り捨てる。 自分に言い聞かせる。
「そもそもそんな人と出会えるとも思ってへん。運命の人とか言うけど、その気が無かったら運命の人でも発展せんて」
「〝って思ってたのに〟って話がオチやんか。さっき愛の告白してきた奴が運命の人やったかも知れんよ」
「あれはなんか……ちゃう気がするわ」
「俺も。名無しさんにはもっとイケメンで高給取りで何でも出来るスパダリがお似合いやで」
「めっちゃ上げてくれるやん。宮君モテるのも分かるわ」
やっと起き上がってお気に入りのカクテルの最後の一口をぐいっと飲み干す。
「そんで宮君は何でこんなとこおるん?」
「いやこっちのセリフやで。俺もようここ来るもん」
「嘘や、見たことないもん」
「バレた?」
何なん、と言葉とは裏腹に全く怒ってない口振りで笑う。
こういう力が抜けて、どうでもいい話が出来るのはありがたい。「本当に常連だったら良かったのに」なんて考えが頭を過ぎり、戒めるようにギュッと眉間を摘んだ。
きっと、彼に、宮侑にそんな時間はない。
昔「他人のやってることにあんま興味無いねん」と何気なく放った私の一言を気に入って、彼が今ここにいるのなら、深入りする権利はない……し、したくない。
誰と会っても「プロバレー選手の宮侑」であることは疲れるんじゃないかと容易に想像がつく。たとえ全部私の想像に過ぎなくて、本人は全く気に留めていなかったとしても。
そうしたら、私はただの〝通過点〟だ。
追加のカクテル、やめとくか。
何だか惨めになってきた。
「私そろそろ帰るわ」
「そうなん?じゃあ最後に答え合わせしとこか」
「ん?何か問題出されてたっけ」
一瞬浮きかけた腰をまた定位置に戻す。これで何だかんだ朝まで飲まされたりせんよな…と少し不安になったけれど、相手は宮侑だ。そんなことする理由がない。
「俺さっき、名無しさんにはイケメンで高給取りで、何でも出来るスパダリがお似合いやでって言うたやろ?」
「うん?」
「その時名無しさんは宮君がモテるのも分かるわーって返した。これ不正解やな」
「えぇ……なら何が正解なん?」
「そんな人宮君しかおらんなぁ、や。これが、わざわざ自分のことバーまで追っかけてきた男に言う正解」
どんな感情も通り越して、先に頬に笑みが浮かんでしまう。
全く、何を言っているんだろう、この男は。
「私、からかわれてんの?」
「別にどう取ってもらってもええよ」
「何それ。宮君が言い出したんやん」
「全然俺に興味無いなら、そのまま帰ったらええんやで?答え合わせは終わったし」
顔を直視できないのは、ずっとまっすぐ見られてるって分かってるからだ。視線を合わせたら最後、私が自分で隠した〝女〟の部分が顔を覗かせてしまうに決まってる。
危険な男。男だけど、メデューサみたいだ。
「はい、質問はあと一個までな。何でも聞いてくれてええで」
質問……聞きたいこと……。
何か喋ったら質問としてカウントされそうだったので、黙って服の裾を引っ張ると、察した宮君が私と二人分の会計を済ませ外に出てくれた。
何でそんな余裕あるん?
私のどこを好きになったん?
そもそも、ほんまに私のこと好きなん?
そんなこと、聞くだけ野暮だ。今後に繋げられる質問を……今度いつ会える、とか?
あれ、いいんだっけ。
ずっと遠くを歩いている彼の背中を、私が掴んでいいんだっけ。
急かさずずっと待ってくれている彼のピカピカの革靴から、やっと顔を上げた。
「私のこと、幸せにしてくれる……?」
今までの人生の中で、それなりに、適当にこなしてきた私にとって、今が一番目を逸らしちゃいけない時だと直感で思った。
「ばぁちゃんになって死ぬ時に、次生まれ変わっても俺を選ぶって言わせたるわ」
自信満々なように見えて、ちょっと照れてる顔。同じクラス、隣の席で見てたから分かる。
同窓会の二次会の格好でうろつくと大抵ろくなことがないって言ったけれど、やっぱり撤回する。
たまにはいいことも起こるじゃん。
「ありがとう」と素直に笑えて、抱きついたら受け止めてくれるんだから、今はこれで充分だ。単に「好き」と言うより、言われるより、ずっとずっと心が満たされていた。
今はまだ、自信が足りないけれど。
いつか胸を張って、「私が幸せにするよ」と面と向かって言えるような女性になろう。
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