暁その他
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木々の隙間から、昼の光を仰ぎ見る。
最悪な実験の材料にされて以来、一目覗く事すらかなわなかった光だ。
生け贄だ聖なる儀式だと全身の細胞を弄ばれ、私がなった物は化物だ。
しかも地獄の様な苦しみの果てに出たその結果は「失敗」だという。
彼らの作りたかった化物のなり損ないである私は、以来、完成品に近いサンプルとして飼われる事になった。
けれど、それも長くは続かない。
つい先日、「完成品」が出来たとの報告がここに届いた。
そうなれば、私の辿る道は一つ。
処分だ。
彼らから最後の接触があった時、私は覚悟を決めた。
贄として差し出された彼らの中の一人に突き立てる杭を渡された時。
私は手足ごと鎖を千切った。
皮肉な事に彼らに与えられた力のおかげで、私はこの程度では死ぬ事がない。
ある行動さえ繰り返せば。
この教団に捕らえられてから、幾度も死を望んだ。
だが、彼らによってそれは今日まで叶わなかった。
今さら大人しく朽ちてやるつもりなど毛頭ない。
死に方くらい、自分で決めて終わってやる。
後ろを振り返り、ふ、と笑みがこぼれた。
点々と続く赤い跡。
自由の代償。そして証。
痛みさえも今は幸せに思える。
鬱蒼と茂り薄暗い森を、繋がりかけた足を引きずり歩く。
もう少し、歩こう。
明るい場所がいい。
教団を出てもう3日経つ位か。
そろそろ意識も霞むだろう。
草木や土の匂いを楽しみつつ歩いていると、不意に光に目を奪われた。
見上げると、この場所だけ枝が伸びずに開けている。
陽の温かさに小さく笑い声がもれた。
こんな日だまりで眠るのはさぞ気持ちが良いだろう。
早速私は力を抜くと、地面に倒れ込んだ。
ああ、予想通りの温もりだ。
いくら化物とはいえ、もうこの身体は限界だ。
もう、目を閉じてしまおう。
これで、悪い夢は終わりだ。
「ぁあ? んだよ、やっと見つけたってのに、虫の息じゃねぇか!」
無遠慮な大声に眠りを阻まれる。
薄目を開くと、随分と柄の悪そうな男がこちらを覗いていた。
誰と問おうとして、首に下がったペンダントから正体を得た。
「は、は。教団本部の奴か。残念、でした。もう救うべき者はいない。倒すべき者も、もうじき死ぬよ」
笑ってやると、男は嘆息して頷いた。
「確かにな。全くすげぇ臭いだったぜ。2、3日経ってんだろアレ」
「ああ。残念、無駄骨だよ。さ、私の事は放っておいて。お家に帰って、報告でも、何でもしなさいよ」
邪険にして、今度こそ目を閉じる。
切り刻まれたって、殴られたって、構わない。
ここで今死ぬのは、誰でもない、私の意思だ。
「へぇ……」
男の呟きが聞こえた。
すると、次には何か棒を手に握らされて固定される感覚。
それすら薄れる意識には遠く思えた、次の瞬間。
久々の感覚と共に、強制的に体内に生命力が流れ込んできた。
ハっと男の方を見ると、嫌な予想通りの光景があり、怒鳴りつける。
「な、何してるの!!」
「っハァ、生き返ったな」
「何で……っ」
「こうすりゃ生きられるんだろ?」
生温かい赤が大量に手を伝う。
男の胸を黒い杭が食い破り、浴びる程のそれが飛沫き出す。
私の手に杭を握らせる男の手は、引いても振ってもびくともせずに、私に男を殺させ続けた。
血の気が引く顔と反対に、私の心臓は拍動を増す。
「やめ、やめて……私は、もう誰も殺したくない!!」
私の、この化物の生き続ける条件。
殺し続ける事。
定期的に殺戮行為を行う事で、半永久的な不死を得る化物。
それが私だ。
男の亡骸が私に被さってくる。
絶望を覚えながらその重さを受け止めた。
と、途端に身体が窮屈になった。
気付くと、死んだはずの男は腕を回してしっかりと私を抱きしめていた。
低い笑い声が鼓膜に響く。
「ゲハハ。驚いたろ、なァ」
「どう、して」
「俺は成功例だ」
息を飲む。
この、男が。
「お前さぁ、俺と来いよ」
「は? あんた私を始末しに来たんでしょ?」
「ああ。でも気が変わった。失敗例なんて聞いてたけどよぉ、やっぱりジャシン様の祝福は確かに現れてるじゃねぇか!」
ギラギラと瞳を輝かせ、狂信者は宣う。
「殺し続ける事が出来る、不死だから互いにどんな痛みも共有できる。最高の組み合わせだぜ、オイ!」
「冗談じゃないわよ! 復讐は果たした、もう殺しは、」
「だぁから、お前は俺を殺し続ければいいんだよ」
言いながら男は身を起こし、密着していた身体が離れる。
次いで、ずぷりと男の胸から杭が抜かれた。
「最っ高だぜ、一緒に味わう死の痛みはよォ……」
恍惚と呟きながら、未だ生温かい赤を滴らせる杭に頬擦りする。
背筋がぞくりと戦慄した。
「お互いに殺し合い、お互いに痛みを共有する。俺達は2人揃って教義の体現者になれんだぜ」
「何で私がそんなものにっ……」
「自由に生きられるとしても、か?」
言葉を失う。
男のこの言葉は私には魅惑的過ぎた。
捕らえられたあの日以来、私が本当に望んでいたのは。
口の端を吊り上げた顔が、額の付きそうな位置まで近付く。
「お前が生きるのに必要な分だけ、お互い殺し合えばいい。後は、好きな様に生きられるんだぜ?」
なァ、と男は囁く。
「俺と一緒に、来いよ」
「ねぇ、本当に大丈夫? 本部の連中、怒るんじゃないの?」
「あ? なんでだよ」
欲望に負けてついて来たは良いものの、不安は残る。
隣の男は怪訝そうにこちらを見るが、私は支部の連中を殲滅したのだ。
また捕まって閉じ込められるんじゃないだろうか。
「んな訳ねぇだろ。俺達は教義を体現すんだ。こんなジャシン様の奇跡を信じねぇ奴居る訳ねぇって」
「……」
狂信者には言った所で無駄だった。
「あ。そうだお前、俺と儀式する時はちゃんと祈り捧げろよ。不信心者には罰が下るぜ。あと、――」
こんな壊れた奴に先行きを任せるのは不安だが、仕方ない。
今は他に頼る道も無いのだ。
いざとなれば、また同じ事を繰り返し、今度はこっちが男を丸め込んでやればいい。
「まぁ、これからよろしく。命の源さん。精々殺して生かせてもらうわ」
「ゲハハ。ああ。気の強ぇ女は嫌いじゃねぇぜ」
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