*佐野万次郎*
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白色のセーターに、赤いスカート。
髪型はハーフアップにして、紺色のリボンをつける。
そしてお気に入りのブーツを履き、私は自宅を出た。
今日は友達の誕生日。
自分がおしゃれしても仕方ないのだけど、こういう何か特別な日はおしゃれしたくなるものだ。
それに、その友達は、おしゃれした私なんかよりもずっと可愛いのだ。
待ち合わせ場所に着くと、友達が「名前ちゃーん!」と勢いよく手を振っているのが見えた。
「ごめん、エマちゃん!お待たせー!」
私は手を振り返しながら友人——エマちゃんのもとへ駆け寄る。
すると、「よう、名前」と、もう一人私を呼ぶ人物がいた。
「マイキー!?」
そう、エマちゃんのお兄さんでもあり、東京卍會の総長を務める、マイキーこと、佐野万次郎がいた。
「今日はマイキーにも来てもらっちゃったんだー」
にこにこと私の腕とマイキーの腕をつかみ、ぐい、と自分に引き寄せるエマちゃん。
「へへーん、今日は二人とも私に目一杯付き合ってもらうからねっ!」
そう言うと、エマちゃんは私に向かってウィンクをした。
やられた。
実を言うと、私はマイキーのことが好きだ。
以前それをエマちゃんに相談したところ、「任せて!」と、言われ、そのときはなんのことかさっぱりわからなかったが、まさかこういうこととは……。
だが今日はエマちゃんの誕生日。
主役はエマちゃんなのだ。私はマイキーに会いに来たんじゃなくて、エマちゃんを祝う為に来たのだ!
「じゃ、行こっか二人とも!」
「わ、エマちゃん待って待って!」
上機嫌で私たちと腕を組んで、エマちゃんは歩き出した。
***
「名前ちゃん、今日髪上げてるんだね!」
「う、うん、変?」
「変じゃないよー!ずっごく似合ってるし、可愛い!ね、マイキー?」
待ってくれエマちゃん、そこでマイキーに振るのか。
軽い絶望感に襲われている私とは裏腹に、エマちゃんは美味しそうにパンケーキを食べている。
「……ん」
マイキーの返答はそれのみだった。
ですよね……、と思いながらパンケーキを口に運ぶ。
エマちゃんはそんなマイキーに、「ちょっと!もっとなんか言うことあるでしょ!」と怒っている。
マイキーはなぜエマちゃんが怒っているのかわからないといった様子だった。
「え、エマちゃん!」
どうどう、とお怒りのエマちゃんを落ち着け、私たちはなんとも言えない雰囲気でカフェを後にした。
その後も、エマちゃんが色々気を遣ってくれたのだがマイキーは興味がないといった反応で、その度にエマちゃんが怒る、という状況が続いた。
***
時刻は夕方6時。
空も暗くなってきたところで、解散することになった。
「エマちゃん、言うの遅くなっちゃったけど、お誕生日おめでとう!これ、プレゼント」
「えっ!なになに、嬉しいー!」
なんだろー?と目をキラキラさせながら私があげたプレゼントの袋を見るエマちゃん。
そして、ドラケンくんから貰ったプレゼントと一緒にそれを抱き締める。
「ふふ、名前ちゃん、今日はありがとう!すっごく楽しかった!」
「私も楽しかったよ!また学校でね!」
バイバイ、とお互いに手を振る。
私はエマちゃんとマイキーが見えなくなるまで、そこを動けずにいた。
「一人で帰るの、寂しいなぁ」
楽しい時間が過ぎた後の寂しさに、思わずそんな独り言が出てしまう。
せっかくエマちゃんが機会を作ってくれたと言うのに、マイキーとはほとんど会話がなかった。
残念ではあるけれど、仕方ない。
トボトボと歩いていると、「名前」と、聞き覚えのある声に呼ばれた。
急いで後ろを振り返ると、そこにはエマちゃんと一緒に帰ったはずのマイキーがいた。
「え、マイキー……?エマちゃんと帰ったはずじゃ……」
「もう暗くなるし危ないから送れって、エマに怒られた」
ばつが悪そうに頬を掻くマイキー。
いや、でも、それはエマちゃんも危ないのでは?
「エマはケンちんに任せた」
私の疑問を見抜いたのか、ニヤり、と笑うマイキー。
ドラケンくん、呼び出されたのか……。
「(まあ、それでちゃんと来るドラケンくんは、やっぱりエマちゃんが好きなんだなぁ)」
ふふ、と笑っていると、「ほら、行くぞ」と、マイキーに手を差し出される。
「……その手は?」
「色々危ないだろ、だから」
「つ、繋ぐの!?」
「それ以外に何があんだよ……」
少し呆れたように言うマイキー。
ちょっと待って、まだ心の準備が、なんて考えていると、ぐい、と手を引かれる。
「早く帰んねーと余計暗くなる」
「そ、そそ、そうだねっ」
ドキドキとうるさく鳴る心臓。
まさかマイキーと手を繋ぐ……というか手を引かれている状態だけど、こんなことになる日が来るとは。
「(て、手汗とか大丈夫かな)」
「あのさ、名前」
「ひゃい!」
「髪型、似合ってる」
「……へ?」
「服も似合ってるし、可愛い」
突然の出来事に頭が追い付かない。
マイキーは何を言っているんだろう、一体どうしたというのか。冗談で言っているのか、それともエマちゃんに何か言われたのか。
ぐるぐると色んな考えが頭で回る。
私が何も言えずにいると、マイキーは立ち止まり、私の方へ向き直る。
街灯の下、マイキーの真剣な表情が見えた。
「俺、名前が好きだ」
心臓が跳ねる。
嘘でしょ、マイキーが、あのマイキーが、こんな平々凡々な私のことを好き?何かのドッキリか?
