恋の病に薬なし!
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ホンット変わってるーfeat. イデア ー
✱
私の頭の中でがおがおドラコーンくんとたまごっちが共鳴した時、今日一番大きな声が出たと思う。いや、今日の一番は錬金術の授業でマンドラゴラに追いかけられた時かもしれない。
ゲストルームで作れないだろうか。
まさか私に機械いじりのスキルなんてないから、イデア先輩に手伝ってもらわないといけないけれど。
そう思いつけば、行動に移すのは早かった。
「あー……まあ別にいいけど」
「さすがに無理ですよね……って、いいんですか!?」
「そんな驚かなくても……監督生氏から言い出したんでしょうよ」
イグニハイド寮を訪ね、寮長を見つけて数分。いきなり頼み事は失礼かと思って、それなりに会話が弾んだところで、シャットアウト覚悟で頼んだところ意外にもすんなり受け入れてくれた。
「こ、この前イベントミッション一緒に走ってくれたしね。ボス戦で寝落ち侍には草生えたけど」
「ああああの時は私のせいで順位落ちてしまってごめんなさい……っ!」
「申し訳なく思うなら、今度の新イベは限定SSR3枚獲得圏内に入るまで走るでござるぞ、デュフッ」
「な……!まさか全国100位以内ですか!?そ、そんな目指したこともない順位を一緒に走れと!?」
「出来ないか〜そっか〜。まあ仕方ないですな、そのたまごっち作りとやらを一人で頑張ってくだされ」
まあ確かに、このストレンジャーズというゲームは今や知らない人はいない大人気のオンラインバトルアクションゲームで?飲まず食わずでやり込む猛者もいまして?大会も開かれてるくらいで?ハードルは激高ですな〜〜と笑っているところを見る限り、自分でも無茶な目標だと多少は思っているようだ。
私にはからかっているのか実は手伝いたくないのか分からなかったから、「そんなに手伝いたくないなら、いいんですよ」と純真なふりをした。
この手の返しは、イデア先輩やアズール先輩にはとてもよく効く。
「え?いやいや別に拙者は」
「無茶なお願いしてしまってすみません……。寮長ともあろう人が出来ないなんて言いづらいですもんね、察しが悪くてすみませんでした。オルト君に相談してみます!」
「待って!?明らかに煽られてるの分かるけど待って!?それ拙者が止めなかったらドアの外出て立ち尽くすパターンでしょ!?」
「はい!」
「“はい”!?」
潔すぎてワロタ、と言いながら、画面はすでにたまごっちの制作過程図。あんなに兄を慕う弟がいるんだから、面倒見はいいに決まっているのだ。
「まあいいや、僕に作れないものはないし。ただ再現度に関しては実物がないから、君の思い出の濃さにかかってるけど」
「はい、任せてください!エレメンタリースクールの頃、クラスに持ち込んで怒られたことあるくらいやり込んでましたから!」
「フヒ……君も案外そういうことするんだ……」
それからは、夢中になってたまごっちのことを話した。思い出話を挟んで、画面ともやり取りしているイデア先輩とはあまり目が合わないけど、それはいつものことだから気にならない。
視線以上に相槌とリアクションで補ってくれている。
「……なんか、いいですね、こういう時間」
「え……そう?拙者と話してるだけだが?変わってますな」
「うーん、何というか、たまごっちを通じて私のいた世界のことを知ってもらえたり、向こうの世界での私の話を聞いてもらえるって、凄く嬉しいことだなって思うんです。私は……ここで育った人間じゃないから、共通の話題とか全然なくて、ついていくのに必死だし」
イデア先輩のタイピング音が止まった。
しん、と部屋が静まり返る。しまった、何か気に触ることを言ってしまったかな?と冷や汗をかく。
だから、小さく「分かるよ」と返されて、その意味を理解した時は、きゅっと自分の手を握りしめた。
「イデア先輩、私ずーっと覚えてますからね」
「……何を?」
「S.T.Y.X でこの世を終わらせてやる〜〜!!ってオルト君と結託してヴィル先輩たちと戦ったこと」
「は?拙者そんなセリフ一言も言ってないんだが??捏造にも程があるのでは??」
ぷ、あははっと二人同時に吹き出した。
笑いどころが一緒なだけで、私の心は温まる。
閉め切った部屋でも分かるくらい日が落ちて、気温が下がってきた。
