*灰谷兄弟*
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私の大好きな人の髪は、とても綺麗だ。
艶のある黒髪に金色を入れたツートンカラー。
大好きな人の大好きな髪。それを手入れするのが私は何よりも大好きだった。
「竜胆~、風呂上がった~」
あちー、と手でパタパタと首元を扇ぎながら、彼は私の横に座る。
後ろで纏めた髪はまだ濡れていて、私は急いでドライヤーとタオルを取りに洗面所へ走る。
「もう!乾かさないとダメっていつも言ってるでしょ、蘭ちゃん」
「あ?別にいいだろ、放っときゃ乾くんだから」
「そういう問題じゃありません!」
私は蘭ちゃんの後ろに回って、わしゃわしゃとまるで子犬を撫でるようにタオルで髪を拭く。
自然乾燥なんて、そんなことをしたら綺麗な髪が傷んでしまう。それだけは絶対にダメだ。
「兄ちゃん、また名前に髪拭いてもらってんの?」
「名前が勝手にやってるだけだっつの」
あっそ、と素気なく返した竜胆くんはお風呂場へ消えていく。
そんなやり取りなど気にも留めず、私は一通り拭き終えた髪にドライヤーの風を当てていく。
「名前ちゃーん?竜胆に馬鹿にされたんだけど」
「聞こえません!」
「テメェ……あとで絶対犯す」
「どうぞご勝手に」
蘭ちゃんの髪は長い為、乾かすのに少し時間がかかる。多分、それが面倒なのだろう。そんな蘭ちゃんとは違って、竜胆くんはいつもしっかりと乾かしてくるので、竜胆くんがお風呂から上がる前にドライヤーを戻さなければいけない。
私は手早く、それでいて丁寧に、櫛で髪を梳かしながら仕上げの冷風を当てる。
「よし!今日も完璧!」
「何が完璧なのかわからないんだけど」
「蘭ちゃんの髪のコンディションです!」
ふふん、と自慢気に笑う私に蘭ちゃんは呆れつつ、もう一度髪を後ろに束ねる。
私はいそいそとドライヤーを洗面所に戻し、お風呂に入っている竜胆君へ扉越しに「ドライヤー戻したからね!」と声をかけて、蘭ちゃんのもとへ戻る。
「手触りはどう?」
「ん、サラサラ」
蘭ちゃんは自分の髪を触った後、私の頭を撫でる。優しく撫でていたかと思えば、わしゃわしゃと先程私が蘭ちゃんの髪を拭いたときと同じように撫でられた。
「ちょ、ボサボサになる!」
「お返し」
「やーめーてーよー!」
そうやって私と蘭ちゃんがじゃれついていると、お風呂から上がった竜胆くんがまたか、といった表情で目の前を通りすぎ、テレビの電源を点ける。
そんな竜胆くんの格好は、スウェットを履いただけで上半身は裸だった。
「あー!ちょっと竜胆くん!服ちゃんと着て!」
「あちーんだよ」
「身体冷えちゃうでしょ!もう!」
「うるせぇなぁ……」
私は竜胆くんの服を箪笥から引っ張り出し、それを頭にかぶせる。
「おまっ、頭にかぶせんな!」
「そのまま着てくださーい」
その様子を見ていた蘭ちゃんはケラケラと笑っていた。
私が彼らと出会ったのはかれこれ一年くらい前だろうか。
たまたま六本木で私の彼氏が彼らに喧嘩を売ってしまい、見事半殺しにされた。ボコボコに殴られてぼろ雑巾のようになった彼氏を見て、ざまぁみろ、と私は心の中で嘲笑った。
とても自慢のできる彼氏ではなかったし、別れ話を切り出せば手を出してくるクズ。典型的なDV男だった。
その日から私は蘭ちゃんと竜胆くんの家に通うようになった。
「あ、そろそろ帰るね」
「泊まんねーの?」
「昨日泊まったでしょ。それに私明日学校あるし」
帰り支度をする私の背に、蘭ちゃんがのしかかる。垂れてきたサラサラの髪がくすぐったい。
「今日も泊まれよー。学校とか行かなくてよくね?」
耳元で、もっとイイ事したいし、と囁かれ私の鼓動は一気に早くなる。
首に回された腕に力が入り、優しく頬を撫でられた。
「おーい、俺いるんだけど?」
いちゃつくなら他所でやれよ、と言わんばかりに竜胆くんが声をかける。
その瞬間、蘭ちゃんの腕の力が抜け、私はすぐさま荷物を抱えて立ち上がった。
危うく流されるところだった。ありがとう竜胆くん!
「お、お邪魔しましたっ!」
「あ、送っ」
「大丈夫でーす!!」
走り去る私に蘭ちゃんは声をかけるが、私はお構いなしに外へ飛び出る。
別に家までそう遠いわけではない。それに今の蘭ちゃんに送ってもらったりなんてしたらきっと青姦ルート一直線だ。そんなことをしたことはないけれど。
***
「あーあ。行っちゃった」
「……兄ちゃん、わざとだろ」
「ん~?何が?」
「いつも髪乾かさないの」
「バレた?」
「バレバレ」
「だって名前に髪乾かしてもらうの気持ちいいんだもん」
「名前のどこがいいのか俺にはわかんねー」
「竜胆はわかんなくていーの。名前は俺のだから」
世話焼きなカノジョ。