*三途春千夜*
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いつからだろう、こんなに自分がおかしくなったのは。
いや、そんなのわかりきっている。全部、あの男のせいだ。
「はるちよ……」
***
それは突然の出来事だった。
人気の少ないホテル街にあるホテルから男と出てきてすぐに、それは起きた。
ドンッ
という音がしたと同時に私は反射的に目を閉じた。
そして薄っすらと目を開けると、そこには先ほどまで一緒にいた男の姿はなく、ピンク色の髪をした、口に傷のある男が立っていた。
男はどこへ行ったのだろうか。
ふと下を見ると、そこは血溜まりだった。
もう一度目の前の男を見ると、その手には銃が握られていた。
「……」
そっか、私はここで死ぬのか。
なんとも呆気ない。
男は無表情で私に歩み寄ってくる。
私の人生はなんだったのだろう。
なんでこんな目に合うんだろう。
好きでもない男に、汚い男に金で買われて、なんで生きているのかわからないまま、死ぬんだ。
「はっ、ははっ」
私は無意識に笑っていた。
それを見た男は私の顎を掴んで不敵に笑う。
「スクラップにするには勿体ねぇな」
***
その日から私の軟禁生活は始まった。
男の名前は「三途春千夜」。梵天という組織に所属していて、私とホテルから出てきた男は梵天の裏切り者の一人だったという。
まあ、あの男と私の関係なんて金でしかなかったし、好きで抱かれていたわけでもなかったから、むしろ死んでくれてよかった。あんな、あんな汚い男。
だから、春千夜はある意味私のヒーローでもある。
そんな昔のことに思いを馳せていると、玄関の鍵が開く音がした。
どうやら春千夜が帰ってきたようだ。
私はソファから動けずにいた。
クスリの副作用だ。
ぐったりとソファに寝そべっている私を見て、春千夜は「元気~?」と声をかけた。
「今日は新しいクスリあるから、それ試そっか」
「はる、ち……」
「はい、あーんして」
言われた通り、口を開ける。
そう、私はもう、春千夜とクスリがなければ生きていけなくなっていた。
ぽい、とクスリを口に入れ、水を口移しされる。
私はされるがまま、そのクスリと水を飲み込んだ。
「即効性があるやつだから、すぐ効くぜ?」
「ん、ぅ……」
じん、と身体の奥が熱くなるのを感じる。これは、媚薬というやつだろうか。
「あっ!?ぅあっ……」
ぺろり、と春千夜が私の首筋を舐める。
それだけで私の身体は大きく跳ねた。
その様子を見て春千夜は満足そうに笑い、自分も私に飲ませたクスリと同じものを飲み込んだ。
しばらくして、春千夜は私に覆いかぶさる。
「あー……、これ効く」
そう言って、私に深く口付ける。
「んっ、む、ぅん……」
春千夜の唾液と自分の唾液が交じり合う。
絡む舌が気持ちいい。
「っはあ……」
春千夜が唇を離すと、私のソコに熱いものが当たっていることに気付く。
「とりあえず、一発ヤっとくか」
クスリが完全に回っている私は、もう入口に当てられた春千夜のソレが欲しいということしか考えられなくなっていた。
***
「春千夜……好き、好き……」
何度春千夜に中で出されただろうか。
ベッドで春千夜に抱き着きながら、私はうわ言のようにひたすら好きと言っていた。
そんな私を春千夜は優しく撫でる。
そう、撫でるだけ。
春千夜は今まで一度も私に「好き」と言ったことはない。
じゃあ何故私をここに閉じ込めるの?
そんなことはとうの昔に考えるのをやめた。
春千夜がいればいい。
あのとき、ホテル街であの男から救ってくれた、私だけのヒーロー。
「春千夜、あいしてる……」
すり、と春千夜の胸にすり寄る。
「——、————」
意識がふわふわとしてきた。春千夜が何か言っている気がするがうまく聞き取れない。
きっと、次のクスリは何にするか、とか、そんなことだと思う。
「はるちよは、わたしのひーろーだよ……」
なぜか、そんな言葉が出た。
***
女をクスリ漬けにして遊ぶのは、何もこれが初めてじゃない。
借金を返せず身体を売るしかなかった女を買ったり、その辺で行く当てもない女を拾ってきたり、とにかくそういう女たちで遊んだ。
「梵天から裏切り者が出た」
それの処理を頼まれた俺は、裏切り者の中の一人を見つけ、容赦なく撃ち殺した。
その隣にいた女も撃ち殺そうと思っていた。
なのに、その女は笑っていた。
今までの女も俺に拾われたときは笑っていた。だけどその女だけは、歪な笑みをこぼしていた。
まるで殺してくれと言わんばかりに、なんの抵抗もなく、返り血を浴びた女は立っていた。
綺麗だ。
初めてそう思った。
全部俺のものにしたい。もっと壊してやりたい。
そんな黒い感情が沸き上がって、気付けばそいつを連れ帰っていた。
名前は「名前」。
名前にも他の女と同じようにクスリを飲ませ続けた。
ただ、名前だけは、捨てるようなことはしたくなかった。
徹底的に俺のものにして、俺の手で壊して、俺が殺す。
そう決めていた。
この感情はなんていうのだろうか。わからない。
「好き」
「愛してる」
名前は俺にそんな言葉を投げかけてくれる。
だけど俺はそれに応えられない。
言ってしまったら、言葉にしてしまったら、きっと俺は名前を壊せなくなるし、殺せなくなると思っているから。
俺の一方的な想いを、名前は受け止めてくれている。
そんな名前にとって、俺は――――。
「俺は、名前にとってどういう存在なんだ?」
隣で俺に抱き着きながら眠る名前に問いかける。
答えなんて返ってこないと知りながら。
「はるちよは、わたしのひーろーだよ……」
そんな言葉が返ってきて。
起きていたのか、と思ったが、スヤスヤと寝息を立てている。
ただの寝言、にしてはタイミングが良すぎる気がするが。
「お前はそのヒーローに殺される運命なんだよ」
まだ壊れて欲しくない、まだ殺したくないと思う自分を消し去るために、俺はクスリに手を伸ばした。
ヒーローに殺される
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