暁その他
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「おや、清香さん。生きて戻られた様で、何よりですよ」
「うん。お互い無事で何より。寒いから茶でも一杯どう?」
アジトに戻ると、私を見かけた鬼鮫が笑った。
土産に入手した茶葉を軽く振りながら近寄ると、彼は了承して湯を沸かしにかかってくれた。
彼はとても親切なのだが、きっと私にそれ以上の物は抱いていない。
私も同じだ。
だからこそ、この距離は心地よい。
お互いに過干渉もせず、欲しい分だけをお互いに分け合う。
互いに尊重しながら、平然と見下している。
こぽこぽと茶を注いだ湯呑みがほわりと湯気をのぼらせる。
「まだ熱いよ、気を付けてね」
それを手渡す時に鬼鮫と手が触れ、湯気の向こうの瞳に虚ろな熱が宿って見えた。
どちらともなく顔を寄せ、舌を絡める。
ざらりと彼の舌を軽く舐めてから、すいっと離れる。
「疲れてるから、ベッドがいいな」
「そうですねぇ、そうしましょう」
静かに、ただ静かに、お互いを貪る。
粗末なベッドや水音や、肌のぶつかる音だけが騒がしい。
痛いとか気持ちいいとか、そんな事すらどうでもよくて、ぼうっと熱に漂う。
こんな行為などどうでも良くて、ただ、自分の何かが満たされるのを静かに待っていた。
終わった後に、壁を見たまま呆けていると、先に身なりを整えた鬼鮫が暁の装束を軽くかけてくれた。
「あまりだらしないままでいると風邪を引きますよ」
「うん。……ありがとう」
事後の気だるさを引きずりながら身を起こす。
そこらに置いていた飲みかけの茶を取って、啜る。
お土産価格だった、やたら高級な事後の水分補給。
何かを台無しにしてしまった様な罪悪感を苦味で感じながら、飲み下す。
「淹れ直しましょうか?」
冷めた茶を飲む私に、彼も冷めた湯呑みを持ちながら問う。
いや、と首を振り、「このままでいいよ」と答えた。
熱冷ましには丁度良い。
構わず飲み続けると、彼も頷いて湯呑みに口をつけた。
少し高いだけのお茶を、欲を優先させ冷めきった状態で静かに飲む。
この様子が、私たちの関係にはお似合いだ。
干した湯呑みを置いてから、彼は立ち上がる。
「行くの?」
「ええ。ご馳走様でした」
ではまた、いずれ。
欲も冷めたいつもの瞳で、彼は扉の向こうに消える。
うん、またねーと不確かな挨拶を返して、私も腰を上げた。
シャワーを浴びに足を向ける。
そしてまた、何事も無かった様に。
異常な日常の暁へと、私達は戻るのだ。
.
8/8ページ