私は途中で二人分の飲み物を買ってきたり、訪ねてきたオルト君とも交流したりしながらプログラミングの終了を待っていた。
「イデア先輩、そろそろ私寮に帰らないと……グリムもお腹空かせてると思うので」
「あー……あと5分待って。もうそろ出来る」
「?はい、わかりました」
出来るって設計図のことだろうか、と首を傾げて椅子に座り直す。にしては図工の授業で使った懐かしい半田ごてみたいなのを使っているし、工具セットみたいなのも登場している。
「……よし、出来た。はい」
自然な動作で差し出されたそれは、イデア先輩の大きな手のひらにちょこんと乗っていて。
丸みのある愛らしいシルエット、チープな黄色の装飾、8ビットで動く懐かしいキャラクターは、ジグザグな体の曲がり角まで忠実に再現されている。
「ありがとうございま……えっ?……えっ!?出来たって……たまごっち自体がもう出来たんですか!?これ!?」
「出来るって言ったでしょ。がおがおドラコーン君と機能ほぼ一緒だし……って、えっ!?泣くほど!?」
「イデア先ぱああぁぁあい……天才ですかぁ?いや知ってるんですけど……本当にもう感動しちゃって……ううう……こんなに早く……ゲームって作れるんだあぁあ…………」
軽々とやってのけてるように見える。こんなに人々を魅了するゲームを一人で、それも一日もかからずつくりあげちゃうなんて。
「……君がいなかったら、もっと早く作ってただろうけど」
「うっ……すみませんうるさかったですよね……一人で盛り上がってしまって……」
「ハァ……もうそういうことでいいよ。マレウス氏に見せたいんでしょ?早く行ってきなよ」
くるりとゲーミングチェアを半回転させて、背中を向けられてしまった。当然、はいじゃあ行ってきますと出て行けるほど私も肝の据わった人間じゃない。
「ツノ太郎に見せたら、一緒にやりませんか?これ」
逆光の背中に問いかける。“これ”とはもちろん、私の手の中にあるたまごっちのことだ。
「え、そういうゆるふわ育成ゲーム拙者あんま興味無いというか……」
「じゃあ飛行術!私が飛行術の授業に出る時だけ預かるって形でいいので!宙吊りになってポケットから落ちちゃうのが怖いし!」
「必死か!?じゃ、じゃあ耐衝撃性の素材に変えてあげるよ。それなら安心でしょ」
「……もう、イデア先輩の馬鹿!」
「はぁ〜〜〜!?なんで?間違ったこと言ってなくない?むしろこんなに親切にしてあげるの監督生氏くらいですぞ!」
そもそも、拙者じゃなくてマレウス氏とやれば?とぶつぶつ小言を言い出す。これでも進歩した方だった。以前は相手にも本気にもされなかったのだから。
「……本当に本当に、だめですか?」
「だめっていうか……一人プレイ用ですしおすし……」
「イデア先輩に会いに行く口実が欲しいんです。だって先輩いっつも面倒くさそうな顔で“何しに来たの”って聞くから……」
「……君って、ほんと恥ずかしいこと平気で言うよね」
俯いた視界の隅に、ほのかに赤みを帯びたイデア先輩の綺麗な髪が映る。ふと顔をあげれば、観念したような薄い照れ笑いに目を奪われた。
「……ホンット変わってる。飛行術の時くらいなら預かってもいいよ」
「……!!ほ、ほんとですか!?やったー!!」
「それとさ、勘違いしないで欲しいんだけど」
喜びの舞を踊る私を遮るように続く言葉。
「心から不思議だったってだけ。君がわざわざ僕に会いに来るのが。……まあ最初は確かに面倒だったけど……今は思ってないよ」
泣きそうなくらい優しい声で言うものだから、私は拳を握りしめて息を止めてしまった。
「……最初は思ってたんですね」
「メチャクチャグイグイくる陽の者じゃん別世界の人間ですわ怖……と思ってた」
「別世界の人間ですけど?」
「いや今マジレスはいいんで……」
「えへへ、とにかくありがとうございました。また次の飛行術の授業の時は預けに来ますね!」
じゃあ今度こそツノ太郎のところに行ってきます!と手を振って先輩の部屋を出た。
こんなにも足取りが軽いなんて初めてのことかもしれない。約束された次があるって、こんなにも嬉しいことなんだ。そう思いながら、頬の緩みを隠しもせず一度オンボロ寮に戻った。
グリムとご飯を食べて、ツノ太郎に見せに行って、そのあとはイデア先輩と一緒にたまごっちが出来る空間をゲストルームにつくろう。
そうやってゲストルームに、私以外の誰かが当たり前のように馴染む空間が増えていく。高そうな材質のソファに、最新鋭の家電、その中の歪に目立つレトロなおもちゃ。
