只感謝。



打ち付ける雨の中を里まで急ぐ。
追手は撒いた。
里の結界まであと少しだ。
その思いがよぎり気が緩んだのか、ガクンと傷ついた方の膝が折れる。
地面とぶつかると思った瞬間、横から強い腕に支えられた。

「走れ!あと少しだ!」

低い声が厳しく飛ぶ。
その声に励まされ、ぎっと顔を突く雨を睨むように前を向き、共に走った。


医療忍者に応急処置を受け、報告を済ませた後。
濡れた身体を軽く乾かす為に、待機所で火に当たらせてもらった。
ちょうど皆出払っているようで、私達だけが此処にいた。
沈黙の中で身を寄せ合い、雨音と火のはぜる音だけが部屋に小さく響いている。
脚の間に包む様に私を座らせている彼が、不意に、火の方へ伸ばしている手の先をするりと絡めてきた。

「……すっかり冷えたな」
「うん。シノも冷たいね」

今回の任務はかなり危険な物だった。
怪我をして体力も消耗したし、更に追い討ちの様な雨。
追手を撒くのに役立ったから良かったものの、恐らくシノがいなければ私は無事には帰りついていなかっただろう。

「お前に怪我をさせてしまった。済まない……。辛かっただろう」
「シノのせいじゃないよ。それに、シノが居なかったら、私ここまで動ける状態で戻れなかったと思う。本当にありがとう」

シノは私が怪我をした分、チャクラを大量に使ってカバーしてくれた。
だから、シノも今は限界に近い筈だ。

「礼を言うのは俺の方だ。なぜなら、お前が怪我を負いながらでも諦めるなと俺を叱咤し、冷静に計画を立ててくれたお陰で、任務を果たせたからだ」

怪我をした私を気遣い撤退を提案したシノを、私は止めた。

「……ふふ。2人なら、絶対大丈夫だもの」

絡んだ左手にある揃いの指輪を、腕を伸ばして眺める。
彼は左手をぎゅっと握り込むと、私の首元に頬をつけて強く抱き締めた。

「……お前と一緒になれて、良かった」
「うん。私も」


心臓の音が重なる部屋で、暫く、私達は互いの体温を分け合って過ごした。




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