*佐野万次郎*
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夜の9時頃にマイキーからメールがきた。
内容はたった一言。
”今すぐいつもの神社に来て”
何事かと思い、私はお母さんに少しだけ出てくる、と言って急いで神社へ向かった。
***
神社の階段を登りきると、賽銭箱の前にマイキーはいた。
私は「マイキー」と彼の名を呼ぶが、返事が返ってこない。
「ねえ、マイキー。どうし――――」
「別れよう」
「……え……?」
今、なんて?
私はマイキーの言ったことが全く理解できなかった。いや、理解したくなかった。
その場に立ち尽くす私の横を、マイキーが通り過ぎる。
「もう俺に関わるな」
待ってよ。いきなりすぎるよ。どうして。私何かした?
色んな言葉が頭を駆け巡る。
何か言ってマイキーを呼び止めて、理由を聞かなければ納得できない。
でも言葉が出ない。別れを告げる彼の声は、もうどうしようもないんだ、と思わせる声だった。
私は涙を流すこともできず、その場に立ち尽くしていた。
***
昨日は散々だった。
帰ったのが遅くなり、お母さんに怒鳴られたし、宿題も終わっておらず、結局深夜の2時に就寝することとなった。
おかげで見事に寝不足だ。
眠い目を擦りながら廊下を歩いていると、見慣れた金色の髪が見えた。
「マイキー、おは――――」
「……」
いつもの習慣で挨拶した私を、まるで存在していない人かのようにマイキーは通り過ぎていく。
そうだ、昨日別れたんだっけ。
私は泣きそうになるのを堪えながら、自分の教室へと向かった。
***
「えええ!?佐野くんと別れたぁ!?」
「ちょっ、ちょっと声大きい!」
「ぶふっ」
あまりにも大きい声を出す友人の口を塞ぎながら、私は昨晩の出来事を話す。
「いやぁ、それ唐突すぎない?なんかありそうだけど」
「そうなんだけど、話してもらえないから何もわからなくて」
「ん~……」
友人は顎に手を当て、しばらく沈黙すると「そうだ!」と何か閃いたというように手を叩く。
「龍宮寺くんに聞いてみよう!」
「それも考えたんだけど、マイキーに口止めされてるかも……」
「でも佐野くんとよくいるのは龍宮寺くんじゃん。聞いてみて損はないと思うけど」
「そうだけど……」
「あ~、もう!」
ガタッ、と勢いよく席を立った友人は、私の手を引きスタスタと歩きだした。
「ちょ、ちょっと!どこ行く気!?」
「龍宮寺くんとこ!」
「えええ!?」
私はそのままずるずると引きずられるように友人に連行される。
確かに龍宮寺くんなら何か知ってるかもだけど、真実を知るのが怖くもある。でも何も知らないまま別れるのは、もっと嫌だ。
「私一人で行ってくる」
「……大丈夫?」
少しだけ心配そうな表情をする友人に、力強く「大丈夫」と答えると、私は龍宮寺くんを探し始めた。
***
「いないんですけど……」
階段の踊り場に座り込んで呟く。
もしかしてマイキーに連れられて他校に行った……?
それとも休み……?
そんなことを考えていると、頭上から「名前?」と私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「龍宮寺くん!」
「何やってんだこんなとこで」
龍宮寺くんの手には揚げパン。
わざわざ買いに行ってたのね……、と私は苦笑いをする。
「って違う違う!あのね、龍宮寺君。マイキーのことなんだけど」
「何も知らねえよ、俺は」
私が言い終える前に、龍宮寺くんはそう言い放った。
これは、知ってる。絶対知ってる。
なぜかそう確信した私は、去っていこうとする龍宮寺くんの前に立つ。
「私、何も知らないままは嫌なの」
「だから何も知らねえって」
「……話してくれないとエマちゃんに言っちゃうから」
「はぁ?」
「龍宮寺くんがエマちゃんのこと好」
「待て待て!なんで知って……いや、あー……」
頭に手を当てながら龍宮寺くんは「わかったよ」と言って、真剣な顔で話しはじめた。
「マイキーはお前を守りたいんだよ」
「どういうこと……?」
「俺らみたいな奴とつるんでると危険だからだよ」
「そんなの今更でしょ」
「パーの件、知ってるだろ」
そこまで聞いて、私はハッとした。
パーちんくんの話は私も聞いていた。友達の身内や彼女がひどい目にあわされた、って。
「お前はマイキーの女だ。狙われる可能性はでかい」
「……」
「だからマイキーはお前を遠ざけたんだよ」
「それは……他の子にも言えることでしょ……」
「あ?」
「エマちゃんだって、ヒナちゃんだって、みんな東卍の人に関わってる!なのになんで私だけ……っ」
「エマは俺が守る。ヒナちゃんはたけみっちが守る」
「じゃあ私は……?私は遠ざけられて!意味わかんない!!ばか!!」
泣きたくなんてないのに涙が溢れる。
龍宮寺くんにこんなこと言ったって無意味なのに。
「ケンちーん。揚げパンまだー?」
だるそうな声が階段の上から聞こえてくる。
私はその人物――マイキーを涙目で睨み、階段を上る。
「……」
私を一瞥して、すぐ目線を龍宮寺くんに戻すマイキーの頬を私は、
パシンッ
思い切り叩いた。
「何……何よ、守るためって!私そんなの頼んでないよ!守ってほしいなんて思ってない!だけどマイキーは私のこと遠ざけないと守れないの!?傍にいてくれないの!?傍で、傍で守ってくれないの……!?」
涙で視界が滲む。
自分でも支離滅裂で無茶苦茶なことを言っているのはわかっているけれど、思いが溢れて止まらない。
「なんで……傍にいてくれないの……?私はマイキーが傍にいてくれれば、隣にいられればそれでいいのに……」
マイキーも龍宮寺くんも何も言わない。
「何か言ってよ!」
懇願するように言った私を、マイキーは優しく抱き締めた。
「俺、ダセェな」
ぎゅ、と抱き締める腕に力がこもる。
「名前のこと守るには遠ざけるしかないと思った。俺の傍に居たらいつどこで何があるかわからねぇ。名前には怖い思いも痛い思いもしてほしくなかった。普通に幸せに過ごしてほしかったんだ。でもそれは間違ってたんだな」
マイキーは私から離れると、今度はまっすぐに私を見て、柔らかく微笑む。
「俺も名前の傍にいたい。名前に傍にいて欲しい。名前のことは俺が絶対守る。何があっても」
「……うん」
「だから、名前、もう一回俺と付き合ってくれる?」
「当たり前だよ、ばかっ」
そう言って私はマイキーの胸に飛び込んだ。
そんな私をマイキーは優しく受け止めるのだった。
***
「おー、終わったかー?」
「龍宮寺くん!」
「マイキー、揚げパン」
龍宮寺くんはマイキーに揚げパンを渡し、「じゃーな」と笑顔で言って立ち去る。
そういえば私、龍宮寺くんにばかって言ったような……。
「あ、あの龍宮寺くん!さっきはごめんね!」
去っていく龍宮寺くんに言うと、龍宮寺くんはひらひらと手を振る。
これは気にしなくてもいいということなのだろうか……?
「名前」
「何?マイキー」
名前を呼ばれ振り返ると、唇に軽く口付けをされた。
「ちょ……っ!?」
真っ赤になりながら唇に手を当てる私を見て、マイキーは悪戯っぽく笑う。
「お前、今日から俺のモン、な?」
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