「……ふふっ」
その不自然が、想像するだけで愛おしいものになった。
ホンット変わってるーfeat. イデア ー
✱
私の頭の中でがおがおドラコーンくんとたまごっちが共鳴した時、今日一番大きな声が出たと思う。いや、今日の一番は錬金術の授業でマンドラゴラに追いかけられた時かもしれない。
ゲストルームで作れないだろうか。
まさか私に機械いじりのスキルなんてないから、イデア先輩に手伝ってもらわないといけないけれど。
そう思いつけば、行動に移すのは早かった。
「あー……まあ別にいいけど」
「さすがに無理ですよね……って、いいんですか!?」
「そんな驚かなくても……監督生氏から言い出したんでしょうよ」
イグニハイド寮を訪ね、寮長を見つけて数分。いきなり頼み事は失礼かと思って、それなりに会話が弾んだところで、シャットアウト覚悟で頼んだところ意外にもすんなり受け入れてくれた。
「こ、この前イベントミッション一緒に走ってくれたしね。ボス戦で寝落ち侍には草生えたけど」
「ああああの時は私のせいで順位落ちてしまってごめんなさい……っ!」
「申し訳なく思うなら、今度の新イベは限定SSR3枚獲得圏内に入るまで走るでござるぞ、デュフッ」
「な……!まさか全国100位以内ですか!?そ、そんな目指したこともない順位を一緒に走れと!?」
「出来ないか〜そっか〜。まあ仕方ないですな、そのたまごっち作りとやらを一人で頑張ってくだされ」
まあ確かに、このストレンジャーズというゲームは今や知らない人はいない大人気のオンラインバトルアクションゲームで?飲まず食わずでやり込む猛者もいまして?大会も開かれてるくらいで?ハードルは激高ですな〜〜と笑っているところを見る限り、自分でも無茶な目標だと多少は思っているようだ。
私にはからかっているのか実は手伝いたくないのか分からなかったから、「そんなに手伝いたくないなら、いいんですよ」と純真なふりをした。
この手の返しは、イデア先輩やアズール先輩にはとてもよく効く。
「え?いやいや別に拙者は」
「無茶なお願いしてしまってすみません……。寮長ともあろう人が出来ないなんて言いづらいですもんね、察しが悪くてすみませんでした。オルト君に相談してみます!」
「待って!?明らかに煽られてるの分かるけど待って!?それ拙者が止めなかったらドアの外出て立ち尽くすパターンでしょ!?」
「はい!」
「“はい”!?」
潔すぎてワロタ、と言いながら、画面はすでにたまごっちの制作過程図。あんなに兄を慕う弟がいるんだから、面倒見はいいに決まっているのだ。
「まあいいや、僕に作れないものはないし。ただ再現度に関しては実物がないから、君の思い出の濃さにかかってるけど」
「はい、任せてください!エレメンタリースクールの頃、クラスに持ち込んで怒られたことあるくらいやり込んでましたから!」
「フヒ……君も案外そういうことするんだ……」
それからは、夢中になってたまごっちのことを話した。思い出話を挟んで、画面ともやり取りしているイデア先輩とはあまり目が合わないけど、それはいつものことだから気にならない。
視線以上に相槌とリアクションで補ってくれている。
「……なんか、いいですね、こういう時間」
「え……そう?拙者と話してるだけだが?変わってますな」
「うーん、何というか、たまごっちを通じて私のいた世界のことを知ってもらえたり、向こうの世界での私の話を聞いてもらえるって、凄く嬉しいことだなって思うんです。私は……ここで育った人間じゃないから、共通の話題とか全然なくて、ついていくのに必死だし」
イデア先輩のタイピング音が止まった。
しん、と部屋が静まり返る。しまった、何か気に触ることを言ってしまったかな?と冷や汗をかく。
だから、小さく「分かるよ」と返されて、その意味を理解した時は、きゅっと自分の手を握りしめた。
「イデア先輩、私ずーっと覚えてますからね」
「……何を?」
「
「は?拙者そんなセリフ一言も言ってないんだが??捏造にも程があるのでは??」
ぷ、あははっと二人同時に吹き出した。
笑いどころが一緒なだけで、私の心は温まる。
閉め切った部屋でも分かるくらい日が落ちて、気温が下がってきた。
私は途中で二人分の飲み物を買ってきたり、訪ねてきたオルト君とも交流したりしながらプログラミングの終了を待っていた。
