暁その他
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火が弾ける音に目が覚めた。
焚火の向こうに、片膝を立てて座る背中が見える。
白み始めた空の下、彼の吐く息が白く伸びた。
空を見れば、まだ藍も残るそこに、疎らに銀粒が散っている。
のそりと重い体を引き摺り起こすと、触れる澄んだ空気に抗議する様に、身が震えた。
息を吹きかけた手を擦り合わせ、焚火にやかんを掛ける。
身に残る温もりを掻き集めるように、外套の中に身を縮めた。
のろのろと過ぎていた夜が、漸く明けていく。
全く、昨夜は酷い夜だった。
なんせ冬のこの時期に、そこら中湿った地域に行ってきて、ターゲットを消してこいときたもんだ。
しかも、その相手は手強い上に水遁使い。
霧深い森の中、馬鹿みたいに広い湖の中で夜の間ずっと死闘を繰り広げる羽目になった。
土遁使いだからと送り込まれたが、私はそんなにチャクラ量が多くはないのだ。
相方の彼が大立ち回りを続けてくれたので何とかなったようなものだった。
全て終わる頃には、私はチャクラも気力もスッカラカン。
少し離れた安全な高台で、こうして夜明けまで休んで帰る事になった。
うちのリーダーが何を考えてるのか知らないが。
地盤固めと言ったって、限度がある。
里を抜けた曲者だから、好き勝手やらせて貰えるのは有難いが、少しはこちらの健康の事も考えて欲しい。
震える息が揺れて漏れる。
これなら不潔で陰鬱な換金所で、角都が金を残らず一銭まで数え終わるのを待つ方が、よっぽどマシだった。
ちら、と大きな背中に目をやる。
まあ、それもこれも彼と2人で過ごせると思えば、相殺されるのだが。
明けの星空の下、足下に広がる霧世界を睥睨する眼は、何を見つめているのだろうか。
カタカタと熱気に揺れる蓋が音を立てた。
茶を注いだカップを手に、彼の方へ歩み寄る。
「ほい。見張り助かった。ホントありがとー」
「おや。ありがとうございます」
ひょいと眉を上げ、カップを受け取る。
隣に腰掛けて一口飲み下すと、冷えた身の内に熱が染み渡った。
思わずぶるぶるっと体が震える。
「少しは休めましたか」
「お陰様でね。見張り代わるよ。少し休んだら?」
気遣ってくれる鬼鮫を見上げると、いえ、と彼は霧の海へ視線を流した。
「あまり……、この景色の中に長居はしたくないので、ね」
霧に沈む森の中、彼の視線の先には何も無かったけれど。
彼の瞳は、いつかの遠い何かを透かし見ているように思えた。
頬に、仄暗い寂寞の影が差す。
思わず、彼の袖をぎゅっと掴んだ。
彼の心が、何処かに傷付きに行ってしまう気がしたから。
私が隣に居る時に、そんな思いはして欲しくなかった。
「じゃあ、さ。ちょっと寄り道して、街で団子屋にでも行ってお茶飲もう。お腹すいたからさ、少し付き合ってよ」
行こう、と彼に手を差し出す。
彼は驚いた様子で目を見開いてから、口元を緩めてその手を重ねた。
先に立ち、繋いだ手で彼が立ち上がるのを扶けてから、彼の顔を少し覗く。
私を見返す顔に、もう霧景色の様な憂いは無かった。
それに満足して頷き、荷物を片付けに掛かる。
水遁で焚火を消して、自分の荷を肩に担ぐ彼が、呟くように私に言った。
「そのままでいて下さいね。清香さん」
「え?なに、それ」
「いえ、ただ……気軽に貴女の誘いに乗れるのを、私は結構、気に入っているんですよ」
一人納得したように目を伏せ、少し呆れた様子で笑みをこぼしてみせる。
どこか安堵した息を吐きながら。
彼にしか分からない事を話しているのだろう。
気にならないと言えば嘘になるが、団子屋に誘うのと同じ気軽さで訊ねて良いものでもなさそうだ。
今、こうして話してくれるという事は、いつか、きっと話してくれる時がくるのだろう。
ならば、その時まで。
「そっか、良かった。なら遠慮なくまた誘うとするね」
変わらず、彼を想い続けよう。
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