「え、あ……あはは、冗談やめてよマイキー……」
「冗談なんかじゃねぇ。本気だ」
確かに、マイキーの表情は真剣だ。
それでも信じられない、といった表情で、私は首をふるふると振る。
その様子を見て、マイキーは掴んでいた私の手を引き寄せ、私の唇に口付けをした。
「……これで、冗談じゃねぇってわかった?」
顔を真っ赤に染めたマイキー。
本当に、本当なんだ。マイキーは真剣だ。
気付くと、ボロボロと涙が零れていた。
「ごめん、いきなりこんなの、嫌だったよな」
「ちが、違うの……」
「嘘つくな、ほら、帰ろう」
さっきのことは忘れて、と優しい口調で言われる。
涙のせいでマイキーの顔が見えない。きっとすごく悲しい顔をしてる。
つらい顔で――笑顔で、私を慰めようとしてる。
「待って、違うの……!私も……、私も、ずっとマイキーが好きだった……っ」
私はとめどなく溢れる涙を必死に拭って、マイキーの目を見ながらはっきりと気持ちを伝えた。
マイキーは驚いた顔をしてから、はー、と息を吐き、私を抱き締めた。
「よかった……」
「マイキー……」
マイキーの背に手を回し、負けじと抱き締める。
どくんどくん、と少し早いマイキーの鼓動が聞こえて、なんだか余計に嬉しくなった。
「大好きだよ……」
「俺も」
そう言ってからマイキーは私の背から腕を離す。
私が少し寂しそうにすると、またマイキーの真剣な眼差しが向けられた。
「もう一回、キスしていいか……?」
控えめに言うマイキーの顔は、真剣だけれど少し赤くて。
そんな顔で言われたら、断れるわけない。というより、むしろしてほしいくらいだ。
「うん……」
私がコク、と頷くと、マイキーはまた触れるだけの、優しい口付けをした。
――ピリリリッピリリリッ
突然の音にびっくりして、お互いに一気に顔を離す。
音の正体は私の着信音だった。
今までの鼓動とは違う、驚きによって高鳴る鼓動をなんとか治めつつ急いで電話に出る。
「は、はい!もしもし!」
『あんた何時に帰ってくるの?もう外暗いんだから、早く帰って来なさいよ?』
「はぁー……お母さんか……。もうびっくりした」
『びっくりって何よ』
「な、なんでもない!すぐ帰る!」
そう言って終話ボタンを押す。
一部始終を見ていたマイキーはクスクスと笑っていた。
「え、え!?私なんか変なことした!?」
「だってよ、”は、はい!”って、緊張しすぎ!」
ぶはっ、と吹き出すマイキー。
一気に恥ずかしくなった私は後ろを向いて赤い顔を隠す。
「名前は可愛いなー、ほんと」
「からかわないでよ!」
「ははっ、からかってねーって」
「ううー……」
「ほら、早く帰んねーと」
柔らかい笑顔でマイキーはまた私に手を差し出す。
私はその手を素直にとり、一緒に歩き出す。
「そういえばさ、名前はいつから俺のこと好きだったの?」
「えっ」
「聞きたいなー?」
「うっ……はじめて、学校で見かけたときから……。一目惚れした……」
「じゃあ、初恋は?」
「マイキーだよ!」
それを聞いて、マイキーは満足そうに笑い、また私に口付けるのであった。
***
「うまくいってよかった!」
「おいエマ、なんで俺までこんなこと……」
「ドラケンだって気になるでしょ!あの二人の恋の行方!」
「いや俺は別に……」
マイキーと名前が告白をした街灯から少し離れた場所にある電柱。
そこにエマとドラケンは隠れていた。
どうやら暗がりでマイキーたちからは見えなかったようだ。
「でもでも、ちゅーまでしちゃうなんて……!マイキーも男なんだねぇ」
うんうん、と一人何かに納得しているエマを横目に、ドラケンは溜息をつく。
「おら、いい加減帰んぞ」
「はぁい」
そう返事をして、エマはドラケンの腕にしがみつく。
「おい、歩きづれぇって」
「聞こえなーい」
にこにこと満面の笑みでじゃれつくエマを見て、仕方ねえな、とドラケンは呟く。
その口元は、少しだけ、笑っていた。
初恋は実らないと言うけれど