「イデア先輩、そろそろ私寮に帰らないと……グリムもお腹空かせてると思うので」
「あー……あと5分待って。もうそろ出来る」
「?はい、わかりました」
出来るって設計図のことだろうか、と首を傾げて椅子に座り直す。にしては図工の授業で使った懐かしい半田ごてみたいなのを使っているし、工具セットみたいなのも登場している。
「……よし、出来た。はい」
自然な動作で差し出されたそれは、イデア先輩の大きな手のひらにちょこんと乗っていて。
丸みのある愛らしいシルエット、チープな黄色の装飾、8ビットで動く懐かしいキャラクターは、ジグザグな体の曲がり角まで忠実に再現されている。
「ありがとうございま……えっ?……えっ!?出来たって……たまごっち自体がもう出来たんですか!?これ!?」
「出来るって言ったでしょ。がおがおドラコーン君と機能ほぼ一緒だし……って、えっ!?泣くほど!?」
「イデア先ぱああぁぁあい……天才ですかぁ?いや知ってるんですけど……本当にもう感動しちゃって……ううう……こんなに早く……ゲームって作れるんだあぁあ…………」
軽々とやってのけてるように見える。こんなに人々を魅了するゲームを一人で、それも一日もかからずつくりあげちゃうなんて。
「……君がいなかったら、もっと早く作ってただろうけど」
「うっ……すみませんうるさかったですよね……一人で盛り上がってしまって……」
「ハァ……もうそういうことでいいよ。マレウス氏に見せたいんでしょ?早く行ってきなよ」
くるりとゲーミングチェアを半回転させて、背中を向けられてしまった。当然、はいじゃあ行ってきますと出て行けるほど私も肝の据わった人間じゃない。
「ツノ太郎に見せたら、一緒にやりませんか?これ」
逆光の背中に問いかける。“これ”とはもちろん、私の手の中にあるたまごっちのことだ。
「え、そういうゆるふわ育成ゲーム拙者あんま興味無いというか……」
「じゃあ飛行術!私が飛行術の授業に出る時だけ預かるって形でいいので!宙吊りになってポケットから落ちちゃうのが怖いし!」
「必死か!?じゃ、じゃあ耐衝撃性の素材に変えてあげるよ。それなら安心でしょ」
「……もう、イデア先輩の馬鹿!」
「はぁ〜〜〜!?なんで?間違ったこと言ってなくない?むしろこんなに親切にしてあげるの監督生氏くらいですぞ!」
そもそも、拙者じゃなくてマレウス氏とやれば?とぶつぶつ小言を言い出す。これでも進歩した方だった。以前は相手にも本気にもされなかったのだから。
「……本当に本当に、だめですか?」
「だめっていうか……一人プレイ用ですしおすし……」
「イデア先輩に会いに行く口実が欲しいんです。だって先輩いっつも面倒くさそうな顔で“何しに来たの”って聞くから……」
「……君って、ほんと恥ずかしいこと平気で言うよね」
俯いた視界の隅に、ほのかに赤みを帯びたイデア先輩の綺麗な髪が映る。ふと顔をあげれば、観念したような薄い照れ笑いに目を奪われた。
「……ホンット変わってる。飛行術の時くらいなら預かってもいいよ」
「……!!ほ、ほんとですか!?やったー!!」
「それとさ、勘違いしないで欲しいんだけど」
喜びの舞を踊る私を遮るように続く言葉。
「心から不思議だったってだけ。君がわざわざ僕に会いに来るのが。……まあ最初は確かに面倒だったけど……今は思ってないよ」
泣きそうなくらい優しい声で言うものだから、私は拳を握りしめて息を止めてしまった。
「……最初は思ってたんですね」
「メチャクチャグイグイくる陽の者じゃん別世界の人間ですわ怖……と思ってた」
「別世界の人間ですけど?」
「いや今マジレスはいいんで……」
「えへへ、とにかくありがとうございました。また次の飛行術の授業の時は預けに来ますね!」
じゃあ今度こそツノ太郎のところに行ってきます!と手を振って先輩の部屋を出た。
こんなにも足取りが軽いなんて初めてのことかもしれない。約束された次があるって、こんなにも嬉しいことなんだ。そう思いながら、頬の緩みを隠しもせず一度オンボロ寮に戻った。
グリムとご飯を食べて、ツノ太郎に見せに行って、そのあとはイデア先輩と一緒にたまごっちが出来る空間をゲストルームにつくろう。
そうやってゲストルームに、私以外の誰かが当たり前のように馴染む空間が増えていく。高そうな材質のソファに、最新鋭の家電、その中の歪に目立つレトロなおもちゃ。
「……ふふっ」
その不自然が、想像するだけで愛おしいものになった。